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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第五章 目覚め編
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85話 『さあ、楽しみましょう』⑤

 会長や九条さんの携帯、思いついた方法はすべて試したが、誰一人として連絡がつかなかった。

 すぐに何かが起こる可能性が高くないとわかっていても、時間が経つにつれどんどん不安が大きくなる。

「どうしましょう。今すぐ西城さんに帰りの道を」

「いや、あれは反対側にも人が必要だから、今から準備をするのは……」

「じゃあどうやって」

 ここからアテナに帰る方法を考えるが、公共交通機関では最短でも数時間はかかってしまう。

「しょうがないか。エレナちゃんは小鳥遊ちゃんと二人で彼女のお父さんを病院まで連れて行って、そのまま一緒に居てあげて。僕はいったん戻って様子を確認してくる」

「けど、帰る方法が」

「僕一人なら空飛んで帰れるから。ちょっと時間はかかるけど、乗り物使うよりはずっと早く帰れるし、そうして帰るよ」

「わかりました」

 その場で広げた荷物は後で西城家の人が回収すると悠さんが言っていたので、最低限の荷物だけを持って病院へと向かうことになった。

 私たちが出発ししようとしたとき、入れ違いで一人の女性が現れる。

「あら、随分と忙しそうにしてるわね」

「誰だ、あんた」

 悠は一目見ただけでわかる、その女性の発する独特な雰囲気を警戒する。

 自然と目つきは厳しくなるが、当の本人はそれほど警戒をされているという反応はなかった。

「そう邪険に扱わないで貰えるかしら。これでもあなたに用があってわざわざこんな辺鄙な地まで来たのよ」

「だったら悪いけど、見た通り今忙しいからまた今度にして欲しいんだけど」

「つれないわねぇ」

 目で追えないほどの高速で悠との間を詰めた女性は、片手で彼の首をつかみ体を宙に浮かせる。

「そう時間はかからないわ。ね、構わないでしょ?」

「悠さんっ!」

「大丈夫。二人はそっち優先して」

「……わかりました」

 苦渋の決断だが、彼がそう言う以上何か策があると信じ、エレナは小鳥遊を連れて足早にその場を離れる。

「あら、見捨てられてしまったわね」

「ほんとに。自分の人望のなさが嫌になるよ」

 悠はどうにか首をつかむ腕から逃れようとするが、見た目の細さに反さずどうあがいても緩まる気配はなかった。

 それでも策がないわけではない。

 ギフトの出力を全開放し、周りを火の海に変えながら自身の限界を大きく超える。

 彼女にもそのような無謀な方法は予想外だったのだろう、わずかな隙を見逃さなかった悠は間一髪で腕から逃れる。

「これは殺すのが惜しいわね。こんな風に思う人間は久しぶりよ」

「もしかして快楽殺人犯? なら勘弁してほしいんだけど」

「ふふ、いつまでその軽口が叩けるか見ものね」

 両手を広げた彼女の影からは、十や二十では収まらないほどの黒い人影が現れる。

 それは学園祭の時にも見たもので、一体でも対処に困るのだからこれだけの量を相手するのは現実的ではない。

「あの時の影……」

 悠は手に火を集め火球を作る。

 幸い先ほどの作戦で体力を使いきってはいなかったが、ここらどれだけ持ちこたえられるかは定かではない。

 救援の期待できないこの状態、もしかしたらここで力尽きるかもしれない。

「ほんと嫌になるよ」

 悠の手を離れた火球はまっすぐに群れる人型へと飛んでいく。

 そのうちの一体へとぶつかると、轟音とともに周囲を燃やし尽くす烈火となる。

 直撃した人型はもちろん、その炎から逃れられなかった人型も火だるまとなり地面に溶け落ちる。

 だが、悠の支払った対価も決して軽い物ではなかった。

 倒れるように地面についた手は痙攣をし、割れるのではと思うほどの頭痛が悠を襲う。

 これは、本気でまずいかも。

 そう思っても、どうすることはできなかった。

 その症状の原因をよく知っていたからこそ、悠は力を使った応急処置をとれなかった。

 まばらに散っていた人型も、彼を囲むように陣形を変え警戒を緩めない。

 彼らはしばらくふらふらと立っている悠を見ているだけだったが、そのうちの一体が我慢できずに走り出すのを皮切りに彼らは我先にと飛びついていく。

「……もえろ」

 悠は残りの体力をすべて使いきる気持ちで力を使うと、手からは今まで見たこともない、白色の炎が出る。

 それを見た彼らは足をすくめその炎から距離を取ろうとするが、止まれなかった数体はその炎に体の一部が触れた瞬間、全身が蒸発するように消えてなくなる。

 ようやく彼の中にいるものの正確な正体をつかめたエレボスは、彼らでは役不足だと判断しこの場で使える中で最も上位のものを出す。

 それは最初は小さな小型犬ほどの大きさだったが、そのサイズはどんどん大きくなり、いつものエレボスが連れている時のサイズになる。

 それが声を上げて鳴くと白い炎はかき消され、その衝撃で悠の体は勢いよく地面へと押し付けられる。

 ヒールの音を立てながらエレボスが近くまでよると、かがんで悠の顔にかかった髪をよけて優しく声をかける。

「大丈夫、あなたは何も悪くないの。恨むなら自分の先祖を恨みなさい」

 エレボスは手にした黒い刃の短剣を、すでに命の尽きかけている悠の首に立てる。

 音もたてずに悠は何度目かの、そしてこれで最後となる死を迎える。

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