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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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113話 さあ、終末を始めよう

 アテナの空の上、セントラルタワーすらも見下ろす位置に二つの人影があった。

 紫紺の髪をたなびかせ、アステリアは全身で陽の光を浴びている。

「良い天気だね~」

「……そうね」

 笑いながら話すアステリアに対し、エレボスは冷たい声で答えた。

 雲一つない晴天の日、風が全く吹かないというのは何とも風情があっていい。

 そうアステリアは考えていた。

「なに不機嫌になちゃって。今朝のご飯はお気に召しませんでしたかにゃ~」

「くだらない事言ってないで、早く始めたらどうなの」

「もー、ちょっとは楽しもうとか思わないの?」

「この状況を楽しめるのはあなたぐらいよ。流石のルナも、そこまで能天気じゃないでしょうね」

「はいはい、始めればいいのね。まるちゃーん」

 詰まらなさそうに言うアステリアが手を叩き名前を呼ぶと、彼女らの周りに紙吹雪が舞う。

 それが収まると、アステリアの前には真っ白な着物を着た少女、まるが現れる。

 先日アステリアの計らいで顔を隠すための面を白紙に戻された彼女は、今までにないほど静かに答えた。

「……はい」

「今までご苦労様だったね」

「こちらこそ、様々なことを学ばせていただきました」

「大したことは出来てないけど。まぁ、満足してもらえたならよかったよ」

 最後に一度抱き合うと、まるはエレボスの方を向く。

「エレボス様からも、多くの事を学ばせていただきました」

「だったら、それは全部忘れなさい。あなたはアステリアの後を追う必要は無いのよ」

「既に手遅れじゃない?」

「そうね、あんたのせいでね」

 ちゃちゃを入れるアステリアに、肩をすくめながらエレボスが返す。

 何のことでもないやり取りに、まるはクスっと笑った。

「先生の事、お願いします」

「ええ」

「じゃあ、さよならだね。目が覚めると、多分白髪のちびっ子の神が居ると思うから、彼女に全部話して。災厄の事も、私の事も」

「良いのですか?」

「うん。セレネにあれこれ聞かれるだろうけど、残りの力を消費するまでだから、ちょっと辛抱して」

「私はこれ以上何も望みません。既に最も大きな願いを叶えて頂きましたから。先生が望む結果が得られることを祈っております」

 まるは身体を委ねるようにアステリアの方を向くと、アステリアは彼女の胸に手を入れ、文字通り身体から魂を引きはがす。

 激痛の伴う行為のはずなのに、まるの様子はどこか満足そうにエレボスには映る。

 アステリアが手を抜くと、まるの身体はチリとなり天へと昇って行った。

「あの時、種は全て回収されたと思っていたのに……。まさか、こんな身近にあるなんて」

「ルナは確かに凄いよ。けど、この方法は彼女の流儀には反するから想定していなかったんだろうね」

 アステリアが手を開くと、硬貨程の大きさの植物の種らしき物体があった。

 かつて神の領域を目指した人々によって生まれたそれは、評議会によって全て回収されたとエレボスは聞いている。

 その回収をルナ・ヴァレンタインが行っていたこともあり、まさかこのような方法で隠せるとは思いもしなかった。

「確かにそうね。まさか、種を隠すためだけに新しい人格を創るなんて暴挙、誰も予想出来ないもの。それも、種を母体とする以上、種を消費すれば人格は消える。あなた、神じゃなくて悪魔を名乗った方が良いんじゃない?」

「なんとでも言いな。まるちゃんにはちゃんと説明してたんだから」

「もしあの子が嫌がったらどうするつもりだったの」

「さあね。何か別の方法を取っていたかもしれないし、強引に進めてたかもしれないね」

 種を見つめながら、アステリアは過去を思い出すように言った。

 かつて彼女の事をまると名付け、利用しようと計画した日の事を。

「それより、これで後はピースをはめ込むだけだよ」

「わかってるわよ」

 アステリアに急かされエレボスが指を鳴らすと、彼女の周りの空間に亀裂が走り、中から黒い靄で形成された人型が大量に湧き出る。

 紫陽学園の学園祭の時に出したものを改良したそれらは、あの時の数倍の火力を得ていた。

 街へと落ちていくそれらを見ながら、アステリアは両手を広げ宣言する。

「さあ、終末を始めよう」


「ゆず、そっちは?」

「避難は大方終わったけど、建物の被害が……」

 こんな急に始まるなんて……。

 雨のように街に降る黒い靄の人型を見上げながら、悠は頭を悩ませていた。

 つい十数分前まで平和そのものだった街は、人型の到来によって破壊されつくされようとしている。

 崩壊する建物と人型から逃げようとする人であふれ、中央はその対応に追われていた。

「この辺りは大丈夫か……」

 柚葉、茜と三人で手分けして避難誘導をしていた悠は、周りに逃げそびれた人が居ないことを確認してひとまず息をつく。

 幸いというべきか、人型にそこまでの敵意は無く、前みたいに悠のことを狙う様子はなかった。


「いよいよですか……」

「何、緊張してんの?」

「まさか、あり得ません」

 セントラルタワーの上層にある一室。

 あちこちから煙の立つ街を見ながら、ステラと桜が話していた。

 過去にないほど体がこわばるステラは、桜の挑発するような言い方に笑って答える。

「これより、対終末作戦を開始します」

 ステラは全神経を向けた。

 資格のある者にしか感じられない次元へと昇り、巨大な膜を張る。

 それが街全体を覆った時、現実の景色にも変化が現れた。


「やっとか……」

 空を見ながら悠は呟いた。

 彼の視線の先では、セントラルタワーを中心に透明な板のようなものがこの街を包み込むように広がっていく。

「悠、ぼーっとしてないで、避難誘導優先! 私もすぐそっち行くから」

「わかってるよ」

 柚葉からの通信を受け、悠は次の場所へと向かって走り出した。

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