90話 謎の存在
とりあえず今は出来る限りの対策をしようということで話はまとまり、悠は少し気になったことを調べようとある場所を目指していた。
多くの生徒が授業時間内ということもあり、校内は静まっている。
考え事をしながら歩く彼の頭の中で、ふと声が響く。
「学生というのも大変そうだな」
「盗み聞きはよくないってご主人様に教わらなかったの?」
「お主の魂にいるのだ。嫌でも聞こえてくる」
「そりゃそっか」
こうして話をするのは昨日、再び体の主導権を移す時以来だ。
理屈はわかっていても、自分の中に別の人格があるというのはなかなか慣れない。
その時の話では、真奈の場所を探すのに集中するからしばらくは顔を出さないということだったが、こうして出てきたということは目安がついたという事なのだろうか。
「それで、真奈の場所は見つけられそうなの?」
「あの場所よりははっきりとコアの存在を感じられるが、細かい場所まではわからぬ。このあたり一帯にあるのは間違いないはずだが」
「この街のどこかにいるっていうのは大きな情報だけど、どうやって探せばいいのかね。博士の情報も全くないから、下手に動くのもリスクあるし」
最悪の場合、場所自体はしらみつぶしに調べて行けば見つけられる可能性は高いだろう。
だが、相手の情報がない以上、やみくもに動けば向こうの警戒を高めるだけだろう。
既に様々な方法で情報を調べているのにも関わらず一切尻尾を見せないことを考えれば、相手は相当な手練れだろう。
あるいは……。
自分の世界に浸り考えを巡らせていると、ふとかけられた声が悠を驚かせる。
「不知火様、少しよろしいでしょうか」
「おひなか。驚かせないでよ」
「私はただ声をかけただけですが」
「まぁいいや。それで、わざわざ一人の時を狙ってくるなんて何の用」
「久遠桜様の事で、追加でお話したいことがございまして」
先ほどまでも彼女の事を話していたのにも関わらず、一人の今を狙うということは、みんなには聞かせられない、あるいは今回とは別件の事なのだろう。
「皆には話せないってこと?」
「どうなのでしょう。私では判断しかねるので、まずは不知火様にお話ししようと思いまして。端的に申し上げてしまうと、博士の正体が彼女でした」
「……は?」
「彼女がこれを不知火様に伝えるようにと」
その言葉の内容を理解したとき、彼の足の向きは反対を向く。
「どこへ行かれるのですか」
「この街のどこかにいるはずだから、絶対に見つけてやる」
「不可能ですわ」
「じゃあどうしろって! やっと博士の正体がわかって、それが久遠桜で。今すぐにでも探し出して真奈の場所を聞き出さないと」
「やめておけ」
西城の制止を振り切っていた悠だが、頭に響くフェニックスの声を聞き足を止める。
その違いは彼自身にもわからないが、体は自然とそう反応した。
「もし相手がお主が怒りに狂うとこまで想定して張った罠だった場合、どうするつもりだ」
「そんなの強行突破してでも見つける」
「我は力になれぬぞ」
「なら一人でも」
小さな声だったが、虚空に向かって話す彼の行動が西城に違和感を持たせる。
「あの、先ほどからどなたと話をされているのですか?」
「……なんでもない」
頭を振り、悠は意識を目の前の彼女に向ける。
「とにかく、彼女は無策で迎えられるような相手ではありません。直接手を合わせた私はそう感じました」
「わかったよ。でも、目と鼻の先に居るってわかった以上そんなに長くは待ちたくない」
「構いませんわ。今、我が家であの時の状況からギフトの内容を推測していますので、それが完了するまではどうか堪えてください」
「それが家の得た収穫ってやつ?」
「半分はそうですわね。もう半分は不知火様の事ですわ」
「……何の事だかさっぱり」
状況からして、その内容が何を指しているのか悠には簡単に想像がつく。
出来るだけ誤魔化したいが、こういう話の切り出し方をした以上ある程度の確信を持っているのだろう。
「とぼける必要はございませんわ。あの時、あなたの身体にはあなた以外の存在が宿っていました。あなたとそれがどういう関係かはわかりませんが、その存在のおかげであの時の相手を払えたのでしょう」
「だとして、知って何になるの。秘密を握って脅そうって考えてるならやめた方がいいよ」
「あなたは私をなんだと思っているのですか。ただ、以前から抱えていた疑問の答えが得られた、それだけですわ。様々な種類の炎の操作に始めり治癒や自己蘇生、あなたのギフトには一貫性がまるで見られませんでしたので」
「その謎の存在が影響してると」
「ええ。一人が複数のギフトを発現させたという例もありませんし、状況から見てそう考えるのが自然かと」
「普通は複数発現を先に考えると思うんだけど……」
「それで、答え合わせをしていただけますでしょうか」
そう言い方をしてはいるものの、彼女の求める答えは一つだけだ。
悠もそれを良く分かっているのか、肩をすくめながら答える。
「はぁ、正解だよ。なんでわかったの」
「……雰囲気でしょうか。いつもとは違う様に見えましたので」
「でもこのことは他言無用で頼むよ。僕でも知らない秘密だったんだから」
「ええ。ですがお忘れではないですか。我が家は情報屋で、不知火様はお友達の一人にすぎません」
「……割のいい話が来ないことを願ってるよ」
「あら、口止め料を支払ってもよろしいのですよ」
「情報屋の良心を信じたいな~、なんて」
「良いのか。しばらくは誰にも言わぬと考えていたであろうに」
「しょうがないよ。変に疑問だけ残しとくと、勝手に調べるのがおひなだから」
再び一人になった悠は、脳内でフェニックスと話を始める。
過去一度、曖昧な答え方をしたせいで彼女の本気を見た悠は、下手に隠すより自分で答える方がよっぽどメリットがあるとよくわかっていた。
「優秀なんだな、彼女は」
「僕としてはもう少し融通がきいてくれるとありがたいんだけどね」
「それで、どうするつもりだ」
「おひなには悪いけど、博士の正体が久遠桜ってわかった以上は悠長にはしてられないし、向こうから見つからない程度で色々とやってみるよ」
今後の行動について自分から意見する必要は無いと思ったフェニックスだったが、ふとあることが気になる。
「そもそも、その久遠桜というのはどういう人物なのだ。なぜそこまで警戒する必要がある」
「どういう人なのかもわからないから警戒してるの。何が目的で、その為に何をしているのかすら知る人はいない。唯一確実って言える情報が去年まで紅輪学園にいて、神楽綾人に殺されてるってことだけ」
「そうか……神楽か」
フェニックスは意味ありげに呟く。
「何か知ってるの」
「いや、昔の知人を思い出してな」
「そう。とりあえず、色々情報探しからかなぁ」
大きく伸びをし、今後の行動が決まった悠は再び本来の目的地に向け歩みを進める。
その様子を見ていたフェニックスは、ふと昔の事を思い出す。
「やはりお主は我が主によく似ておる」
「前もそれ言ってたけど、どの辺が似てるの」
「雰囲気と言いたいが、しいて上げるのであれば熱しやすく冷めやすいところであろうか。感情的になったかと思えばすぐに理性的になる」
「それって褒められてるの?」
「高ぶる感情を理性で押さえられるというのはとても大事なことだ。いずれ役に立つ時がくるだろう」
「一応覚えておくよ」
「我は少し休む。妹が大事な気持ちはよく分かるが、くれぐれも先走ることのないようにな」




