62話 ごめんって
詩乃とエレナが話をしていた時、校庭の隅にある二つの人影は話をしながら準備運動をして、体をほぐしていた。
「付き合ってくれるのは嬉しいけど、こんな朝早くにいいの?」
「ん~、ししょーから無茶振り貰っててさ。どっちにしろ朝からやらなきゃだったし、大丈夫だよ」
「無茶振り?」
「そう。昨日の晩にフラ~っと来てさ、学園祭までに新しい技を一つ考えて来いってさ」
「それはまた凄いのが来たね」
「とりあえず色々試してみようとは思ってるけど」
「そう。それで何か案はあるの?」
「まだなんもちゃんと考えてないけど、すぐ思いつくのだと……」
そう言って悠は指先に炎を集約させる。
ただ、それは柚葉の想像以上に小さく、悠の指を離れて飛んでいくスピードもとてもゆっくりだった。
不思議に思った矢先、炎が地面に触れると爆音と共に巨大な火柱が上がる。
その結果が想像通りだったのか、悠は満足そうに火柱を眺めている。
「このバカっ!」
「そうだよねぇ。これじゃ火力不足だよね」
一方の柚葉は怒り気味に悠の頭を引っ叩く。
ただ、その意図は全く伝わっておらず、悠は懲りずにより威力を出す方法を考えようとしていた。
「そうじゃなくて、早朝にこんなでかい音鳴らすなって事!」
「あ、そっち?」
「今の時間考えてよ、苦情来るのもう嫌だよ」
「ごめんって」
「はぁ、もういいよ。それより、私もそろそろ始めないと」
「ゆずは何するの?」
「最優先は開けた場所での機動性の確保。もともと建物とか木とか、そういうものがある前提で考えてたから」
「そっか。入試は校庭でするからそういうのが無いのか」
「うん。ただ、どうも方法が思いつかなくてねぇ……」
柚葉は手で鎖をいじりながら考えを巡らせるも、有用なアイディアは全く出てこなかった。
「機動性なら茜ちゃんは?」
「あぁ、あれはギフトで身体能力を強化してるから、参考にはならないかなぁ」
「うーん……。今から体鍛えるとか?」
悠は思いついたことをそのまま口にするが、ふと違和感に気づく。
「そういえば茜ちゃんは? いつも一緒にいると思ってたけど」
「それが最近さ、朝どっかに行ってるらしくて、一緒にいないんだよ」
茜の中の優先順位を考えると、常に一緒にいると思っていた悠には予想外の返答だった。
「へぇ、心配になったりしないの?」
「そりゃ最初はびっくりしたけど、朝食の時には帰ってきてるし今はそこまでかな。というかこのまま姉離れが進んでくれると嬉しいんだけどなぁ」
「寂しくないの?」
「どっちか選べって言われたら寂しいけど、このままじゃちょっと将来が心配でね。来年からのことも考えないといけないし」
「そっか。高校はどうするのかね」
「何回か聞いてみたんだけど、教えてくれなくてね。たぶんあの感じだと、家の方にも言ってない気がするんだよなぁ」
早朝、人の影の無い道を高速で走る一人の少女がいた。
「おはようございます。今日も精が出ますね」
「西城さん……。おはようございます」
「頼まれていた通り摸擬戦形式で手続きを致しましたが、本当によろしいのですか?」
「はい。ありがとうございます」
西城はバックから書類を取り出し、茜は渡された書類を大事そうに眺める。
「わざわざ校外でのやり取りを希望されるなど、出来る限り秘密にしたいというお気持ちは理解しておりますが、少なくとも数日前には戸田様、お姉さまにもお話が行きますが、それはよろしいのですか?」
「本当は当日に言ってビックリさせたかったけど、こればっかりはどうしようもないんですよね」
「はい。そういう規則になっていますので」
「じゃあしょうがないです。それに、西城さんにも沢山お願いを聞いてもらいましたから」
「ご期待に添えたようでしたら何よりです」




