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青子の物語 プロローグ&第八話:碧の死

青子の物語



ゆめとあいともうひとつ何か


ずっと探してきたけれど、


目を閉じれば


ねえ、


あなたの笑顔


ゆめでもあいでもなく


あなたの笑顔














誰?


誰?


泣かないで、こっちにおいで。


ひとりでそんなところに立っていないで。



また、あの夢だ。


真っ白なもやの中で、誰かが泣いているの。



わたし、手を伸ばしたいのに、



その前に、消えてしまうの。






第9話:碧の死




死んだ?

碧が?死んだ?

……………………。

いやだ。

うそだ。


死ぬはずない。

嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。


やめて。

死なないで。

明日も会えるでしょ?

あの場所で。

約束なんてしてないけど。

だって、

わかってるじゃん。

私も、

碧も。



うそだ。

この世の何もかもを憎んでやる。

こんなところにはもう、うんざりだ。

私も、もうすぐ逝くから。

待っていて。


だって、あなたしか、私にはなかったのに。

たった一つのこの世につなぐロープ、

生きる意味

生きるすべてだった。

どこにも行かないって約束。

それを、なくしてしまった今、

ここには、なんの意味もない。

ただの、ハコ。


あなたがいないなら、すべてがないの。

わかって。


命に代えても、あなたを守りたいとすら思った。

すべてがあなたにあった。

だから、生きられた。

我慢できた。

世界を素晴らしく思えた。

なのに、もう、この世には意味がない。

なんで、碧がいないのに、この世界は続いているの?

意味がわからない。

誰も気づかないの?

こんなに世界が暗くなったのに?

どうなってるの。


もういや。

たすけて


ここはどこなの?


みんないなくなれ!


いいえ。わたしがいなくなれ。



あなたに会えるなら、なんだってする。


どうすればいい?


わたしが死んだらあなたに会える?


もし、死後の世界なんてなかったら?会えなかったら?


碧、もう一度生まれ変わる?


あなたに会える?


どこにいるの?


夢?


これは夢?


何度泣いても、何度眠りから覚めても、碧、あなたに会えない。


七月の快晴、空は雲ひとつない真っ青。

わたしの色。

碧は死んだ。

この日はわたしの命日だ。


7月1日。

めずらしく穏やかな気持ちで目が覚めた。

なのに私は泣いていた。

目が覚めたら泣いていた。

こういうこと、よく本とか映画でみたけど、実際あるとは思わなかった。

寝ていたのに泣くなんておかしいと思った。

なんで泣いてしまったんだろう。

今日も碧と同じ教室で会えるのに。

変なの。

早く学校に行きたい。

私の世界を明るく照らす、そんな人、碧は。

全くこの世の中は美しい。

なんてきれいなんだろう。

空は。

“空が青くてよかった。”

いつだったか碧が言った。

私の色。

この世界をいとおしいと思えた。

碧に会えたこと。

本当に素晴らしかった。

この世の中にこんな人がいるんだ、と思った。

くだらなかった世の中に色ができたの。

毎日笑えた。

素敵な毎日。

今日も続く。

きっとずうっと・・・・・。

「いってきまぁす。」

重い鉄のドアをあけた。団地のコンクリートでできた階段はまだ少し湿気っぽかった。でも、外は今日も快晴。

雲ひとつない、私の色。

夏服が好きだ。

碧と出会ってから好きなものがなぜか増えていく。

白いセーラーは、太陽の光を受けるとますます白くなる。

紺色のスカーフが風になびくと、こっちまで軽くなった気持ちがしてくる。

暑いのに、すがすがしい気持ちになれる。そんなものだ、夏服。

雀がさえずって、いかにも朝らしい。木の葉はもう、木漏れ日を作り出している。きれいきれい。

私は風景画が好き。

だけど、どんなにきれいな風景画も、どんなに写真みたいな風景画も、実物にはかなわない。あたりまえだ。生きているから。

こんなに“生きている”ということを、大きく大切なことと思えるようになったのも、かなりの変化だ。碧は私にいろんなものを与えてくれているみたい。

学校の校門に数台の車が見える。

よく見ると、人だかりができている。

テレビカメラもあるみたい。

なにかあったのだろうか?

“数台の車”のなかに、パトカーと救急車があるのに気がついたのはだいぶ学校に近付いてからだった。

交通事故?

たくさんの報道者からいっぺんに情報が私の耳に入ってきた。

「こちらが、今朝、少年が自殺した高校の正面玄関です。詳しいことはまだ分かっていません。」

「自殺した生徒は、十七歳で、いじめがあったのでは、とのうわさも入っています。しかしまだ詳しいことは分かっていません。わかり次第、お伝えします。」

・・・・・・・・・・・・・。

自殺?

この学校で?

ありえない。

こんなバカみたいないい子ちゃん学校で。

みんな幸せなくせに。

誰が・・・・・・?


碧?


なんで?

なんで、いま、碧が浮かんだんだろう。

ありえないよ。変なの。

ばかだな。


そう考えたのに胸がざわざわしてならない。

どうして?


「碧・・・・・・・」

早く会いたい。

報道者や野次馬を押しのけて、学校に入った。

急いで、走って教室に向かった。

みんな席についてシンとしている。

碧、碧・・・・・・。

周りをみまわした。

・・・・・。

見回すまでもない。

碧は私の隣の席だ。


となりには誰の影もなかった。


碧・・・・・。


心臓がばくばくいっていた。

ガラッ

と、扉が開いて、担任が入ってきた。顔が真っ青だ。担任の、口が、開く。

やめて。

「みなさん、心を落ち着けて、聞いてください。」

教室は一瞬ザワッっとなり、すぐにシンとなった。

「今朝、このクラスの・・・・・。」

先生は息をのんで、泣くのをこらえているようだった。

やめて。言わないで。泣いていいから、この先を言わないで。

「桜井・・・・碧くんが、亡くなりました。」





言わないでって言ったのに。






立ち上がって、教室を出た。

走った。

行く場所は決まっている。

屋上へ続く階段だ。

待っていて。

新しい中也の詩を覚えたの。

碧にきかせたくて。

まるであなたのような詩。



屋上へ続く階段には黄色いテープが付けられて、入れなかった。

でもいつもより光に満ちていた。

私にはわかった。

あぁ、碧は、光に出れたのね。

わすれない。

あなた以外の人間なんて、信じない。







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