67話 いざ学園祭②
「いやぁ~こっちも盛り上がってるね~」
「音葉……」
「ちょっとちょっと、そんな顔しないでよ」
事前の連絡なく生徒会室を訪ねる音葉に、柚葉は複雑な表情をする。
環のこともそうだが、他人に心配をかけたがらない音葉が疲れを隠しきれていない事がより不安をあおる。
「でも……」
「環のことなら今日は」
「それもそうだけど、私は音葉のことも心配だよ。前会った時よりやつれてるし」
「それは……」
柚葉に言われるまでもなく音葉は自分の限界をとっくに過ぎていることはわかっていた。
見た目にも気を使っている彼女にとって、今の状態は過去には想像もできないほどひどいだろう。
それでも、大切に思う人のために自分を投げだして尽力する彼女を、柚葉は止める気にはなれなかった。
「ちょっと待ってて、悠呼んでくるから」
「うん、ありがと。そういえば、エレナちゃんは元気にしてる?」
ソファに腰を下ろし、リラックスした音葉は一口飲み物を口にする。
「元気といえば、まぁ元気なのかな。今も校内の見回りしてもらってるし」
「それはそれは。柚葉と違って随分と働き者だね」
「そんな嫌味言える元気あるなら、心配して損したかね」
「悪かったって」
柚葉は笑いながら悠に電話をするため、部屋の隅の方へ行く。
長いこと付き合いがあるからこその距離感に、茜は悟られないように注意して音葉をじっと睨む。
「あなたが柚葉の妹ちゃん? ウチのことは……、知らないよね」
「三枝音葉……中等部でお姉ちゃんと同じ部屋だった人」
「驚いた、まさか知られてるとは」
「お姉ちゃんが言ってた。大事な友達だって」
「そっか」
茜にとっては全く面白くないが、音葉の微妙な反応は嫌でも気になった。
「何か、不満でもあるの」
「ううん。そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ、今振り返ると、ウチは柚葉に何も出来てない気がするんだよね。結局柚葉はすごい人で、私はついて回るだけ」
「そんなことないと思う」
「え?」
自身が良く思われていないと思っていた音葉は、まさかの返事に驚きを隠せなかった。
「こっち来る前のお姉ちゃんは、なんていうか頑張ってた。笑ってる時も無理してたし、ずっと周りの目を気にしてた、気がする。けど、こっち来てから見るお姉ちゃんは、自然体って言うか、無理してる感じがしてない」
「それは、他にもたくさんの人の影響はあるでしょ。それこそ不知火君とか」
「やっぱり、少し休んだ方がいいよ」
「柚葉……?」
2人の会話を遮るようにして、柚葉は音葉を背もたれ越しに抱き寄せる。
「私の知ってる音葉はそんなネガティブなことは考えなかったよ。いつも明るくて、みんなを引っ張てく太陽みたいな人。だから私も気を張らずに話せたんだよ」
「……違うよ」
「違わない。今はゆっくり休もう? 環君のことはそれからみんなで考えるから。大丈夫、大丈夫」
しばらくそうしていると、いつの間にか音葉は久しぶりの安眠を得ることが出来た。
「音葉はね、定期的にこうなっちゃうの」
柚葉は膝に乗っかった頭を優しくなでながら、起こさないように注意して話す。
「自分の事放ってでも人のために頑張って、自分の限界を超えても頑張っちゃう。それが音葉の良いところなんだけどね」
「欲張り」
「そうだね、確かに欲張りかもね」
茜は柚葉の隣に座ると、肩に頭を寄りかからせる。
「何してるの?」
「試験までちょっと休憩」
「はいはい、そういう事にしてあげる」
学園祭が始まり早30分、未だ詩乃さんの隠したボールは見つかってない。
大量の人がいる状態でギフトを維持するのに慣らしてきたつもりだったが、脳への負担は想像以上に大きかった。
「トイレに準備室、使われてない部屋と……」
詩乃さんのことだし見つけずらいところじゃないかと予想は立てたものの、想像以上に捜索は難航していた。
そして、今校内を回っているのは見回りも兼ねているため、捜索だけに集中できないのも痛かった。
こうなるとしらみつぶしに探していった方が早いかもしれない。
今後の作戦を考えながら廊下を歩いていると、中等部らしき生徒に声をかけられる。
「あの……」
「はい。なんですか?」
「その、入試のことで聞きたいことがあって」
恐らく質問の内容的につけていた生徒会の腕章を見て声をかけたのだろう。
紫陽の本入試は一次試験に筆記試験を行うのは毎年同じだが、二次試験の内容は年によって変わるらしい。
先日生徒会室にも今年の入試内容についての案をのせた資料が届いていた。
ただ、当たり前だが細かい内容は部外者、ましてやその入試を受ける受験生に話すわけにはいかない。
「えっと、二次試験の事ですよね。申し訳ないんですが、外部の人に話すわけにはいかなくて」
「あっ、そっちじゃなくて、一次試験の方で聞きたいことがあって」
「一次試験ですか?」
聞いた通りなら、一次試験は例年大きな変更は無いはずだ。
「その、試験日こっちに来れないかもしれなくて、それで別日か本国での会場を用意してもらえないかと思って」
「そうですか。学校には伝えておきますね。一応名前を伺っても良いですか?」
名前を聞かれると思っていなかったのか、生徒は一瞬驚いた表情を見せ、少しためらいぎみに名乗る。
「……彗。神楽彗」




