91話 きっといるはず
各々が久遠桜に何か動きがあるのではと警戒していたが、何も起きることが無く時間が過ぎて行った。
示し合わせたわけでもないのに皆が生徒会室に集まり、それぞれがしたいことをし、夜になると解散する。
そして一週間ほどが過ぎたある日。
宮矢は夕方になって初めてその部屋を訪れる。
そして、朝から感じていた疑問を口に出した。
「エレナいませんでしたか?」
「えれな? 誰その人」
「……え?」
ドアを開け部屋の中を見ても彼女がいない事を確認した宮矢は、机に向かい書類を読んでいた柚葉に問う。
ただその答えは彼女が想像しようのないものだった。
そう答える表情は嘘をついているようにも見えず、その答えを理解するのに彼女の頭は時間を要する。
「聞いたことない名前だけど、ウチの学生?」
「何言ってるんですか! 昨日までここに居て、一緒に過ごしていたのに」
やっとその意味を理解しきれた彼女は、柚葉の肩を持ち両手で揺する。
「ちょっと、落ち着いてって」
柚葉はどうにか荒ぶる宮矢を引きはがすと、落ち着かせようととりあえず椅子に座らせる。
そのやり取りをする声を聞いたからか、ソファで横になっていた茜は目をこすりながら起き上がる。
「どうしたの?」
「ごめんね、起こしちゃった?」
「そうだ。茜ちゃん、エレナどこにいるか知らない?」
藁にも縋る思いの宮矢だったが、その期待は簡単に打ち砕かれる。
「……誰、それ」
「なんで覚えてないの」
柚葉と同じく、茜の反応に嘘をついているような雰囲気は感じない。
すると、ある可能性が彼女の頭に浮かぶ。
記憶がいじられてる?
でも誰が、何のために。
それにきっとここだけじゃない、もっと大規模な気がする。
根拠のない推測だが、それが正解だという確信があった。
それでも諦めきれない彼女は、勢いよく立ち上がると扉を勢いよく開けて外へと飛び出していく。
「ちょっと、どこ行くの!」
「街の中見てきます!」
彼女らしくない行動をする宮矢を見て、柚葉もまた彼女の事を心配していた。
その気持ちを感じたのか、茜はかぶっていたタオルケットを持って姉の膝の上へと移動し身を預ける。
「みや、どうしちゃったんだろうね」
「夢と現実を間違えてるんじゃない?」
「みやに限ってそんなことは無いと思うけど……」
「心配?」
「うん、今までこんな事なかったから」
「どこか、きっといるはず」
それでも、思い当たるところを見て回ってもその姿は見当たらなかった。
何度携帯に連絡しても繋がらないが、それでも電話を掛ける手を止められない。
いつの間にか日は落ち始め、だんだんと辺りが暗くなり始める。
「どこに……」
ベンチに座り頭を悩ませる宮矢に、一人の少女が声をかける。
「ねえ、お姉さん。その仮面本物?」
「だれ、あなた」
声の主は十歳ちょっとに見える少女だった。
冷たい声色での問だったが、少女は腰を超すほどの長さのポニーテールを揺すり、楽しそうに答える。
「彗は彗だよ。その仮面、家の本で見たことある気がする」
「これは私の恩人の形見。きっと別の物と間違えてるんじゃない?」
「そうかなぁ」
腑に落ちない様子の彼女は、髪の毛を指でくるくると回す。
これ以上話をしている暇はないと思た宮矢は、気持ちを切り替えるため大きく伸びをする。
「私はまだやらなきゃいけないことがあるからもう行かなきゃ」
「……誰か探してるの?」
「なんでわかるの」
「なんかそんな感じがしたから」
「そう。じゃあ、もう行かないと」
急ぐその背中を見届けてもなお、少女の頭の中は彼女のつける仮面の事でいっぱいだった。
「うーん。やっぱり見間違いじゃないと思うんだよなぁ」
誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやいた彼女も、自らの役目を思い出す。
「さ~てと、のんびりしてると綾人に怒られちゃうから、そろそろ彗もおしごと~おしごと~」
鼻歌混じりで目的地へと移動した彗は、しばらくの間しゃがんで地面をいじる。
ちょうど一段落ついた時、彼女の携帯が鳴る。
「少し遅れてるんじゃないか」
「そう? 時間通りだと思うけど」
声の主は別の場所で自らの役割に徹する準備をする神楽綾人だった。
「それで、準備は終わったのか」
「もちろん。完璧だよ」
「そうか。念のため言っておくが、後処理が面倒だから一般市民は絶対に殺すなよ」
「わかってるって。その辺もちゃんとしてるよ」
「本当にわかってるのか?」
「なに、疑ってるの」
「当たり前だ。何年お前と一緒に居ると思ってるんだ」
「普通その時間の分だけ信用が厚くなるんじゃないの」
「お前の場合は、時間の分だけ信用が出来なくなるんだよ」
「酷いなぁ」
「それじゃあ、始めるぞ」
「あいあいさ~」
虚空に敬礼をした彗は電話を切ると、さっきいじった地面の方を向いて手を叩く。
「それじゃあみんな、お願いね」
頭が痛い。
体の内側が外側に引っ張られるような感覚。
何も見えず何も聞こえない、なのに全てを感じる。
様々な感覚と矛盾に襲われ、どうすることも出来ないでいた。
どれほどの時間そうしていたのだろうか。
数日か数週間、あるいはほんの数秒だったのかもしれない。
時間の概念の無いその場から解き放たれると、木々の隙間から漏れ出る日の光が目に入る。
「ここは……」
周りを見回すと見慣れない場所に立っていた。
生い茂る木々に囲まれ、人の気配は全く感じられない。
ふと、わずかに離れた場所に小さな社がたっているのを見つける。
近くによって見るとそれはわずかな光を纏っており、淡い青い色に発光していた。
とても神秘的な光景だと思っていると、背後から声をかけられる。
「起きましたか」
「誰ですか、あなた」
「ふふ、そう警戒しないでいいのよ。私はあなたの敵じゃないわ、お人形さん」
振り返ると、そこには黒いワンピースドレスに黒のつばの大きい帽子をかぶった女性が立っていた。
なんとも場違い感の否めない恰好だ。
「私はルナ・ヴァレンタイン。ある意味あなたの母親になるのかしら」




