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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第四章 学園祭編
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70話 フードの女性

「何、あれ」

 突然の事態に、悠は珍しくパニックになりかけていた。

 柚葉の治療をしていたら茜に投げ飛ばされ、後を追うように空から黒い人型の何かが落ちてきくる。

 それなりに知見を広めてきたつもりの悠にも、あれが何なのか予想すらつかなかった。

 観客は完全にパニックに陥っていて、我先にと出口に群がっていた。

 しかし、黒いそれはそれらには一切目をくれず、ただ一点をじっと見ていた。

 そこには、未だ息が安定していない柚葉と、彼女をかばうようにする悠がいた。

「悠さんっ!」

「ちょうどよかった。ゆずをお願い」

「お願いって、悠さんはどうするんですか」

「あれは本気でまずい」

 そう話している間も、悠さんは黒い何かから目線を逸らしていなかった。

 悠さんから会長を預かると全速力で出来る限りその場から離れる。

 本来ならこの場で出来ることはないか考えるべきなのだろうが、あんなに余裕のなさそうな悠さんは見たことなかったし、ここにいると足を引っ張るだけなのは目に見えていた。

 生徒たちの指揮もすぐに正常化し、すでに事前に用意された避難行動が取られていた。

「お姉ちゃんは……」

「さっきエレナちゃんに任せてきた」

「よかった」

 服についた土を払いながら茜は悠の隣へと立つ。

 それを聞いた茜は心底安堵した様子で、その様子に悠はわずかに不服そうにする。

「なに、僕じゃダメだって言うの」

「安心できない」

「もうそこそこ一緒にいるんだから、そこまで警戒心丸出しにしなくても良いんじゃない?」

「あんなの一人で相手したくない。それだけ」

「はいはい、壁役は多い方がいいってことね」

「……そこまでは思ってない」

 二人がそう軽口をたたきあってる間も、黒い人型はゆっくりと歩みを進めていた。

「それで、あれの対処法とかって」

「知ってるわけないでしょ」

「そりゃそうだよねぇ~」

 さてどうするものかと考えを巡らせていると、黒い人型は突如手の先を槍に変形させ投げる。

 とっさに炎の壁で受け止めようとするもまるで効果はなく、二人は左右に分かれる形でそれをよける。

 槍は地面に刺さってしばらくすると、空気中に霧散した。


 街の遥か上空、二つの人影が雲に立っていた。

 全身を覆うようなローブを着ていてもわかるほど豊満な女性は、見上げるようにするステラ・ヴァレンタインの登場にフードの下の目がわずかに細くなる。

「せっかくの機会だから色んな子を試してみたかったのに、よもやあなたみたいな小娘に邪魔されるとはね」

「お褒め頂きありがとうございます」

 嫌味のつもりだったが、素直に感謝を述べるステラ・ヴァレンタインにローブの女性はあきれた様子だった。

 一体目は様子見で、二体目以降に本命を投入しようとしていた矢先、急に現れ見上げるようにする白髪の少女によって阻止された。

 原理はわからないが、『ヴァレンタイン』というだけで考えのも無駄だと悟る。

「はぁ。それで何がしたいのかしら? もしかして、あなた一人で止められると思ってるいるの?」

「そうですね。可能であればお引き取り願いたいのですが」

「もし断ったらどうなるのかしら」

「気は進みませんが、武力行使をしてでもここを守らせていただきます」

 フードの女性にとって今のステラ・ヴァレンタインは取るに足らない相手のはずだが、言いようのない緊張感があった。

 それが少女が『ヴァレンタイン』というだけなのか、あるいは何か別の理由があるのか。

「もしかしてあなた、ルナの神格を持ってるの……?」

「だとしたら何かあるのでしょうか」

「いいえ。ただ、少し昔を思い出しただけよ」

 ローブの女性の口元がわずかに緩むと、ローブの内側から山ほどの黒い靄が溢れ出る。

 それらは女性の隣に集まると、だんだんと人一人分くらいの剣へと形成されていく。

 女性はそれを優しくなでながら昔のことを思い出す。

「懐かしいわ。あの時は複製(これ)を作るので精一杯だったなんてね」

「思い出に浸っているところ申し訳ありませんが、こちらもあまり時間をかけられないので、本気で行かせていただきます」

 ステラが両手を合わせると、下に広がる雲は集まり雷を纏った巨大な槍へと姿を変える。

「やっぱり面白いわね、あなたたち」

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