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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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92話 この目をどう思いますか

「ここはどこなんですか」

「少し説明が難しいわね。少なくともあなたから見れば過去の世界、っていうのが正解なのかしら」

「タイムスリップって事ですか」

「まぁ、結果だけ見ればそういう事になるわね。あなたは世界の樹の影響で重要な転換点であるこの時間に呼び出されたのよ」

 世界の樹。

 聞きなれない言葉に引っかかるが、今はそれ以上に元の時代に戻れるかの方が気になる。

「私は元の時代に戻れるんですよね」

「そうね。巡りによって時期は前後するでしょうけど、それは保証するわ。さあ、堅苦しいことは抜きにして、気軽に行きましょ。まずは家に案内するわ。まだまだ質問したりないって顔をしてるもの」

「こんな状況になって聞くことが無い方が変だと思いますけど」

「そう言う割には落ち着いているのね、あなた」

「まぁ、二回目なので。こういう体験は」

 私はついてくるように促すルナさんの後を追い、森の中を歩いていく。

 道こそ整備されてなかったが、草丈が低いこともあって難なく進んで行けた。

「そういえば、さっき言っていた母親ってどういう意味なんですか?」

「それは……あなたがどれほど自分の状況を知っているかによって意味が変わってくるわ。私はあなたの生みの親であり、あなたのオリジナルの産みの親って言えばわかるかしら」

「じゃあ……」

 質問を続けようとしたが、前を行くルナさんの歩みが止まる。

 それに気づかづに背中にぶつかってしまうが、彼女は笑いながら私を支えてくれた。

「着いたわ。十分なおもてなしが出来なくて申し訳ないけれど、ゆっくりしていって」

 森を抜けると、そこには小さな集落があった。

 山に囲まれた隠し里、そういう表現がとても似合う場所だ。

 何年ほど昔なのかはわからないが、建物はどれも木造で人々は着物を着ていた。

 集落の中でも、特に大きいお屋敷に案内される。

 ここがルナさんの家なのだろうか。

 そう聞こうとすると、玄関の扉が勢いよく開き一人の少女が飛び出してくる。

「かあさま~、さくらがおやつ食べちゃダメって……おきゃくさま?」

「そう、母様の大事なお客様よ。ご挨拶なさい」

「はじめまして。エレナ・ヴァレンタインです。よろしくおねがいします」

 そう言って、少女は行儀よくお辞儀をする。

 外見の特徴から言っても、恐らく彼女が本物なのだろう。

「……はじめ、まして」

「桜には後で私から話をしておくから、エレナは森のお姉さんにご飯を届けに行ってあげて。そろそろお腹をすかせる頃だもの」

「わかった~」

 元気よく返事をすると、少女はパタパタと駆けていく。

 先ほどの話もあり、もしかしたら会うかもしれないと思っていたが、まさかここまで幼い姿だとは思ってもいなかった。

 それに私を見ても何も言わないということは、まだ全てを知らないという事なのかもしれない。

「脅かせちゃったかしら」

「ええ、とても」

「あれがあなたのオリジナルよ。会うのは初めて?」

「前に一回、夢の中で会ったことが。でも、あの時はもっと大人になっていて、私の事も知っている様子でした」

「そう。あの子は立派に成長するのね。良かったわ」

 ルナさんは心底安心した様子で言う。

「それよりも、ここで会って大丈夫なんですか。あの子が私のことを知ったら色々とまずいんじゃ」

「確かにそうね。今は気が散っていたからよかったけど、しばらく家にいるとなると何か対策をしなくてはいけないわね」

 案内されるまま家の中に入ると、中に入ってみるとその大きさがより身をもって体感できた。

 屋敷の中を進んでいくと、ルナさんはあるふすまの前で止まる。

 静かに開けられたそれの先、畳の貼られた部屋の壁は一面様々な小物が飾り付けられていた。

 アクセサリーに動物を模したお面、どれもお店に並べられるのではないかと思うほどとても綺麗だった。

「せっかくだし、見た目が良いものがいいわよね」

「これは?」

「全部私が作ったのよ。これとかどうかしら?」

「かんざし、ですか?」

 それらを順に眺めていると、ルナさんはその中の一つを取り持ってくる。

 それにはガラスで作られたであろう飾りが施されていて、きらきらと輝いていた。

「そうよ。認識阻害の術式を埋め込みば、あなたの事をただの客人としか思わなくなるはずよ」

「でも、かんざしなんて付けたことないですし」

「そうなの? もったいないわね。こっちへいらっしゃい。やってあげるわ」

 私は促されるまま、彼女の前に座る。

 ルナさんは私の髪の毛をしばらく手ぐしでとかすと、それらを器用にまとめて団子を作っていく。

 暫くすると完成したのか、手鏡を渡された。

「さ、これで大丈夫よ」

「綺麗ですね」

 手鏡を通してみるそれは、先ほどより輝きを増しているように見えた。

 それに普段しない髪型だからか、まるで自分ではないような不思議な感じがする。

「ふふ、あなたも綺麗よ」

「えっと、その。ありがとうございます」

 慣れない誉め言葉に赤面していると、ふすまが静かに開く。

 そこには、一人の少女が頭まで隠れるように積まれた布の山を抱えて立っていた。

「失礼します」

「あら、いいときに来てくれたわ。ちょうどあなたを紹介したかったのよ」

「お客様、ですか?」

「ええ。私の大事なお客様だから、失礼のないようにね」

「かしこまりました。桜と申します。以後お見知りおき」

 布を置くと、少女は三つ指ついて丁寧に挨拶する。

 ルナさんは少女を膝上で抱えると、彼女の頬を両手で揉みほぐす。

「固いわねぇ。いつもみたいに砕けても良いのよ」

「でも、大事なお客様だって」

「ふふ、可愛いでしょ?」

 ルナさんにいいようにされる彼女は、確かに小動物みたいでかわいい。

「そういえば、さっきエレナがおやつをくれないって怒ってたわよ」

「それは、ご飯前に食べようとするからです」

「でも、あなただって口についているそれはつまみ食いじゃないの?」

 少女は慌てて自分の口の周りを手で触って確認する。

 ただ、いくら確認しても探しているものは見つけられないようだった。

 不安そうな彼女は、上を向きルナさんに聞く。

「ど、どこについていますか」

「ふふ、そんなの無いわよ」

 怒りをあらわにするためか、少女の頬はぷっくりと膨らむ。

「先生はおふざけが過ぎます」

「そうね。でも楽しくていいでしょ?」

「それは……」

「あまりエレナに厳しくし過ぎないで上げて。あなただってあの子と喧嘩したくはないでしょ」

「わかりました。でも、甘いものの食べ過ぎは」

「さて、私たちもお昼にしましょ。そろそろエレナも戻ってくるだろうし」

「ちょっ、まだ言いたいことは……」

 話を中断し、膝上の少女を下ろしたルナさんは足早に部屋を去る。

 残された彼女は、少し不満げな顔でこちらを向く。

「お客様もどうぞ」

「あの、桜さんの」

「桜で良いです」

 パチパチと瞬く、彼女の白と黒の目と目が合う。

 一目見た時からどうしてもそこに目が行ってしまうのは、潜在的に話に聞く久遠桜の特徴と一致し、名前も同じことを意識しているからなのだろうか。

「桜ちゃんの、その目は……」

「……生まれつきです。気に障るようでしたら隠しておきますが」

「そういう訳じゃないんだけど、その……少し思う所があって」

「そうでしたか」

 微妙そうな表情をする彼女だったが、何か言うわけでもなく持ってきた布の山を押し入れにしまい始める。

 その様子を眺めていると、ふと彼女の手が止まる。

 そのままこちらを向くことも無く彼女は話す。

「その、この目をどう思いますか」

「どうって……珍しいなとは思うかな。まぁ、珍しいのは私も似たような感じだから、あまり人の事は言えないですけど」

 実際、街の中で白髪白眼の人に出会ったことは無かった。

 特段珍しがられることも無かったから特に気にはしなかったが、相当珍しい部類になるのだろう。

「お客様はそれらが嫌になったことはありませんか。周りと違うからひどい目にあったりとか」

「うーん、それは無かったかも」

「うらやましいです。私はこの目が原因で一人になりました。みんな気持ち悪いって言って…………」

「ごめんなさい、悪気があった訳じゃ」

「良いんです。きっとお客様の周りにいるのは素敵な方達なんだと思います」

 押し入れの戸を閉めて振り返る少女の顔は、以外にも笑顔だった。

「こちらです」

 そう言って、彼女は私の手を引いて行く。

 顔こそ笑っていたが、さっきの話で辛い思いでを思い出させてしまったのではとしこりが残る。

「その、さっきの話。辛いことを思い出させたならごめんなさい」

「そんな、お客様が謝ることはありません。それに、私は今ここで幸せですから。さ、私たちも行きましょう。早く行かないとエレナに全部食べられてしまいますから」

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