43話 嵐は突然に①
悠と柚葉が話をしているのと同じとき、白陽総合学園から少し離れた場所にある公園のベンチに音葉が座っていると、ふと隣に静かに人が座る。
「こんな時間に呼ぶなんて、一体何を考えているの? 音葉」
「そう言う割に、きっちり時間通りにくるんだね」
言葉とは反対に、音葉の目は沙羅のことを睨みつけていた。
「環が入院しているの、知ってたよね?」
「ええ。それが?」
静かに答える沙羅に音葉はしびれを切らし声を荒げ、胸倉をつかむ。
「なんでそんなに冷静でいられるのっ?! 心配になったりしないのっ!」
「入院して心配? いいえ、全く。今の環の隣には音葉がいるのでしょう? あなたなら安心して環を任せられる」
「なにそれ、全然わかんない。勝手に学園を出てって、環がどれだけ苦労したかも知らないくせに」
「やっぱり。音葉にも話してないんだ」
「話してないって、なんのこと?」
沙羅はつかまれている腕を振り払うと、冷静に話し始める。
「環には、私たちが紅輪に行くことを相談してたの。その後にどうなるかも話したうえで、環は今の状態を選択した」
「じゃあ、2人が紅輪に行く意味は?」
「それは……」
沙羅は言葉を詰まらし、これ以上は時間の無駄だと判断した音葉は踵を返す。
一方、決心をつけた沙羅は静かに言葉をこぼす。
「……病気なの」
「え?」
「今は詳しいことは割愛するけど。ただ、一回発症したら後は死を待つのみ。そういう類の病気だって」
「なにそれ。なら尚更そばにいようとか思わないのっ! 心配になったりしないのっ?!」
「心配? ……そんなのとっくの昔にしてるよっ!!」
これまで沙羅が声を荒げることろを見たことのない音葉はあっけにとられ、呆然とする。
「もう助からないかもって覚悟を決めた! 環が一人で泣いてるのも嫌と言うほど見てきた!! それでも……。それでも、少しでも助かる可能性があるなら」
今まで誰にも言ったことのない気持ちをぶちまけて、あふれ出る涙をぬぐった沙羅は地面に崩れ落ちる。
「ごめんなさい。取り乱した」
「ねぇ、沙羅。私にも何か出来ることない? 話を聞くくらいは出来るから」
音葉は膝を抱える沙羅を抱きしめ、優しく頭をなでながら話しかける。
「ごめんなさい。そう言ってくれるのはうれしいけど、音葉を巻き込めないから」
「そう。でも無理だけはしないで」
音葉と別れた沙羅は虚空に向かって話しかける。
「紗奈、終わったよ。帰ろう」
しかし、あるはずの返事は無く、沙羅の中にわずかな焦りが生まれる。
「紗奈? どうしたの?」
しかし、紗奈の代わりに出てきたのは一人の少年だった。
「あ~いたいた。随分と楽しそうだったね。さっきの友達?」
そう楽しそうにはなす少年を見て、沙羅は顔をしかめる。
「なんでここに居る? 神楽綾人」
「ねぇ、一応俺の方が立場的に偉いんだから、呼び捨てはどうにかしてもらいたいんだけど」
「私はまだあなたを認めてない。久遠さんが生きてたら、あなたなんかとっくに」
「そこまで久遠桜がいいかねぇ。どっちにしろ、その久遠桜はもう死んだんだし。というか俺が殺したからどっちにしろ想像の通りにはいかないと思うけど」
綾人は笑いながらそのようなことを口にする。
「家の用事でしばらく留守にするって聞いてたけど」
「あぁ、そうだったんだけど、少し予定が変わってね。ところでさ、君たち姉妹は何やってたの?」
「何って、友人と少し話を」
「とぼけるなよぉ。俺たちの留守中に学園内で何やってたのかって聞いてんだよ」
綾人がそう言い切る寸前に沙羅はその場を離れようとするが、暗闇から出てきたもう二つの影を見て動きを止める。
「紗奈っ!!」
「うるさいなぁ。気絶してるだけだから、そんなに騒ぐなよ」
「こんなことして何が目的なの?」
「目的? それを知りたいのは僕たちの方なんだけどなぁ。ずいぶん前から君たちが久遠桜の実験データを外部に持ち出しているのは知ってるんだよ。理由は?」
「言うと思う?」
「まぁそうなるよね。てなわけで、戸田柚葉を引っ張て来てほしい。そしたら妹は開放するし、今まで通り実験データの共有もしよう。君たちにとってメリットしかないと思うんだけど、どう?」
「本当に?」
「あぁ、もちろん。信じられないって言うなら誓約書とか書く?」
「いえ、わかった。場所は?」
「そうだなぁ。第三実験場、あそこなら人も近づかないしちょうどいい。でも長々と待たされるのは嫌だから、一週間ぐらいで頼むよ」
「わかったわ」




