75話 『世界』②
「世界、災厄、再現……」
アステリアが去ったあと、エレボスは無理やり詰め込んだ情報をゆっくり咀嚼していた。
今までも様々な突飛な話を聞いたことがあるし、そういった事に慣れているつもりだった。
でも、今回は話し手もその内容も予想外過ぎる。
もしこれが他の者だったならくだらない妄言だと言いきれたが、相手があのアステリアだとなれば話は変わる。
あれだけ自信を持っていた事を踏まえると、仮説とは言えほぼ確信を得ていてもおかしくないだろう。
それに、災厄の再現をすること前提にした作戦にもひっかっかる。
災厄を再現する方法を知り得なければその前提から崩れるが、『世界』がその方法を明らかにしたくないという仮説と矛盾が生じる。
なにか抜け道のようなもの、あるいは『世界』の想定し得ない方法があるのかもしれないが、どちらも現実的とは思えない。
どちらにせよ、話の真偽は置いておいて、あれで全てではないのは確実だろう。
今はまだ全てを話す時ではないという事なのだろうか。
「まったく、気に入らないわね」
恐らくどう動こうとうまいように利用されるのだろう。
彼女の性格を考慮すれば中途半端にあの話をしたのも考えがあるのだろう。
「少し調べものをしないといけないかしらね」
エレボスが立ち上がると、それにつられるように背もたれと化していた獣も起き上がる。
彼女が手を振ると空間に亀裂が走り、崩れ始める。
ある病院の地下に作られた隠し通路。
暗闇の中を慣れた足取りで進む詩乃の隣に人が立つ。
「お帰りなさいませ。エレボス様のご様子はいかがでしたか」
「いつも通りだったかね~」
「……申し訳ございません」
「なんであんたが謝るのさ。相手があれなら情報抜かれててもしょうがないよ」
「ですが、私のせいで計画に狂いが生じました」
「あぁ。そのことだけどね、うまいこと巻き込んで進めれそうだよ。そのための準備はちょっとしなきゃだけど。それより、ルナの後継の動きは?」
「今のところ確認できていません。ただ。中央が本格的に調査を開始するようです」
「だろうね。あんだけ大事になっちゃったんだから、無理もないよ」
「複製の破片はすでに回収しておりますが、いかがいたしましょうか。今からでも中央に干渉すれば……」
「いや、何もしなくて大丈夫だよ。どうせ何も見つからないから」
「そうなのですか?」
「神の力に由来するものだから、神格の無い人間には痕跡は見つけられないよ。ルナの後継はエレボスと直接話してるから大丈夫だし、今のところ他の神格持ちは確認されてないからね」
「そうでしたか」
そう話しているうちに、二人は目的地に着く。
コンクリート打ちっぱなしの物置のような部屋で、中はそこまで広いわけではないが、それ以上には山積みにされた荷物や書類、大量の書籍などが圧迫感を感じさせていた。
「それと、先日行った実験の大まかな結果が出ました」
「おぉ! どだった?」
「大方先生の予想通りで、力の使用は日本に限られた現象のようです。一部朝鮮半島の南端でも確認出来ましたが、目に見える変化は起こりませんでした」
「そっか。じゃあ本格的に『花見』の準備、始めよっか」
「かしこまりました」




