34話 ちょっとだけ昔の話②
それから、私は夜に仕事の愚痴と不知火君の愚痴とを交互に聞くのが日課になっていった。
そんな事が一年近く続いたある日。
2年生の夏休みに柚葉は連邦会の仕事で1週間近く遠征に出ていた。
「ただいま」
「おかえり、お疲れ様」
「うん」
いつもなら帰ってくると直ぐにベットに横になるのに、今日は珍しく座っていた。
「浮かない顔だね。仕事で何かあったの?」
「遠征先にさ、不知火君が居たんだよ」
「えっ? 彼は連邦会のメンバーじゃないんだよね」
「そう。多分個人的な用でだと思う」
「それはすごく意外だけど……」
「彼さ、私達が抑えるはずの犯罪グループの拠点を1人で制圧してたんだよ。それも、捕らえられてた人が無傷なのはもちろん、犯罪者にも死者は居なかった」
「それは……。すごいね」
「そう。凄かった」
「強かったの?」
「すごい強かった。本気で戦ったらまず勝てないと思う」
「そんなに」
「それに、普段とのギャップが凄過ぎて。頭の中ぐちゃぐちゃになって」
「カッコよかった?」
「うん。不覚にも」
「それで惚れたと」
「うん。うん? えっ、いやいやいや、惚れたとか。ないない。うん。ないね」
「そう? 顔真っ赤にしてたけど」
「いやいや、それは」
否定しつつも、柚葉は赤く火照った顔を両手でパタパタと扇いでいた。
後から考えれば、これが大きなきっかけになったんだと思う。
次第に不知火君の愚痴は減っていき、柚葉の中での不知火君印象は少しづつ良くなっていった気がする。
「へぇ、そんな事があったんですか」
「まぁ、話聞く限り高等部行ってからは、友達って言うより相棒みたいな関係になってるけど」
「それもそれで良いんじゃないですか?」
「んー、まあそうなんだけどね」
そんな事を話していると、わずかに音を立てて部屋のドアが開く。
そこには環さんドアに寄りかかるようにして立っていたが、とても顔色が悪く目の下には大きなクマが出来ていた。
「すいません。遅れ、ま……」
そう言いながら歩き出すも、足取りはおぼつかず直ぐにその場に倒れてしまった。
「え? ちょっと、環!? しっかりしてっ!」
駆け寄った三枝さんが呼びかけるが反応はなく、環さんはそのまま病院に搬送された。




