17話 病院
「先生、茜の容態は」
自らのお腹にナイフを刺した茜は、病院に搬送されるとそのまま集中治療室へ運ばれた。
「その事でお話があります。どうぞこちらへ」
柚葉は医師に個室へと案内される。
柚葉が席についたのを確認すると、医師は話を始める。
「茜ちゃんですが、命に別状はありません。じきに意識も回復するでしょう」
「そうですか。よかった」
柚葉は緊張がとけたのか、全身に入っていた力が抜け、背もたれに体を預ける。
「ただ、どうしても分からないことがありまして。茜ちゃんは本当にナイフでお腹を刺したんでさすか?」
「えぇ、それは確かです」
柚葉の回答を聞いた医師は、手術中に撮ったであろう傷の写真を机に並べる。
「ナイフの大きさにもよりますが、常識的に考えて腹部に刃物を刺した場合、内臓にそれなりの損傷が見られます。でも私たちが確認した限り、傷ひとつ見られませんでした」
「そんな事言われても……」
「例えば、その時周りに居た人が治癒系のギフトを所持していたとか」
「それはあり得ません。応急処置をしたのは私と友人ですけど、私のギフトは治癒系じゃありませんし、もう一人はプレイヤーでもありません」
「そうですか。なら……あとは連邦生徒会に任せるしか有りませんか」
そう言うと医師は写真を片付け、部屋を出る。
病室でも茜に付き添い続けた柚葉は気づくとそのまま寝てしまっていた。
柚葉が目を覚ますと、空は朝焼けで赤く染まり始めていた。
「んっ、寝ちゃったのか……」
ベットに寄りかかった体を起こすと、顔に立てかけられていた手紙が地面に落ちる。
手紙を開くと几帳面な字でこう書かれていた。
『宮矢とエレナは無事に学園に着きました。宮矢は医務部に見てもらったが全身を軽く打っただけで、特に怪我は無いそうです。追伸、寝る時はちゃんとしないと体を痛めるぞ。九条』
手紙を置きに来たときに起こさなかったのは、彼なりに気を使ったのだろう。
手紙をポケットにしまった柚葉は、寝ている茜の頭を撫でる。
「はぁ、何で自分のお腹を刺したりするの。そんな事しなくてもお姉ちゃんは何処にも行ったりしないのに」
茜に語りかけながら頭を撫でる柚葉の手は、妹に最悪の選択をさせてしまった後悔からか僅かに力がこもっていた。
「ん……おねえ、ちゃん」
「茜、起きたの? ケガの調子は?」
目を覚まし、気怠そうに体を起こす茜を柚葉は支える。
「何言ってるのお姉ちゃん。私、ケガなんてしてないよ」
そう話す茜はベットの上で立ち上がろうとするが、バランスを崩して倒れてしまう。
「えへへ、寝起きだからかなぁ」
茜の様子を不思議に思った柚葉は昨夜の事を問いただすが、茜はそれを始め記憶喪失事件に関する事全てを綺麗さっぱり忘れた様子だった。




