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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第八章 終末編
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110話 招待状 

 時は少し戻り、まるによって悠との戦闘の場から呼び出されたエレボスは、まるを先導に森の中を進んでいた。

 小一時間程過ぎたあたりからエレボスの不信感は次第に増していく。

「樹って、本当にこんな場所にある物なの?」

「私にも詳しい事はわかりません。ですが、先生が言うにはこのあたりで間違いないだろうと」

「未だアステリアの事が良く理解出来ないわ」

「長い付き合いだと先生から伺いましたが」

「長い付き合いだからこそわからなくなるのよ」

 エレボスから見て、ルナもアステリアもある意味で言えば行動原理はシンプルで、とても分かりやすいものだ。

 だからこそ、そばで見ているとそれ以上がまるで判断出来なくなる。

 どこまでが真実で、どこからが嘘なのか、その堺が見分けられないのだ。

 目的の為であれば当たり前のように他者を欺き、知識の為であればいかなる犠牲も問わない。

 それこそが彼女らが師事した者の教えだというのならば、親の背を見て子は育つという言葉の意味が良くわかる。

 あんな姉を持ちながらセレネがまともに育ったのは、恐らく育手の腕が良かったのでしょうね……。


「これです」

 考えをしていたエレボスの意識は、前を歩くまるの声によって引き戻された。

 まるの指す先にあるのは木々に囲まれた小さな社で、とても『樹』が生えているようには見えない。

「これが樹なの……?」

「ええ。そのはずです」

 エレボスがそれに触れようとした瞬間、大地が大きく振動する。

 なぜそのようなことが起こるのか分からなかったが、それがこの社に関する自称だというのは直観的に理解した。

 そして、直後にもっと理解に苦しむ現象が発生する。

 地面から無数の光の玉が現れ、社を囲むように集まっていくのだ。

「なるほど……確かにこれはルナらしいわね」

 その様子を眺めながら、エレボスはようやくこれらの現象が起こった理由を理解する。

 この光こそが樹そのもので、同時にこれらすべてはルナの計画したパフォーマンスに過ぎないと。

「それで? ここからどうすれば良いのかしら?」

 とは言え、樹に何を施すのか知らないエレボスがまるを見ると、彼女は胸を抑え地面に膝をついていた。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「わかりません。急に、胸が苦しくなって……」

「これは……想定より拒絶反応が強かったかにゃ~」

「先生……これは…………」

 いつの間にかエレボスの肩の上に現れた猫姿のアステリアは、まるの額に肉球を押し当てる。

「大丈夫、直ぐに良くなるから」

 いつになく優しい声色のアステリアは人の姿へとなると、地面にまるを横たわらせる。

 まるの息が安定すると、アステリアは彼女の顔を隠す布に書かれた墨の文字を一つ一つ指でなぞるようにして消していく。

「それで、一体何を企んでいるのかしら」

「ちょっと、なにさ。まるで私が悪者みたいな言い方して」

「間違ってはないと思うのだけれど。世界の樹をいじるなんて、まともな神がすることではないんじゃない?」

「まぁ、否定は出来ないか……」

 布が完全な白紙になったのを確認すると、アステリアは立ち上がり改めて樹を見上げた。

 光の粒が集まるようにして形を成す大樹は、見れば見るほどその完成度の高さに感動を抑えられなくなる。

 これほどの改変を行えるのは、ルナの持つ知識と特殊性によるものだろう。

 そう容易に予測出来るからこそ、アステリアはこの世界に興味をひかれた。

 そして同時に、かつて感じた違和感の正体に近づいていると実感する。

「それで、これも終末の為に必要なことなのかしら」

「終末っていうより、私の実験の為に必要なことかな」

 樹に施された隠蔽術式を解くと、アステリアから笑みがこぼれる。

 答えに近づいているという感覚は、何度味わっても毎回新鮮に感じる。

「盛大なお祭りには、沢山の参加者が必要だからね」


「失礼いたします」

 書斎、そう呼ぶのが適切であろう部屋。

 その中央のに置かれている机では、十やそこらの少女が山積みになった書類のチェックに追われていた。

 裾を引きずるほど大きい白のワンピースを着た彼女は、服の上から持った書類から視線を外すことなく苦言を零す。

「仕事の話なら後にしてちょうだい」

 扉を開けた黒服の青年は、主である彼女の言葉に反し部屋の中へと入る。

「急ぎお伝えするべきと判断いたしました」

 無言を肯定と受け取った彼は、少女の机を覆う書類の山の上に一通の封筒を置く。

「評議会の方々から急ぎ出頭するようにと通達が届きました」

「断る。どんな要件かは分からないけど、今抱えている諸問題で手が回らないと返答しておきなさい。これ以上面倒ごと増やされるのは勘弁だわ」

 評議会、つまり少女の全てを握る組織と言っても過言ではない存在からの命令を彼女は一蹴する。

 過去にも何度もこのような知らせは届き、そのたびに新たな仕事を命じられてきたのだ。

 条件反射でこのような態度になるのも無理はない、そう黒服の青年は心の中で呟く。

「……恐れながら、今回は要請に従うべきかと」

「仕事の割り振りでも考え直してもらえるのかしら。それなら喜んで行くわよ」

「ルナ・ヴァレンタイン様が亡くなったと、そう噂が流れています」

「お姉様が? ありえないわ。あれのしぶとさはあなただって良く知っているでしょう? それだけの脅威が現れたなら、私の耳にも何かしら情報が入っているはずよ」

 青年は直接ルナ・ヴァレンタインという神に会ったことは無い。

 それでも、どれだけ常軌を逸した存在であるかは話を聞くだけで十二分に知ることが出来る。

 このような噂話は過去に何度もささやかれ、そのたびに彼女が死ぬのはありえないと否定されてきた。

「……本当なの?」

「詳細は公表されていませんが、評議会の動きを見る限り間違いとは言い切れないかと」

 それでも、今回ばかりはそうも言ってられない。

 その噂に神々が悪乗りするより先に、評議会が噂の出所を調査し始めたのだ。

「厄介な時に……」

 それが事実なのかはさておき、評議会が動き出した以上彼女も無視できない。

 読んでいた書類を机に放ると、少女は頭を抱え込む。

「わかった。すぐに行くから、その間に先生に事実確認をしておいて」

「答えて頂けるでしょうか」

「たぶん答えないでしょうね。けど、情報は言葉以外からも得られるものよ」

 暫くの沈黙ののち答えると、青年は礼をして部屋を去る。

 一人残った少女は、背もたれに寄りかかると目を閉じ全身の力を抜く。

「ほんと、面倒くさい……。全部まとめて……」

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