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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第五章 目覚め編
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84話 『さあ、楽しみましょう』④

 悠が部屋の中をのぞくと、事前に聞いていた通り中央らへんに机を囲む四人の姿があった。

 彼は一つ息をつくと、自分を中心に部屋を炎の渦で巻きこむイメージをする。

 静かにゆっくりと、だけど確実に火の手が回っていき、一気にその姿を現す。

 机を囲んでいた人たちは突然のことに驚き、近くの窓や扉など、思い思いの方法でこの部屋からの脱出を図る。

 だが部屋はすでに炎に囲まれていて、炎の壁を突破することに彼らは躊躇する。

 悠は部屋の中に複数の火柱を作り、それで相手からの視線をよけつつ一人ずつ無力化していく。

 二人を気絶させたところで、リーダーらしい人が異変に気付く。

 その変化に悠も残りの二人の各個撃破より部屋の中央へと移すことを優先させる。

「おいっ、どうなってるんだ!」

「いやだっ、命だけは助けてくれ」

 悠によってさっきまでいた位置に戻された彼らの半分は意識を失い、もう半分はパニックになっていた。

「ちょっとちょっと、人さらいの真似事しておいてその態度は無いでしょ」

 彼らの態度にわずかに怒りを覚えた悠だったが、怒りを前面に出さないようにコントロールする。

「人さらい? 何言ってるんだ。俺たちはただここで酒を飲んでただけだ」

「そうだ。どうして俺たちがそんな犯罪を」

「はいはい。話はあっちで怖ーいお姉さんが聞くから、今はおとなしく監禁してる部屋の鍵を渡そうか」

「だから、何も知らないんだってば」

「往生際が悪いな。そんな言い訳で見逃されると思ってるの」

 さすがに我慢の限界を迎えた悠は、リーダーらしき人の顔を炎で覆われた手でつかみ握りつぶそうとする。

 突然死というものが見えた彼だったが、西城の連絡で九死に一生を得る。

「不知火様、それ以上はダメです。情報はこちらで取るので、今は部屋へと向かってください」

「……わかった」

 悠が手を離すとそれは音を立て地面に落ちる。

 すぐに命に係わるけがではないと判断した悠は、彼らをそのまま放って階段を駆け上がっていく。

 何もない二階を飛ばし、三階についたとき外で中の様子を確認していたエレナから連絡が入る。

「悠さん、さっきまで近くにいた人が移動してます」

「方向は?」

「それが、もうすぐ悠さんの前に」

「……いた」

 ちょうどその時、廊下の向こう側で小走りで駆けていくフードを被った人が見える。

「ちょっと、待てっ」

 悠は見失わないように追いかけるが、角を二つほど曲がったあたりで行き止まりにぶつかってしまう。

 周りはコンクリートで囲まれていて、人が通り抜けできるような場所はなかった。

「すみません。私の方も見失いました」

「エレナちゃんのギフトで逃げた方向もわからず見失うって、あり得るの?」

「一応見れる範囲の外に一瞬で移動すれば、原理上はあり得ますが」

「ってことは、こっちの手の内がばれてる可能性があるのか。でもなんで……」

 ほんの僅かそのことを考えるが、悠はすぐに踵を返し監禁されているという部屋へと向かう。

 部屋の扉は空いていて、その人が部屋の隅に横たわっているのをすぐに発見できた。

 確認すると、多少傷はあるがどれも軽度なものばかりで、動かせなくなるような内臓系の傷も見当たらなかった。

 一安心した悠は、西城へとこのことを報告する。

「おひな、保護できたよ。外傷は少しかすり傷があるくらいで、現状は大丈夫そう」

「それは何よりです。こちらも四名の拘束が完了致しました」

「じゃあそっちはよろしくね」

 彼女のことだし、任せても何も問題は無いだろう。

 そう思った悠は彼を背負い建物を後にする。

 臨時拠点となっている場所では、落ち着かない様子でいる小鳥遊が建物から出てくる悠を見ると、一目散に駆け出す。

「あの、お父さん……は」

「うん。今は気を失ってるだけで、怪我も軽いしすぐに元気になると思うよ」

「そう、ですか。良かった」

 安心でいっぱいになる彼女を連れ、臨時拠点に戻ってきた悠は、背負っていた彼を地面に敷いたマットの上に横たわらせる。

「さてと、後は逃げた奴をどうやって探すかだけど」

「あの、私もお役に」

 以外にも、小鳥遊が声を上げる。

「気持ちは嬉しいけど、今はお父さんのそばにいてあげて」

「そうじゃなくて、えっと……」

 悠は小さく手招きした彼女の口元に耳を寄せると、思わぬところであり得るだろうと思っていた仮説が事実だと知る。

「それは、本当なの?」

「はい。お父さんからはあまり人に言うなって」

「うん、それが正解だと思う」

「あの、二人して何の話してるんですか」

「小鳥遊ちゃんのギフトの話」

 悠さんの話た小鳥遊さんのギフトの話。

 それは他人のギフトを強化するのが彼女のギフトであるというものだった。

「本当にそんなことが出来るんですか?」

「はい……」

 小鳥遊さんは小さくうなずき、私の手を握る。

 促されるようにギフトを使うと、今までとは比べ物にならないほど体への負担が感じられなくなる。

「これは、凄いですね」

「そんなに違う?」

「はい。体がとても楽です」

「それでどう、見つかりそう?」

 今までは見れなかった範囲が一気に見れるようになり、効率的に捜索が行えるが、それでもそれらしい人は見つけられなかった。

「すいません。これでも見つからなさそうです」

「完全に逃げられたか。とりあえずそっちは今度にして、今は小鳥遊ちゃんのお父さんを念のため病院に連れて行こ」

「そうですね……」

 私がギフトを使うのをやめるのを見てから小鳥遊さんも握っていた手を放す。

 これぐらいでしか力になれることがないから、この結果はもどかしい。

「別にエレナちゃんが気に病むことじゃないし、成果を上げたんだから胸張って良いんだよ」

「でも……」

「反省会は帰ってからだよ」

 そういった悠さんが率先して片づけをしていると、横になっていた小鳥遊さんのお父さんが起き上がる。

「お父さん?」

「目が覚めましたか? 名前はわかりますか」

 彼の背中を支えた悠さんは、声をかけるが帰ってきたのは予想外なものだった。

「久遠桜は危険だ。彼女に注意しろ」

「……お父さん?」

「彼女は複数の顔を持つ。彼女の全てを信じるな」

「しっかりして」

 心配そうに声をかける小鳥遊さんに見向きもせず、彼は淡々と続ける。

「彼女の目標は、戸田柚葉だ」

「おい、それってどういうことだ。誰からその情報を得た」

 悠さんは肩を持ち揺さぶるが、ピタリと彼の動きは止まりまた眠りに入ったようだった。

「悠さん……」

「まずい、今すぐ戻らないと」


 そのころ紫陽学園の生徒会室では、心配そうにする柚葉は横になる茜の頭をなでて気を落ち着かせようとしていた。

 どれほどそうしていたかわからないが、ふと窓ガラスが外から叩かれていることに気付く。

 窓の外をのぞくと、一匹の黒猫が器用に窓枠に乗っかっていた。

 柚葉は慌てて窓を開け、彼女を中へと招く。

「急に来るなんて、しかもこんな時に」

「ごめんって、他の用事を済ませてたらこんな時間になっちゃってね」

「それで、今日は何の用ですか」

「ちょっと大事な話があってね」

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