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第四話:母親


「アオっ!アオ!!起きなさい。今日から二年生なんだからいいかげん朝くらい自分で起きなさい。ほら、おきて!!新学期から遅刻するの???」


毎日変わらない母さんの声で始まる一日。

着物を着つづける母さん。おとなしめの女性らしい人。

これは本当の母さん???『あの人』になるためにいつわってるんじゃないのか??それとも、もう本当にこういう女性になったのかな・・・・・。


ご飯をさっさとすませて、いつもより早めに家を出た。

今日は始業式の前に新しいクラス発表があり、それをみて、自分のクラスに移動しなければならないから、時間がかかるのだ。

「おはよ。」

後ろからひろみが声をかけてきた。

ひろみの告白があってから、僕とひろみは前より仲良くなった気がした。あのことはまだ話してないし、ひろみもあれから母親の話をしていないが、なんとなく、なんとなくだけど、仲良くいられた。

あの日は帰ってから、なにも調べる気にはなれなくて、・・・・・。あの日からまだ一度も屋根裏に行ってなかった。


そうして、僕は中学2年になった。


「クラスがえどうなってっかなぁ・・・。」とひろみが言った。

「結構クラスがえって重要だよな。3年は持ち上がりだし、修学旅行も、このクラスだしさ。やな奴いないといいな。」


「おっす。」

ひろみと話していると、後ろから秀作もきた。

いつもの三人で下駄箱のトコに貼り出されたクラス発表を見に行った。

僕は三組だった。

「俺とアオいっしょじゃん。」

「俺だけ離れた!!俺、五組だし。あっでも、五組、一哉いるじゃん。あっ!一哉だ。俺あいつとクラス行くね。じゃーなー」

秀作とはなれるのなんて、久しぶりだな。結構ずっと一緒だったしな。でも、ひろみと一緒だし、知ってる奴も何人かいるしな、まあまあなクラスだ。

「三組って西校舎だったよな??」

「そうだよ。二年の一、二、三組と四、五、六組は離れてるんだよ。」

「じゃ、もう行こう。遠いじゃん。西校舎。」

「うん。」


二年三組の教室に入るともう大部分の生徒が来ていた。

見渡すと、知った顔がいくつかあった。

あいつ・・・・・。

クラスの真ん中辺りで机に座ってまわりに何人かの友達を従えている奴がいた。あいつはたしか、木庭修司だ。前のクラスでもボス的存在で、いばり散らしていたらしいやつだ。逆らわないほうがよさそうだ。

このことをひろみに話そうとした時、

「そこ、俺の席なんだけど、」

と木庭にいっているひろみがいた。

「あ、まじで?わりーわりー全っ然わかんなかったわ。席なんてどうでもいいじゃんかよ。」

「そこに、座席表あるだろ。見とけよ。バカだな。」

ひろみのばか!お前のが、ばかだよ・・・・。

木庭にバカなんて言っちゃって・・・・・。

「あぁ!?んだ、このやろぉ!」

「冗談だよ。いいよ。座ってろよ。席なんかどうでもいいよ。」

ナイスフォローひろみ!でも、なんだか木庭の怒りは収まってないようだった。

ガラッ

そのとき担任が来て始業式が始まると告げて、事は終了した。

木庭は、ひろみをじっと見ていた。


その後どうでもいい校長やら生活指導やらの長ったらしい話のある始業式が終わり、家に帰った。

帰りはひろみといっしょだった。あれからひろみは毎日休まずに塾に行っていた。成績は順調によくなっていった。

「今日も塾?」とひろみに聞いた。

「うん。今日は学校がいつもより早く終わるだろ?だから、いつもより早めに塾が始まるんだ。」

「じゃあ、今日も遊べないな。」

「ごめんな。」

「別にあやまんなよ。僕もちょっとやろうと思ってることがあるし。」

「なにやんの?」

「手紙読むの」と、にやっとしてみせた。

「書くんじゃなくて???」

「そう、何通もだ。」

「なんだよ。お前・・・」って言ってひろみは笑った。

「それとさ、ひろみ、あの、木庭にはあんまり物事はっきり言うなよ。おとなしくしとけ。」

「なんで?」

「あいつとこじれたらめんどいことになりそうだし・・・・前のクラスでもそうだったらしいし。」

「なにそれ。」

「だから、なんでもいいからおとなしくしとけ!!!」

そういっても、ひろみはまだけらけらと笑っていた。


ひろみと別れて家に着いた。

さあ、今日はあれ以来入っていない屋根裏に行くぞ・・・・・そして、探すんだ。本当のことを・・・・・・。


約半年ぶりに入る屋根裏は、半年前とちっとも変わっていなかった。ほこりっぽくて薄暗い。父さんのダンボールをあけた。半年前のように何通かの手紙を取り出し、屋根裏を出ようとした。何通か手紙を取り出したとき、他の手紙より明らかに新しそうな手紙をみつけた。全部で六通ほどだった。

僕はドキッとした。なんだかわからないけど、怖くなった。だけど、見なくてはならないと思った。新しいほうの手紙をすべてつかみ、屋根裏を出た。


いつになく胸がざわついていた。息もあらくなっている。

それでも、それでも、見なくてはいけない。

手紙の消印は、十六年前だった。

・・・・・・・・・・。

あの最も恐ろしい考えがよぎる。いやだ!!見たくない!母さん!

心とはうらはらに僕は急いで手紙をあけた。



秀彰さんへ


ご無沙汰しています。元気ですか?私は、ようやく仕事にも慣れてきました。

奥様と子供さんたちも元気ですか?

いきなりですが、もう、お会いするのをやめようと思います。

秀彰さんは、ご家族を大切にしなければなりません。

私なんかと会っていてはいけないんです。

わかってください。

愛してます。

大好きです。

あなたは運命の人です。

だから、私は誰とも結婚しません。

あなたのことを思いつづけます。

でも、もう会いません。

さようなら。



“お会いするのをやめようと思います。”

・・・・・・・・・・・・・。

息がしずらい。

父さんは母さんと結婚した後も、姉さん達がもしくは僕が生まれた後も、『あの人』と会っていたんだ。どうして?なんで?別れたって父さん言ってた。母さんに言ってたもん。

母さんと婚約するだいぶ前に別れたって、言った。

言ったんだ!

あれは嘘?

父さんは母さんに嘘を言うの?

あんな普通に、とっても本当らしく・・・・。

それでも疑う母さんだけど、少なくとも僕には嘘には聞こえなかったのに。

父さん・・・・・・。



もう一通手紙を手にした。

消印は一五年前だ。


秀彰さんへ


ごめんなさい。

もう、お会いすることも、連絡も、やめますと、言ったのに・・・・

どうしても、会って話さなければならないことが起こってしまいました。

都合のいい日に連絡を下さい。




『どうしても、会って、話さなければ、ならないこと』って、・・・・。何?

最悪だ。

僕はもうどうにかなってしまいそうなほど、頭の中がぐるぐるしている。寒気がして、なんだか無償に泣きたくて、小さい頃のように、大きな声で泣きたい。神様、僕を、壊さないで。



秀彰さんへ


この前はお忙しい中、わざわざありがとうございました。

私の赤ちゃんをうっとうしく思っていますか?

もし、思っていたら、正直におっしゃってください。

私、あなたの前から消える覚悟もあります。

どんなことでもできます。

ただ、この子は確かにあなたの子供です。そのことだけでも、どうしても知っていて欲しかったんです。この子の為にも。

奥さまには本当に申し訳ないと思っています。

離婚もお金も求めてはいません。

ただ、この子供にほんの少しでも愛を傾けてください。


お返事お待ちしています。




あぁ・・・・・・・・・。

僕の運命はどうしてこうももろいものなのだろう。神様なんか、いないのか?

消印は十四年前に変わった。



秀彰さんへ


あのお話は本当ですか?

私の体が弱いばっかりに、ごめんなさい。

でも、奥さまは大丈夫なのですか?

赤ちゃんのこと、私のことを知っているのですか?

赤ちゃんを守ってください。

私、先が長くなさそうです。

赤ちゃんの名前も知らないままいなくなってしまいそう・・・・。

最近は起きていることさえつらくて、寝てばかりいます。

寝ていてそのまま死んでしまいそうで怖い。

怖いです。

秀彰さん。言ってはいけないのはわかっています。

でも、でも、

会いたいです。

会いたいです。




秀彰さんへ


手続きは、三日にお願いします。その日一日退院を何とか担当医から許されました。私の赤ちゃんと言うことは内緒なんですね。

素敵な秘密になることを祈っています。

あなたの家庭を壊す秘密にならないように。

そんなこと、ゼロに等しいかもしれませんけど。

私のことをちっとも知らずに育つと思うと、少し・・・・寂しいです。

けど、これがこの子のために一番良い方法です。

秀彰さんよろしくお願いします。




秀彰さんへ


本当に本当に今日はありがとうございました。

秀彰さんに会えて嬉しかったです。私の人生で秀彰さんに出会えたことは本当に運命だと思います。大好きです。

さようなら。

永遠に愛します。

さようなら。




僕は一息もつかずに新しい封筒のすべてを読んだ。もう、僕の頭の中はパンクしそうだった。でも、なんだか気持ちがやけに冷めていた。

この赤ん坊は僕だ。

どこにも僕だということは書いてないけど、絶対に僕だ。僕の母親は『あの人』だ。母さんの憎んだ、父さんの愛した、


     『あの人』


がちゃ

何分間か一人でぼうっとしてしまっていたとき、玄関のドアが開いた。

「ただいま」

いま一番会いたくない人の声だった。

めずらしく、早く帰ってきた父さんの声だった。




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