1話 学園都市
日本国アテナ特別行政区。
通称、学園都市アテナ。
知恵の女神の名を冠するこの街は世界有数の学園都市であり、三つの学園を中心に多くの研究施設が集まり、日夜さまざまな分野の研究が行われている。
特にここ十数年はプレイヤーと呼ばれる異能力者や、ギフトと呼ばれる異能力についての研究が盛んに行われている。
そんな高層ビルで溢れる学園都市で1人の少女が立ちすくんでいた。
「ここどこ?」
四方八方から爆発音や悲鳴が飛び交うその場は秩序などかけらもない一方的すぎる破壊活動が行われていた。
長年保たれた均衡を崩したこの争いは、もともと高度な文明が築かれていた街を徹底的に破壊し、その様はまるで、築かれた文明を否定するかのようでもあった。
そんな中、一人の女性が所々崩れ落ちた廊下を駆けていた。
「何であいつらがっ!」
そう吐き捨てる女性は目当ての部屋にたどり着いたのか、部屋に駆け込むと大型の機械を次々と操作し、カプセルに入った人型の手を取る。
「エレナ、こんなお別れになってごめんなさい。でもわかって欲しい。これは貴女にしか出来ない事だから」
そう言うと女性は全ての動作が正常に完了した事を確認し、懐から一丁の銃を取り出し自らの胸に銃身をあたる。
「まさかこれをこんな風に使う日が来るなんてね……。頼んだよエレナ」
女性が引き金を引くと、力の入らなくなった体はカプセルに寄り掛かるように倒れるが、人型の手を握る手だけは決して離さなかった。
それに応えるように、人型は少女の手をギュッと握り掠れた声で呟く。
「ま、かせ……」
「収穫無しかぁ」
見知らぬ場所に立っていた私は、体に不調がない事を確かめると周りの人に話を聞こうと声を掛けて回ったのだが、何が原因なのか、全く取り合ってもらえなかった。
「何でだろ、私何か変なのかな……」
広場の噴水を覗き込み自らの容姿を確認する。
肩にかかる長さで揃えられたボブに、まだ幼さの残る顔、髪も目の色も白色なのは不思議だが大した問題じゃない。
「あとは、格好とか?」
顔をあげ、自らの服の裾を掴む。
白を基調に整えられたブレザーで、おそらくどこかの学校の制服だろうか、胸に紋章のワッペンが付いてた。
「覚えてるのは自分の名前だけ、か。わからない事だらけって言うのは、なんだか落ち着かないなぁ……」
そんな事をぼやきつつ、歩き回った疲れからベンチに腰を落とす。
「動かないでください」
一瞬のうちに何者かに背後を取られ首元に刃物を当てられる。
「あ、あの?」
「勝手に喋らないで名前と所属は?」
「えぇ? 名前はエレナ、です。所属は、わかりません。ついでに言うとここがどこなのかもわかりません」
「そう。じゃあ、しばらく寝てて」
それを最後に私の意識は途切れた。