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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第四章 学園祭編
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71話 よゆーよ

 スタジアムの屋根の上で、詩乃は下で起こっていることは眼中にないというように空を見ていた。

 あるいはそこで行われているやり取りを。

「マルちゃん」

「はい……」

 小さく、冷たい声で呼ばれたマルは今までに感じたことのない恐怖に襲われながら現れる。

「後で説明してもらうからね」

「申し訳……ございません」

 絞りだしたような声の謝罪に、詩乃は返事もせず下へと降りていった。


「なんで……」

 茜は息を整えながら敵の情報をまとめる。

 手から伸びてくる触手のようなものは短剣で切れるものの、手ごたえはまるでなかった。

 本体はそれ以上に手ごたえがなく、空を切っているようだった。

 それと、理由はわからないがなぜか悠を集中して狙っているような気がする。

 それが実力差によるものなのか、ただの思い違いなのかはわからないが、それをうまいこと使えばジリ貧の現状を変えることが出来るかもしれない。

「後ろっ!」

「まずっ」

 考えることに集中しすぎるあまり、後ろまで意識が回っていなかった。

 背後をとられた茜は簡単に無力化される。

 カバーに入ろうとした悠もそれほどの余裕があった訳でもなかったので、同じように両手足を拘束されてしまう。

 ただ明らかに違うのは、悠を掴んだ触手のようなものには腕をそのまま折るのではないかと言うほど力がこもっていて、抜け出すのは容易ではなさそうだった。

「はぁ。我ながらどうしてこんなに面倒なことをしてるのかねぇ」

 再び空から落ちてくるそれは悠と茜を掴んでいたそれを断ち切ると、即座に治療を済ませる。

 手首をさすりながら起き上がった悠の目に入ったのは、本体から伸びるすべてを片手で掴み彼を見下ろす紫髪の少女だった。

「だれ?」

「ちょっとちょっと、親愛なるおししょーさまに対してそれはにゃいでしょ」

「えっと。……うん?」

 悠は過去に見た詩乃の人間の姿を思いだそうとする。

 最後に見たのは数年も前だろうか。

 そう言えばこんな姿だった……かも?

「それで絶体絶命のピンチに颯爽と現れた私に対して何かいう事は無いのかね、わが弟子よ」

「後ろ」

「うん?」

 気の抜けた顔で振り向く詩乃には、追加で出てきたものが目の前まで迫った。

 だが、詩乃はそれらも既に片手に収めているまとまりに加える。

 それがあまりにも早く、少し離れたところにいる茜は目を疑う。

「ししょーならあれ倒せる?」

「よゆーよ」

「余裕ってどれくらい?」

「朝食後の軽い運動くらい」

「そりゃ頼もしい」

 詩乃は掴んだ手を引っ張ると、引き寄せられる本体を壁へと殴り飛ばす。

 それと同時に悠は走り出し、目の前の光景を理解しきれない茜を連れて出口へと向かう。

 壁に叩きつけられた黒い人型はふらつきながら立ち上がるが、詩乃の追撃により地面へと組み伏せられる。

「こっち見てんでしょ。後で話がある」

 詩乃は人型に耳打ちすると、上へと放る。

 それを目で追う詩乃の手には、いつの間には一本の槍が握られていた。

「うーん、大体この辺かな」

 目を細めて狙いを定めると、詩乃は腕を振る。

 放たれた槍はその反動で地面を大きくえぐり、凄まじい音と共に人型を貫く。


「大口を叩いていた割には大したことないわね、あなた」

「ええ……そうですね」

 フードの女性は黒い靄でつくられた獣に寄りかかり、頭を撫でながらステラ・ヴァレンタインを見下ろす。

 目下の彼女はすぐに傷を再生するが、肩で息をし体力の限界を迎えていた。

「わからないわね。どうやっても私を足止めするのが関の山。なのにどうしてそこまで粘るの」

「さあ。どうしてですかね」

 曖昧な回答にフードの女性は顔をしかめ、締めの一手を打とうとするが、突如脳内に響く会話に笑いをこらえきれなくなる。

「フフフ、やっぱりここまで来た甲斐があったわね」

「……なんのことですか」

「いいえ、あなたには関係ないことよ」

 突然の奇行にステラ・ヴァレンタインはより一層警戒心を高めると、下から急接近する物体の存在に気づく。

 それはフードの女性も同じだったようで、慌ててその場を離れようとするが、それより早くそれが訪れる。

 空を切る音と共に一本の槍がフードの女性へと向かって飛んでくる。

 一度は避けるも、過ぎたそれは向きを変えると再びフードの女性へと向かう。

「まるで私に力を見せつけているみたいで、気に入らないわね」

 フードの女性は飛んでくる槍を素手で掴むと、そのまま真っ二つにへし折る。

「ねえ、あなた名前は?」

「ステラです。ステラ・ヴァレンタイン」

「そう。覚えておくわ」

 それだけ言い残すと、フードの女性の体は黒い靄となりその場を去る。

 だがステラ・ヴァレンタインは追いかけようとはしなかった。

 本来は後を追いたかったが、これ以上戦う体力は残っていなった。

 その場で力の抜けた体は、逆さまになり地面へと落ちて行った。

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