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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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111話 覚悟①

「そして世界が終わる、と……」

 神楽家へと戻り、桜ちゃんは大まかにまとめながら終末の存在、そのための対策などを悠さんへと話した。

「信じるかはどうでも良い。戦いたくないなら、フェニックスのコアだけ残して安全な場所に避難しても良いよ」

「安全な場所なんてあるの?」

「先生の計画通りに終末が発生すればある。それでも、一時的なものになるだろうけどね」

 桜ちゃんの話に、畳の上で姿勢を崩し壁に寄りかかる悠さんの顔は次第に曇っていく。

 無理もないだろう。

 ついさっきまで知る由も無かった未来を知らされ、それが終わらないと妹の蘇生を出来ないと言うのだから。

「エレナちゃんはこの事知ってたの?」

「私もちゃんと知ったのは最近です。終末に対抗するために私が生まれたと、そう言われました」

 暗い顔のまま頭を抱える悠さんは、どこか迷っているように見える。

 桜ちゃんは言わなかったが、私のしる限り終末に勝てる確率は高くない。

 少なくとも、何か一つ間違えた手を打てばそれが取り返しのつかないミスになりかねない。

 悠さんの事だ、きっと桜ちゃんの言わなかったところまで想像しているのだろう。

「……その終末とやらが終わらないと、真奈は助からないんでしょ」

 うつむいたままの悠さんは、静かに沈黙を破る。

「少なくとも、ステラはそう言ってた。私はこの辺興味なかったから分からないけど、まぁあれの言ってた理論も納得できる」

「やるよ。それに、ゆずがやるって決めたならその隣に立っていたいし」

 静かな闘志、言葉通りに受け取ればそうなるはずなのに、悠さん奥底には何か別の物がある、そんな気がして止まない。

 それを桜ちゃんも分かっているはずなのに……。

「そう、助かるよ」

 静かに答えると、桜ちゃんは鳥さん(フェニックス)が意識を憑依させた人形を連れその場を後にする。


「悠さん……無理はしないでください」

「無理はしてないよ……多分」

 こうも生気のない悠さんは初めて見た。

 その原因が迷いなのか、それとも何か別にあるのかは分からないけど、これは他人がどうこう出来る問題じゃないのは何となくわかる。

 それでも、彼よりも一歩先に立ち入った者として何か出来ることがあるのでは、そう思ってしまう。

「自分でも分からないんだよ。急にこんな事言われて、真奈の事で精一杯だったのに世界の事とか……」

「邪魔するぞ」

 悠の言葉を遮るように、部屋へと神楽綾人が入る。

 まさかここで再会するとは思わなかった悠は、彼の登場に僅かに顔を上げた。

「何であんたが……いや、ここ神楽家か」

「柚葉が呼んでる。早く来い」

「……わかった」

 放つように言う綾人の言葉に、悠は力のこもらない声で返事をしフラフラと立ち上がると、壁を支えにしながら部屋を出ようとする。

「……ちょっと待て」

「何、行けとか行くなとか」

 そんな彼が綾人の横を通り過ぎようとした時、その肩を綾人は掴んで引き留める。

「お前、本当にあの時と同じ人間か?」

「はは、笑えない冗談だな」

「この前お前と戦った時、俺がお前から感じた脅威がまるで感じられない」

「余計なお世話だ。こっちは急にあれこれ言われて、感情が定まらないんだよ」

 引き留める手を振り払おうともせず、悠は乾いた返事だけをする。

「もう一度俺と戦え、不知火悠」

「断る。ゆずが呼んでるんだから、行かないと」

「今のお前があいつに会ったところで、迷いが増えるだけだ。これ以上神楽の邪魔をするな」

「ゆずは今の神楽に関係ないだろ」

「なんだ、知らなかったのか。柚葉は神楽の次期当主の座をついだ。今日から正式神楽の名前を継ぐそうだ」

「なんだよ、それ……」

 柚葉の過去を知り、この家の事をどう思っているか、その強い気持ちを知っているからこそ、その言葉が与える衝撃は綾人が想像していた以上の物だった。

 突然意識が引き戻されたのか、悠は走り出して行ってしまう。

 そして衝撃を受けたのは、その会話を聞いていたエレナも同じだった。

 あの歴史を見たからこそ、彼女に神楽家を継ぐという選択肢があることが考えられない。

 想像してなかった結末にうろたえていると、別の問題で理解に苦しむ綾人と目があう。

「何だ、あいつ」

「あなたは……」

「お前は……彗が言ってた保護生か」

 床に座り見上げる彼女を見てしばらく考えると、かつて彗が言っていた存在と結びつく。

 話には聞いていたが、まさかここまで『ヴァレンタイン』の面影があるのか。

「私の事を知ってるんですか?」

「あー、そうか。顔を合わせるのは初めてか。神楽綾人だ、学園の用事が無いときは基本彗のおもりをさせられている。彗は……会ってるはずだよな」

「おもり……ですか…………」

 それが比喩なのかは分からないが、真面目な顔をして話すあたりまぁ苦労に耐えないのだろう。

「彗は一度感情的になると手が付けられないし、家への帰属意識がまるでない。敵対したと思われるよりはよっぽどましだよ」

 その……お疲れ様です。

 なんて声に出せないけど……。

「それより、あいつの様子はなんだ。前に戦った時とは別人のようだぞ」

「その、色々とありまして……。たぶんまだ整理が付いてないだけなんだと思います」

「整理か……終末に対して、そこまで迷うことがあるのかねぇ」

 理解出来ないことはそう直接いうタイプなのだろう。

 ため息をつくと床に腰を下ろす。

 彼の事は話には聞いていたが、それよりも物腰柔らかに感じる。

 事情が事情だったのかもしれないけど……。

「あなたも知っているんですか?」

「あ? あぁ、神楽の名前を得た時に概要だけな」

「それで……どうして、それで落ち着いていられるんですか」

 終末の存在を知った時、私はほとんど精神体に近い状態であったのにも関わらずそれなりに衝撃を受けた。

 悠さんに至ってはあの様子だ。

 私の純粋な疑問に対し彼はしばらく考えると、言葉をまとめながらといった様子で話はじめる。

「そうだな……多分興味が無いんだろうな。終末も何もかも。力で解決できる問題なら、俺らが強くなって解決すればいい。それだけだから」

 そう言い切る表情には迷いや戸惑いが一切感じられなかった。

 なんとシンプルな……。

 でも、それくらいの方がいいのかも……?

「どうせ頭を使うのはヴァレンタイン家の役割で、神楽家は戦闘部隊って組み分けされてるんだ。役割に忠実に従う事も時には必要だってことだ」

 そうか……。

 長い歴史全てが終末への対策そのもの。

 ルナさんが降り立ったその時からの全てが終末への布石だった。

 そう考えると、これだけの用意をしてもなお賭けの多い勝負とは、本当に侮れない……。

「それじゃ、俺は行く。あんたからもあいつになんか言っておいてくれ。悔しいが、あれがへばると戦力差がバカにならない」

 それだけ言うと、彼は部屋を後にする。

 終末……。

 ルナさんが言うには、ある神の興味本位での行動だと言っていた。

 そんなのは認められない……認めたくない。

「もっと力を付けないと。私にしか出来ない方法で、私にしか出来ないことをする為に」

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