79話 一方そのころ
一方そのころ。
街のどこかで朝を迎える姉妹の部屋には一通の手紙が置いてあった。
不審に思いつつも沙羅が桜を模した紋の押された封筒を開けると、中の手紙には達筆な字で簡潔にこう書かれていた。
『今晩セントラルタワーにてお待ちしております。ステラ・ヴァレンタイン』
短い呼び出しの文言のみだったが、二人は顔を見合わせ対応の相談をする。
「どうして急に」
「行きますか?」
「そうだね。環のことで何か役に立つ情報を聞ければいいけど」
そして言われた通り二人はセントラルタワー受付へと向かう。
いつものように受付には係の者が座っていた。
「お願いします」
八重沙羅が手紙を机へと置く。
確認が済んだのか、しばらくするとカウンターに座っていた人は立ち上がる。
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
二人はその案内についてエレベーターへと乗り込むと、いつぞやのエレナの時と同じく二人は白い光に包まれる。
目を開けると二人はすでに部屋の中にいて、目の前にはステラ・ヴァレンタインがいるということを彼女のもたれる背もたれ越しに感じた。
「お待ちしておりました。八重沙羅様、紗奈様。お初にお目にかかります、ステラ・ヴァレンタインと申します」
「早速で申し訳ありませんが、要件をお聞かせ願えますか」
「ええ、では単刀直入に申し上げましょう。八重環様を治す方法があります」
「それはっ……あり得ません」
沙羅はわずかに興奮した自分を落ち着かせながら答える。
「どうしてそう言い切れるのでしょうか」
「先生の言った原因ならまともな治療法がないのは私も理解出来るからです」
「そうですね。確かに彼の状況は複雑で、楽観視できるものではありません。ですが、彼女であれば何の問題もなく事を済ませられると、そう私は確信しています」
「治せるのにわざと放っておいているって事ですか。でも、どうして……」
「恐らく彼を手元に置いて置きたかったのでしょう。少なくとも私が彼女の立場であれば、そう考えます」
「……先生とお知り合いなのですか」
「いえ、顔を合わせたことすらありません。ですが、全くの無関係とも言えないですね。少なくともその特殊性については良く知っているつもりです」
「……一つ聞かせてください。あなたは環を手元に置いておきたいと考えますか?」
「時と場合によりますね。彼が今のような状態になったのは、ある種の腫瘍のようなものが付いたからで、私たちはその腫瘍が欲しいのです。ですので、正直に申し上げると、彼に死なれてしまうと私たちも困るのです。もちろん完治が確認出来ればすぐにでもお二人にお返しすると約束いたします」
沙羅はしばらくの間頭の中で考える。
長いこと求めていた回答を、予想外な場所で予想外な人から突然得られたことは喜ぶべきなのだろう。
それに、彼女が嘘をついている可能性も高いとは言えない。
もちろん何か企みを巡らせての行動だろうが、今最優先で考えるのは環を治すことだ。
どんなわずかな可能性であれ、膠着状態の現状と比べればまだよいだろう。
となれば答えは決まっている。
「私たちは何を代価に支払えばいいのでしょうか」
「そうですね……。では一つ私の願いを聞いていただけませんか」
「なんですか」
「詩乃という者について、お二人が知っていることを教えてください」
「それは構いませんが、どうして先生のことを……」
「彼女に少し興味がありまして」
「わかりました。ですが、環の治療を先に済ませて頂けますか」
「それはもちろんそうするつもりです」
わずかな明かりに照らされる部屋で、実験資料に目を通す詩乃にまるが耳打ちする。
それは彼女の想定通りの内容で、同時に彼女の仮説を裏付けるものとなった。
「先生、環が病院から消えました」
「そう。やっとルナの後継が動き出したか」
「いかがいたしましょうか。コアのデータはとれているとはいえ、回収した方がよろしいかと」
「いや、もうあれに用はないし、せっかくだから束の間の感動に浸らせてあげよう」




