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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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93話 元神

 昼食を食べた後、特にすることのない私は家の中を一通り案内してもらうと中庭の見える縁側に座り陽に当たって過ごしていた。

 問題が起きないというのは良い事なのだろうが、こうも静かすぎるのもどうにも落ち着かない。

 目の前ではエレナちゃんと桜ちゃんが裏にある森から持ってきたのか、身長と同じくらいの大きさの木の枝を数本引きずりながら運んでいた。

 ただ、生徒会室の賑やかさに慣れてしまったのか、その音すらも静かに聞こえる。

 みんなに心配をかけていないのか不安になっていると、隣にルナさんが腰を下ろす。

「ここにいたの」

「あの……」

「どうかした?」

 彼女は持ってきた急須を傾け、湯飲みに二人分のお茶を入れる。

 この先を聞いても良いのか渋っていたが、渡されたお茶を一口飲み考えをまとめる。

「その、桜ちゃんはルナさんのお子さんじゃないんですよね……」

「あの子が言ったの?」

 私の足踏みは何だったのか、平然と来るその問いに無言でうなずく。

 彼女は黙っていたが、しばらくすると過去を懐かしむように話し出す。

「そうね、あなたの想像通りよ。半年ぐらい前だったかしら、捨てられていたところを拾ったのよ」

「半年前……」

「そうは見えない? でも、最初は大変だったのよ。なんというか、意思のない子でね。自分には生きる価値がないって、口癖のように言っていたわ」

「なのに、今はあんなに元気に」

「ええ。エレナのおかげでね。あの子が桜って名前を付けて、彼女に新しい人生を与えたの。あれでも桜はエレナにべったりなのよ」

 そうは言うが、ちょうど目の前では桜ちゃんがエレナちゃんを追いかけまわしていた。

「……そうは見えませんが」

「ふふ、そうね。でも、しばらくは居てもらうことになっちゃうし、そのうちわかると思うわ」

 恐らくこれが日常の光景なのだろう、ルナさんは穏やかな表情でその様子を見ていた。

「それより、今のうちにあなたの質問に答えておきましょうか」

「そうですね……まず、私はいつになったら帰れるんですか」

「さっきも言ったけど、巡り次第だから明言は出来ないわ。それは明日かもしれないし、一月、一年先かもしれない。強引に流れを変える方法も無くな無いのだけれど、その分反動も大きいからこれは最終手段ね」

「その巡りって何なんですか」

「一辺倒に見える時間の流れも、結果そう見えるだけでその実様々な向きの流れが複雑に絡み合っているのよ。それらのパワーバランスは常に変化していて、基本的に一定の周期を繰り返しているわ。世界の樹を介せば正確な流れを把握出来るのだけれど、訳あって今はそれが出来ないからその時を待つしかないのよ」

「さっきも出てきましたが、世界の樹っていうのは一体……」

「世界の樹はこの世界の全てを観察、記録する存在よ。過去と今、そして未来までもをね。この世界を構成するのに不可欠な存在で、一本の木であるのと同時に根であり枝であり葉である、そう言う曖昧な存在よ」

 一度の説明では全てを理解しきることは難しかったが、なんとなくその概要のようなものは把握出来た。

 となると、次に頭に浮かぶのはなぜそのようなことを知っていたのかだ。

「ルナさんは何者なんですか?」

「大胆な聞き方ね」

「こんなこと普通の人が知っているとは思えません」

「そうね。私の今の身分を正確に言うなら、元神っていうのが一番あっているでしょうね」

「神……ですか」

「あら、もっと驚くものだと思っていたわ」

「そう言われても現実味がないというか、なんというか」

「先に普通じゃないっていたのはあなたよ? それに、身分を明かしてないだけで、あなたの周りにもいるかもしれないわ」

「神ってそう簡単に見つけられるものなんですか」

「そうね。過去には神々も人と共に暮らしていた時代もあったし、意外と人間好きが多いのよ」

「元って言うのは」

「まぁ、色々とあってね。今はある友達のために神をやめたのよ」

「神ってやめれるものなんですか?」

「そう簡単には無理ね。神にはそれぞれ自身の神としての存在を確定させる物、神格が与えられて、それがある限り私たちは神であり続けられる権利が与えられ、同時に神として与えられた責務を果たす義務が発生するの。それに、神も一つの種族というより、世界をより円滑に回すための観察者に過ぎないのが実状よ。責務を果たさずやめようとすれば、相応の代価を払う必要があるの。もっとも、私の場合は大した問題にはならなかったのだけれどね」

「じゃあ、今は引退してここで余生を過ごしているんですか?」

「本当はそうしたかったのだけれどね。好奇心の塊みたいな友人を助けるため、今は悪だくみをしている最中よ」

 そういって、彼女はいたずらっぽく笑う。

 気のせいかもしれないが、どこか暗い空気を避けたがっているように感じる。

「私はルナさんに作られたんですよね」

「ええ」

「どうして私は作られたんですか?」

「そうね……それは今は話したくないわ」

「ごめんなさい」

「謝らないで。私の覚悟が決まってないだけよ。おわかれの時までには話すわ、絶対にね」


「そういえば、森のお姉さんっていうのは……さっきご飯を運ぶように言っていましたが」

「彼女も拾った子ね。とは言っても桜に比べたらだいぶ大人で、私の悪だくみに協力してもらってるのよ」

「ここで暮らしてはいないんですか?」

「あの子は森の中にある家で暮らしていてね、毎食ここから持って行ってるのよ。何度かこっちの家で暮らさないかって誘ったんだけどあんまり乗り気じゃなくてね。多分あっちの方が元居た場所の雰囲気に近くて気が落ち着くんだと思うわ」

 元神の"悪だくみ"に協力出来るとなると、彼女もそれなりの存在という事なのだろうか。

 どういう人なのか気にしてると、庭に複数の枝を運んでいた桜ちゃんがルナさんを呼ぶ。

「先生。用意が出来ました」

「それじゃあ始めましょうか」

 何が始まるだろうか、そう思って見ているとその内の一つの枝先を折り桜ちゃんに渡す。

 彼女がそれを手で覆うと、手の中が淡く光り開けた時には枝先は二つに増えていた。

「……複製」

 方法も含めて、過去に見たことのある宮矢さんのギフトの効果によく似ていると感じる。

 いつの間にか隣に座っていたエレナちゃんは、なぜか自慢げに鼻を鳴らす。

「ふふーん、すごいでしょ」

「なんでエレナが自慢げなの?」

「でもまだまだね」

 そう言ってルナさんが作られた枝先を指ではじくと、それは粉となり地面に落ちる。

「さ、見てるだけじゃなくてエレナもやるわよ」

「えっと……おきゃくさまぁ」

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