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第六話:いじめ

僕はもう何も考えなくなった。

どーでもいい毎日。過去は過去だ。今の僕を縛り付ける資格はない。

でもやっぱり時々頭の中に浮かんできて怖くなる。

そんな毎日だった。


そんな僕にとって今は学校が一番安らぐ場所だった。授業は集中してれば他のことを考えなくてもいいし、休み時間はひろみや秀作、二年から仲良くなった楓や祐樹なんかと話してバカなことをしていると楽しかった。


でも・・・・・・・・・・・・

このぽっかりあいた、空虚な感じは何なのだろう。

家であんな事があっても学校(ここ)ではこんなに普通に振る舞っている。

これは僕が望んでいることだ。

でもなんで?

これが、このことがなんだか無性に悲しくなったりするときがある。

きっとそれはひろみも一緒だ。

相変わらずひろみは毎日塾に通っていた。

毎日毎日学校が終わるとすぐに塾に行く。

そのおかげかひろみの成績は右肩上がりだ。

父さんや僕の二人の母さんについての思いを打ち消すために勉強をして成績をそこそこ取っていた僕をもうすぐ抜きそうだ。

「ひろみ、今回の中間すごくない????僕より全然いいじゃん。」

「でも、数学は負けたよ。」

「それ以外は、勝ってるじゃん。あと返ってきてないのは社会だろ?」

「どっちが勝つかな・・・・???」

「僕だな。」にやっとして見せた。

「悪いけど、俺、社会一番の得意科目だよ???」と、ひろみもにやっとした。


社会はその日の5時間目に返ってきた。

先生が「よし、テスト返すぞー番号順に取りに来い。」といった。

上田がもらって遠藤がもらって小川がもらって・・・・・次は木庭だった。

「木庭ぁ…おまえ・・・・少しは勉強して受けろよ。」と、先生が小声で言った。

木庭はムスッとして無言で席についた。

なんと今は木庭のすぐ後ろがひろみだった。

頼むからひろみ、何にも言うなよ・・・・・。

ひろみは何も言わなかった。

「桜井。」

ひろみと木庭に気をとられて自分の番になってるのに気づかなかった。呼ばれて答案を取りに行った。

「まあ、いい成績だが、この前より落ちてるぞ。頑張れよ。」

と、木庭に言ったように小声で僕にも言った。

「はい。」

答案を受け取って席に戻った。

点数を見てみると、八六点。

確かに下がっていた。まあまあな点数だけど・・・・・。

こりゃひろみには負けたな。

まあ、ここ最近勉強はしてたけど、覚えてるかどうかは謎だったしな・・・・・。しょうがない。

「お前、すごいな。どんどん点数上がってるぞ。これからもこの調子でな。」

ひろみが答案をもらっていた。

ひろみがちらっと答案をみて、まっすぐ僕の席にやって来た。

「アオ、どうだった?」

「まあまあ。ひろみは良かったんだろ?」

「まーな。」

「何点だったんだよ?」

「96」

「マジで!?すごいじゃん!!!!」

「でも、今回のテスト簡単だったし・・・・きっと、平均点高いぜ。十点代のやつなんてちょーバカしかいないよ。」

ひろみがそう言ったとき、木庭がすごい顔でこっちを睨んだ。

その時ちらっと見えた木庭の点数は十六点だった。

ヤバイ。

木庭が完璧にひろみにキレた。

こっちに来るか?

と、思ったがこの時は何事もなく終わった。

・・・・・。勘違いか?

もし、木庭にあれが聞こえていたらただじゃすまないだろ?

聞こえなかったのか?


クラスがえをしてから、僕はいつも木庭とひろみを注意してみていた。なんとなくだけど、この二人は危ない気がした。一度こじれたら大変そうだ。


授業が終わって帰りの時間になった。ひろみと帰ろうかと思って、ひろみを目で探した。が、ひろみは教室のどこにも見当たらなかった。カバンはあるから、まだ帰ってはいないんだろう。どこに行ったんだ???

しばらく待ってもこないから、僕は先に帰ることにした。

階段をおりて、昇降口にでた。靴を履き替えて、外にでる・・・・・。なんだか、人が殴られるような鈍い音がきこえた。

・・・・・? 気のせいか?

そのまま僕は家に帰った。

家はただ、いにくいだけの場所になっていた。

自分が異質だという事実。それに気づいているかもしれない母さんに優しくしなければならない気がした。そして、唯一僕の本当のことを知っている父さんはあれ以来優しく接してくれるけど、正直僕はどうしたらいいか分からなくなっていた。父さんは優しいけど、絶えず僕があのことをしゃべってしまわないか、そして家族を父さんの、大事な家族を壊してしまわないか見張っているようでもあった。だから僕は懸命に何も知らないころの僕を演じて、少しだけ母さんに優しくなった。自分の部屋に入ってほっとして、本当の自分に戻ると、疲れと、悲しさと、虚無感と、そして孤独が僕を襲って泣いてしまっていた。

 なんてつまらない毎日なんだろう。

何の喜びも楽しみもないただただ繰り返される演技と慰めの日々に僕はもう、うんざりだ。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

でも、死ねなかった。

本当は父さんから事実を教えられたあの日に、死んでしまおうと思っていた。

だけど、死ねなかった。

こわくて、こわくて、こわくて・・・・・・。

毎日が嫌で、生きているのが嫌で、死んだほうがきっと、僕のためにもなるのに、それなのに、僕は怖くて死ねないんだ。

「死ぬ」ということが、怖い。

この世にいなくなってしまうのも、怖い。

僕はなんて臆病なんだろう。

疲れた・・・・・・・・・・・。

人間にもスイッチがついてるといいのにな・・・・・。



次の日、一時間目が体育だった。

ジャージに着替えて、体育館に向かうときひろみと話していた。

ひろみはなんだか、今日、元気がない。笑ってもすぐ真顔に戻る。

いつものような、はっきりとした言葉も言わなかった。

「僕、最近腹筋ないんだよ。やばいやばい、弱ってる!!!ひろみは?」

といって、ひろみのおなかを触った。すると・・・・・

「いてぇ!」

といってひろみがびくっと身をすくめた。

「え?」

「・・・・・・・・。」

「お前もしかして・・・・・・」

やな予感がした。

昨日の昇降口付近での、鈍い音を思い出した。

「ちょっと・・・・筋肉痛でさ。俺も弱ってる!」

と、ひろみはおちゃらけたが、僕の頭の中にはもう予想がついていた。

「ひろみ、お前、昨日、放課後どこ行ってた??」

「べつに・・・・トイレとか。」

「木庭に殴られたんだろ?昨日のテストのことで。」

ひろみは一瞬だまった。そして必死な顔で言った。

「お前の言うとおりだけど、誰にも言うなよ。木庭だけじゃなくて他の奴らにも取り囲まれてリンチされた。だけど、平気だから、絶対に誰にも言うなよ。

それからお前も絶対に関わんなよ。」

「リンチ・・・・・。だけど、お前、それじゃあ・・・・。」

「いいから、絶対に関わんな。やばい!授業始まる!!!いそご!」

走って体育館に行き、そして、バスケをやった。木庭のグループのやつらは普段となんの変わりもなかった。

それから夏休みまで、まるで何もないように毎日が過ぎていった。

ただ、毎日放課後、ひろみはいなくなった。



夏休み。

僕は、家に居たくなくて、ほとんど毎日外出していた。友達の家に行ったり、図書館で勉強したりしていた。

ひろみとはほとんどあっていない。

普段の塾に加えて夏期講習にも行っているらしかったから、会うヒマがないのだ。


八月十日、夏休みもいよいよ折り返しだ。

僕はその日、図書館で勉強をして、お昼をたまたまいつもは行かないマックで食べた。そこで、僕はとんでもないモノを見た。

ひろみだ。

はじめ、ひろみも塾の合間に塾の友達とお昼を食べに来ているのかと思った。

しかし、一緒にいる奴らをよく見ると、なんだか知ってる顔ばかりだ。

クラスメイトだ。ひろみのとなりに座っている、よく顔の見えない奴は誰なんだ?

・・・・・・・・・・・・・・。

木庭だ。

どういうことだ?

まさか、いじめか?

ひろみと木庭の集団が店を出る・・・、僕は後をつけることにした。

ひろみたちは人気のない公園に入った。

「マック、ごちそーさまぁ。でもさぁ俺らまだおなか減ってんだよね。」

と、木庭のグループの奴らがひろみを囲んで話し出した。

「そーそー。だけど、俺達あいにく、いま、金もってねーんだわ。」

「南山くんは、秀才君だから、将来きっと金持ちになるじゃん?だから、今くらいさ、俺らに金貸してくれても、いいよね?」

「だからぁ・・・・金よこせっつってんだよ。この、クソが。」

といって、ひろみに誰かが蹴りをいれた。

それをきっかけにして、全員がひろみになぐりかかった。

リンチだ。

ひろみに、忠告されていたのと、恐怖から僕は動けなかった。

そして、ひろみはぼろぼろになって、財布から金を出した。

そうしてやっと、木庭たちはいなくなった。

僕はひろみに駆け寄った。

「お前なんで金あるなら先にださねんだよ。」

ぼろぼろのひろみがうっすらと笑って

「どっちしろ、あいつら、俺を殴る気だから・・・・。もう、順番立てみたいに決まってんだ。」

「“もう”って・・・・・今までも、金取られてリンチされてたのか?」

「そうだよ。でも、平気そうだったろ?大丈夫だよ。俺なら。

だから、絶対に手出すなよ。」

そう言ってひろみは衣服を整えて塾へ向かった。


・・・・・。そんなこといっても、毎回あんなふうに殴られたら死んでしまう。

何とかしなくちゃ・・・・なんとか・・・・・。

ひろみを、恐怖から助けられなかった自分が、なんて奴なんだろうと思った。

情けない。

卑怯だ。

最低だ。

だから、今度は助ける。

ひろみは、友達だからだ。

僕の大切な友達だから。



それから、僕は夏休みの間、何度も、そのマックに足を運んだが、ひろみや木庭には会わなかった。どうしたらいいんだろう。ひろみはきっとまだ木庭達からリンチをうけているに違いない。なんとかして止めたい。やめさせなくちゃ。

夏休みの最終日。

僕は思いついた。

秀作にも、言ってみよう。

きっと、僕と、ひろみの力になってくれる・・・・・。

トゥルルルルルル・・・・・

ガチャ、

「はい、もしもし、遠藤ですけど、何か用?」

なんつう電話の受け方なんだ・・・・絶対に秀作だな・・・・

「アオだけど、秀作?」

「あっなんだ、アオかよ!ひさしぶりじゃん。何?なんか用?」

「あのさ・・・・・ちょっと、相談があるんだけど・・・・」

「なんだよ、めずらしいじゃん。でも、俺、宿題まだ終わってないんだよね・・・・・写さしてくんない?そん時聞くからさ。やりながら。頼むよ!」

「いいけど・・・・・真面目に聞けよ?」

「わかってるよ。あたりまえじゃん。絶対だよ!じゃあこれからお前ん家いくから。じゃな。」

ガチャ

・・・・・・・。騒々しいな、あいつ・・・・。



ぴんぽーん

二階の窓から秀作にあがってくるように言った。

「じゃ、さくっと写しますか!!」そう言って、秀作は宿題のワークを取り出し、写し始めた。

僕はそのわきで読みたくもないマンガを読むふりをした。

「っしゃ!写し終わった。で、なんの話?」

「あのさ、実は、僕って言うよりも、ひろみのことなんだけど・・・・あいつ、今いじめにあってるんだ。」

秀作の顔は一瞬固まった。そしてヘらっと笑って

「あれだろ?あいつ、なんでも結構言っちゃう奴だから、誤解されて、相手をちょっと怒らせちゃっただけだろ?一回で収まるだろ、そんなん。」

といった。

僕は真面目な顔のまま言った。

「きっかけは、そうだったかもしれないけど、もうそんな時限じゃない。知ってるだろ?あの木庭の仲間達に、あいつ、たぶん夏休み中金取られて、リンチにあってる。」

秀作は、黙ったままだ。

「で、僕は何とかして、それを止めたいんだ。秀作だってそう思うだろ?だって、あいつの友達だろ?」

秀作はそれでも黙ったままだった。

「なあ、だからさ、いっしょになんか考えてくれないかな。どんな感じで止めたらいいかとか。それとか、いっしょに止めに入ってくれないかな。」

秀作は、困ったような顔でやっと口を開いた。

「あのさ・・・・それってさ、俺ら、関わんないほうが、いいだろ。確かに、ひろみは友達だし、いい奴だよ。でも、相手が木庭だろ?あいつらマジ、やばいもん。高校のヤバイ奴らともつながってて、何やってっかわかんねぇ奴らだぜ。俺らまでそんな奴らに絡まれたらやばいって。それに、金渡しときゃだいじょぶだろ、まさか殺したりはしないって。」

「そんな・・・・・」

愕然とした。

秀作はこんなやつだったっけ?

いや、秀作の言ってることもわかるんだ。そうしたほうが安全だ。

でも・・・・・・

「秀作。お前本気でいってんの?」

「そうだけど・・・・・マジ、おまえ、関わんないほうがいいって。それに、そのうち木庭達も飽きるだろうからさ。な。じゃあ、俺帰るわ。これ、ありがと。」

そう言ってワークを机の上に置いて秀作は帰った。

こんなことって、あるのか?

僕の生きてきた世界はこんなだったのか?

僕の求める友達像は、確かに楽しいことだけだったけど、だけど、実際やっぱり、友達は助けたい、助けなきゃいけないって思っていたのに・・・・・。

現実ってこんなもんか。

こんなとこが、僕の生きている世界か。

なんて、バカらしい世界なんだ。

美しい世界か・・・・・・・・・・・・・。


何であっても、僕はひろみを助ける。

僕は僕の思ったようにする。

必死で生きているひろみを、僕は知ってるから。

だから、もし、次に見つけたら、どんな状況でも、僕が止めに入ってやる。

変な計略はなくても。




次の日、長い二学期が始まった。

教室は夏休み前とは、違う空気をしていた。

三分の一くらいが日焼けをしていて、何人もの人が髪を切ってあった。

木庭たちのグループは髪が茶色のやつが何人かいた。

その茶色たちは教室の後ろのほうでなんだかガチャガチャやっていた。

安心したのは、そこにひろみがいなかったこと。

ひろみは楓や祐樹と話していた。

顔に傷もない。

よかった。ほんとに。

もしかしたら、秀作の言うとおりだったのかも・・・・木庭達は飽きたのかもしれない。僕はやっぱり怖かったんだと、このときわかった。


それからしばらくしないうちに担任がやってきて、始業式が始まるから並べといった。僕はひろみの後ろに並んだ。


白い制服がいっぱいつまった体育館はむしっとしていていかにも夏な雰囲気をかもし出していた。

暑い。

どうでもいい校長の話が長々と続いている。

ひろみの後姿をボーっと眺めながらいじめのことを考えていた。

木庭達は本当に飽きたのだろうか。

ひろみはなんでなんにも言わなかったんだろうか。

僕のため?

アーーーーあ・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・。

その時ひろみの首の辺りから肩にかけて黒っぽいアザのようなものを見つけた。

・・・・・・・・・・・・・・・。

この間のアザか?

でも、二週間以上も前のアザがこんなにくっきり残っているだろうか。

まさか・・・・・

ざらっとしたいやな思いが湧いた。僕のあんな考えは甘かったのかもしれない。

木庭がそんなに簡単に飽きるなんて程度でひろみをリンチしていたわけがない。

ひろみをうざがってる、憎らしいとまできっと思っているだろう。

飽きたりなんかしない。ヘタしたらきっと、殺すかもしれない。

秀作は“殺しはしないでしょ”といったが、木庭は切れたらヤバイから・・・・・わかったもんじゃない。



その後、僕はひろみにそれとなく夏休み中のことを聞いてみたり、なにをしてたかや、何か悩んでないかなんかを聞いてみたりしたが、ひろみは木庭については何も言わなかった。

いったいどうしたらいいんだろう、これじゃあ助けようにも助けられない・・・。

木庭はそれをわかっているのだろうか。学校では、少なくとも僕らの前では、ひろみをいじめているそぶりを見せなかった。


「ごめん、今日遊べなくなった。やっぱ、塾行くことにした。ごめんな。」

と、帰りのホームルームが終わったときにひろみが言ってきた。

「お前、今日はカンペキ休みだっつったじゃんかよ。」

「だから、ごめんって。休みなんだけど、数学、ちょっとわかんないとこあってさ、塾の先生に聞きにいきたいんだよね。ホントゴメン。今度なんかおごるからさ。」

「いいよ、おごんなくて。」

だってお前木庭に金取られてるから、大変だろ。・・・・と言おうとしてやめた。

ひろみはもしかしたら、この後、本当は塾になんか行かないんじゃないのか?

もしかしたら、木庭に呼び出されたのかもしれない。

「勉強頑張れよ。じゃーな。」

それだけ言って別れた・・・・フリをした。


ひろみの後をつけよう。

僕はそう決めていた。

僕は荷物をもって教室から出て、廊下の角を曲がってから、足を止めた。

それから教室の出入をじっと見張った。十分後くらいにひろみと木庭達が出てきた。

やっぱり。

それからひろみと木庭達の後をつけていった。

木庭達はひろみを取り囲んで歩いている。なんだかうまく聞き取れないが、時々ひろみににやにやしながら話し掛けている。

木庭達は、学校から二十分くらいの所にある児童公園に行った。僕は公園には入らずに公園を囲む背丈の低い木々に身を潜めた。

その児童公園は狭くって草が生え放題で、遊具なんてものは色が剥げ落ちたシーソーが一つと馬の形をした乗り物だけで、子供達には見るからに人気が無いようで、木庭達の他に人っ子一人いなかった。

木庭達の声も、僕まで十分届くくらいの広さしかない。

「お前それでさぁ、取ってきた?」

「俺らが頼んどいたやつ。まあいつものだけどさ。」

「黙ってんじゃねえよ。一週間も待ったんだからよ。」

「これ。」

と、ひろみがお金を差し出した。五千円だ。

「んだこのっこんなんじゃたんねぇんだよ!てめぇのがねぇんなら親のから取ってこいっつったろうがよ!」

と、一人がひろみに蹴りを入れようとしたその時、ぼくの身体は勝手に走り出していた。そしてそいつを殴り倒した。

ひろみが親の財布からお金なんか取れるわけ無い。ひろみの大好きな親の財布からなんて・・・・・・・・・。考えたら泣いてしまいそうだった。

「なんだお前!」

周りのやつらが睨みつけてきた。

「アオ!」

ひろみが叫んだ。

次の瞬間僕のおなかに蹴りが入った。

おなかのモノが全部出てしまいそうな感覚がした。

そして他のいろんなやつらに殴られそうになった。

それでも、僕は木庭だけでも殴ってやろうと必死になって取っ組み合った。

すると、ひろみも木庭達に殴りかかった。

鼻から鼻血が流れ出て、口の中が切れて、そこらじゅうが痛くなって気を失うかと思ったころ、

「お前ら何やってんだ!」

という声が響いた。

帰宅途中の先生に見つかってしまったのだ。木庭達はすぐに「やべぇ、」

といって逃げ出した。そのときだった木庭がスゴイ顔で僕のほうを見て「おぼえてろよ、桜井アオ」とだけ言った。

怖かった。

でも、僕達も先生につかまるわけにもいかないから、恐怖を抑えてひたすら走った。

僕達はいつもの公園のすべり台の下に隠れた。

ひろみが僕を睨みつけていった。

「何してんだよ。バカ。」

「バカはないだろ。」鼻血を手でぬぐいながら笑っていってやった。

「バカだよお前。お前・・・・・」

ひろみは泣いていた

「バカだよ・・・バカだよ、ほっとけよ・・・・・・・・・・・・ありがとう、ごめんな・・・・・ごめんな・・・・・・」

僕は「何謝ってんだよ。」と、笑っていってやるつもりが、目に涙が滲んできて、息が絶え絶えになってしまうほど、小さいころのように泣いてしまった。

それから、お互い何も言わないで、涙がかれた後、それぞれの家に帰った。

僕があの日何を考えて木庭に取っ組みあったのか、あんまり覚えていない。

ただ、必死だった。それだけ。

それからずっと、取っ組み合うことは無く、一方的ないじめとなった。

木庭達の、僕へのいじめとなった。

ひろみには、知られたくない。

ひろみはあの1週間後位から学校にこなくなっていた。

よかった。

ひろみが、勉強に集中できる。お母さんとも、うまくやっているかな。

僕は、ひろみとは違って、親なんか・・・・・どうでもいいから、ニセモノの僕の幸せな家族なんてどうでもいいから、お金なんていくらだって盗めるから、よかった。・・・・・。

ごめんね、父さん、弥生姉、さき姉。

ごめんね・・・・・ごめんね・・・・


     母さん



僕はもう、死んでしまいたい。

でも、死ねない。

それすらできない。

バカみたい。

ただただ、なぞるんだ、苦しい毎日を。


いじめはだんだんとひどくなって、初めはひろみのように学校外でリンチされて金を取られるくらいだったけど、しまいには学校での生活はすべて木庭達に支配されて、授業を妨害させられたり、給食にゴミを入れられたり、殴られたり・・・・・あげればきりが無いけど、それでも、それでも、僕はただただ生きていた。何にも見ないで、目を閉じて現実は悲しくて暗いから。

なにもかもを無視して、そう、自分をも無視して生き続けた。


そんな時に、あの笑顔が、現れたんだ。





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