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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第五章 目覚め編
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89話 情報

「何か言うことがあるんじゃない」

「すいませんでした」

「ほんとにいつもいつも無茶ばっかして。心配するこっちの身にもなってよ」

「でも、今回は無茶したくてしたわけじゃ」

「言い訳は聞きたくない」

「……はい」

 悠さんは地面に膝をつき、それを会長が椅子から見下ろす。

 一見何かあったのではと心配してしまうが、不思議なことにこの光景を見ているとなんだか心が落ち着く気がする。

 もしかしたら、賑やかな日常に戻ったと実感するからかもしれない。

 一方、ソファに座りくつろぐ私と宮さんとその光景を交互に見る小鳥遊さんは心配そうに声をかけてくる。

「あの、これは……」

「気にしないで大丈夫ですよ。いつもこんな感じなので」

「えっと。でも……止めない、と」

「まぁまぁ、甘いものでも食べて」

 そう言ってみやさんは机に築かれたクッキーの山から一握り持ちあげると、それを彼女の口元に持っていく。

 拒むことなくそれを口に押し込まれた小鳥遊さんは、両頬を膨らませながらそれをほおばる。

「それより、お父さんのそばに居なくても大丈夫なんですか。昨日の今日で学校に戻ってこなくても、しばらくは休んで近くにいてあげた方がいいんじゃないですか」

「それが……今朝早くに、もう大丈夫だから、心配しないで学校に行けって。たぶん、ちょっと無理してるけど、心配させたくないんだと……思います」

「その気持ち、ちょっとわかる。私もお姉ちゃんには同じこと言うと思う」

 いつの間にか茜ちゃんも紅茶の入ったカップを持って話に加わる。

「そう? 私は出来る限り近くにいてもらって、身の回りの世話とかやってほしいけど」

「それはみやさんがサボりたいだけですよね」

「んー、残念。もしそう言う時が来たらエレナには期待できないか」

「そもそも、今回も学校に残っていたみやさんにはそういう機会が来るんですかね」

「別に怪我である必要は無いんだよ。病気とか他にもいろいろとあるでしょ」

「みやさんが病気になったなら、自分で薬作ってすぐに元気になりそうですけど」

「確かに。苦しいのはイヤだからね」


「はぁ、西城さんには後でお礼言いに行かなきゃ」

「いや、その必要はないでしょ。今回の後処理もどうせお金とるんだから」

「あら、私がそのように思われているとは心外ですわ」

 音もなく部屋へ入り椅子に座っていた西城は、ティーカップに紅茶を注ぎながら答える。

 突然の来訪でくつろぐ彼女に柚葉は驚くが、悠はすっかり慣れてしまっていてあきれた様子で答える。

「でも否定しないじゃん」

「それはもちろんですわ。どこかの誰か様のおかげで回収するはずだった物資がすべてなくなってしまった上に、周囲一帯が更地になってしまったのでその後処理に追われていますわ」

「……なんかごめん」

 実際助かるためとはいえ、その被害は少ないとは言えなかった。

 物資を回収できなかったこと以上に建物を崩してしまった後処理は簡単ではなく、権利関係の手続きにどうしても時間がかかってしまう。

「別に構いませんわ。事前に報酬を頂いての契約でしたし、今回は我が家としても得るものがありましたので」

「私からもお礼を言わせて。悠のことだけじゃなくて、エレナと小鳥遊さん、彼女のお父さんの事もありがとう」

「それらも契約に含まれていたので、戸田様が頭を下げる必要はございませんわ」

「それより今忙しいと思うけど、ここに居ていいの?」

 悠はすっかり楽な姿勢になり、床に座りながら自分の分の紅茶と茶菓子を用意する。

「そうでしたわ。あの時に拘束した四人について、ご報告したいことがありまして」

「あ~、なんかそんなこともあったかも」

 あの後に起きたことが濃かったせいで、悠の頭の中では彼らのこと存在が薄くなっていた。

「どうやらあの方たちはほんとに何も知らない様子でして、恐らく今回の一件とは無関係かと」

「じゃあ偶然あの場に居合わせただけってこと?」

「それが、少し気になるところがございまして。四人ともあの場で不知火様に攻撃されるまでの記憶が無いようでして」

「酒で酔ってたんじゃないの?」

「その可能性もありますが、確認出来る限りで最後の記憶が一週間ほど前なのはいくら何でも不自然ですわ」

「確かに、それは長いか。てことはあの時見たフードの人が犯人だと?」

「その可能性が一番高いですわね。それともう一つ、その時久遠桜様があの場にいらっしゃいました」

 情報の少ない彼女だが、思い付きで行動するような性格ではないのは、三人とも簡単に推測が出来た。

 柚葉は自身の記憶にある情報と合わせて、その行動の理由を推測する。

「偶然じゃ……ないよね」

「フードの中身が久遠桜ってこと? 自分の情報が抜けてたから、それを隠すためにあんなことを」

「それはちょっと違和感がある気がする。もしそうならわざわざ悠たちを待たずに一人で始末すればいいのに。何か他にすることがあったんだと思う」

「そして、さらに不思議なのが、起き上がった小鳥遊様のお父様は彼女の事を全く覚えていませんでした」

「え? ちょっと、それどういう事。あの時はっきりと話してたのに」

「わかりません。何か始末する以外にも、遠隔で記憶を操作できるのかもしれません」

「そんなこと、本当に出来るの?」

「わからないけど、元々謎が多いから今更謎が増えてもね」

「状況から考えて、あのメールを送ったのは彼女でしょう。戸田様を狙っているって言う話も気になりますし、今後も油断は出来ませんわ」

「うん。気を付けはするけど」

「正直対策のしようがない気もするけど」

 あの場で、目の前で追っていたのにも関わらず逃げられた悠は、その不可解さを身をもって体験していた。

 考えれば考えるほどどうすればいいのかわからなくなる。

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