51話 不知火悠
ある日、父親がいなくなった。
後には多額の借金だけが残り、生活は一変した。
母は1人で僕と妹の真奈の2人を育てるため、いくつもの仕事を掛け持ちし、寝る間も惜しんで働いた。
それでも母はいつも笑っていた。
あなた達が居てくれるだけで元気が出る、これが母の口癖だった。
ただ、無理が祟ったのか次第に寝込む日が増えていった。
そんな事が続いたある日、事は起こった。
いつものように学校から家に帰ると、母は玄関の前で泣いていた。
何が起こったのか聞いても返事が無かったが、ふとある違和感に気づく。
「ねぇ母さん。真奈は……」
どこにいるの?
そう聞くより先に、母の肩がビクッと震える。
真奈に何かあった。
そう本能的に感じ、部屋中を探そうとした時ふと机の上に置かれた一枚の紙が目に入った。
恐る恐る手に取ると、ある住所が書かれていた。
ここからそう遠くはない場所だった。
「ねぇ、母さん。真奈はどうしたの」
「しっ、仕方なかったの!! お金がないなら、真奈を連れてくるって言われて。それで……」
「そっか」
そらから何を話したかはよく覚えていない。
気づけば家から飛び出し、紙に書かれた住所の場所まで走っていた。
紙に書かれた場所は使われなくなった港の倉庫という、いかにもな場所だった。
大きな扉を少し開け中を覗いてみるが、真っ暗で中の様子は何も分からなかった。
仕方が無いのでギフトを使い灯りをつけてくと、信じられない光景が目に入る。
拘束され檻に入れられた人が、ざっと見ただけで20人前後。
ただ、その時の僕はそんな事に構っていられるほど余裕がなく自分を抑えるのに集中していると、奥の方から数人の大柄の男が出てきた。
「なんだぁ? ただのガキじゃねぇか」
「誰だよ、客が来たとか言ってたの」
「いや、ボスが今日は太客が来るって言ってたから」
「あー、そーいやそんな事言ってたな」
男達は酒瓶片手に近づいてくると、諭すように話す。
「ここは子供の来る場所じゃねぇから、すぐに家に帰りな」
「そーそー、このおじさん怒ったらちょー怖いから。言う通りにした方がいいぞ?」
「妹は、真奈はどこにいる」
「は? まな? 誰か知ってるか?」
問いかけに対する反応は様々だったが、総じて答えは同じだった。
が、その内の1人が思い出したように話だす。
「あー、あれか? 今日入ってきた娘がそんなタグ付けてたかも」
「そーだっけ?」
「……たしか、『博士』が買うって聞いたな」
「うわっ、マジかよ。それ、ロクな死に方しないじゃん」
「前は確か4日だったか?」
「それでも持ったほうだろ」
「最近はどんどんペース早くなってるからな。いっそ一日立たずにつぶしちまうかもな」
「おいおい、さすがにそれは勘弁してほしいぜ」
冗談交じりに男達は話し、ついにはどれだけもつのか賭けをし始める。
それを聞いた時、自分の中で何かが音を立てて壊れた気がした。
あるいは枷が外れる様な感覚。
その瞬間、全身が燃える様に熱くなり、倉庫内の温度が急速に上がってく。
その後のことはちゃんとは覚えていない。
気づけば炎の中で一人膝をついていて、周りには溶けた人の様なものがいくつも転がっていた。




