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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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108話 最悪の再会②

「久しぶりだね、桜ちゃん」

 優しい声でそう語りかけるエレナだったが、一度振りあがった拳が急に止まることは出来ない。

 そもそも、少女に止める意思がなければ止まるはずも無かった。

「どういう事だ」

 勢いよく振り下ろされる拳がエレナにぶつかる寸前、何者か彼女の手首をが握る。

 目の前で起きている事、というより彼女らが話している内容を完全に理解できない悠だったが、それでも今仮面を取られ拳をふるう彼女が彼が追い求めていた久遠桜本人であることはすぐに理解出来た。

「お前が……本当に久遠桜で『博士』なのか」

 髪が赤く燃え、彼女の手首にはあざが残るほどの握力で握る彼も、完全に怒りに支配されてはいなかった。

 彼が知る宮矢咲夜という人間と久遠桜を、どうしても結びつけられなかったのだ。

「そうだよ。宮矢咲夜は私のもう一つの姿。けど、残念。博士は私ともう一人との共同名義なんだよ。だから、あんたの探し物は……」

「そうか……」

 烈火を全身に纏い、全てを焼き尽くす勢いの悠は、迷いに対する答えを得たことでためらう必要がなくなる。

 彼の発する熱により、空間は灼熱に包まれた。

 それは幼き日に彼が起こしたものとはレベルが違い、水は瞬時に蒸発し、呼吸をすれば肺が焼かれる、文字通り地獄と呼べる空間を作り出す。

 常人であればとっくに焼け死んでいる空間だったが、幸いというべきか、ここに居るのはどれも常識では測れない存在だけだった。

「両者やめんか」

 そんな中、どうにか止めなければいけないと思ったエレナが動くよりも早く、悠と桜の間に炎で形成される一匹の鳥の姿が現れる。

 飾り羽を折りたたんだクジャクのような見た目のそれは悠の纏う炎から分離するような形で姿を現し、羽を広げると辺りを侵食していた炎が振り払われる。

「鳥さん……」

「久しいな、桜。息災であったか」

 桜は悠に握られていた手首を振り払うと、そこをわざとらしくさする。

「変わらぬな。なぜ本気で対処しない」

「手札は簡単に切らない、それが先生の教えだからです。それに鳥さんの力全てを使えない状態の相手に本気はもったいないでしょ」

 鼻で笑いながらわざと挑発するように言った桜だったが、その証明と言わんばかりに彼女の傷や怪我は元通りになった。

 それどころか蒸発した池の水や地面の焦げた跡、悠の暴走によって影響を受けた全てを元通りに復元する。


「また知り合いなの」

 不貞腐れるように言う悠に、フェニックスはどう説明するべきか、次に話す言葉を考えながら答える。

「ああ……今まで話せずすまない。確信が持てぬ以上、お主にいらぬ感情を持たせてはいけないと思ってな」

 熱が冷めたのか、あるいは今までとは違うフェニックスの登場の仕方に驚いたのか、悠はその場で呆然とする。

 そして、離れた場所でそのやり取りを見ていたエレナは別の驚きを感じていた。

 過去の世界で会った人形の鳥と目の前で威圧感を放つそれが同一の存在であるという事実に、自分の感覚を疑うほどの衝撃を受けていた。

「あなたは森の中で……」

「ふむ。我にはお主に会った記憶はないが、どこかで」

 こぼれるように出た言葉にフェニックスが返すが、その瞬間にエレナはある存在を思い出した。

 ルナさんの認識阻害、あの時もそれをかけられたかんざしを付けていたけど、こんな格上の存在までその影響を受けるなんて……。

 そう言えば、桜ちゃんと初めて会った時からずっとつけていたから、私の事をちゃんと覚えていないのもそのせいか。

 周りとは違う衝撃の受け方をしているエレナに対し、桜は服についたすすを払いながら冷たい声で言う。

「それは先生の人形です」

「そうか、道理でルナの娘に似ているわけだ」

 エレナのことを見るたびに感じていた謎の既視感の疑問が解け、すっきりした様子のフェニックスは一息つくと改まって桜の方を向く。

「それはそうと、桜。こやつの妹を返しやってはくれんか。まだ生きているのだろう?」

 顔の輪郭こそはっきりとしないが、真剣な声色で言われた桜はこれがフェニックスの本心からの望みであるということをすぐに察する。

 作戦通りに行動するならここで真実を言う必要は無いが、宮矢咲夜として接していた期間の記憶も合わせると、彼が妹という存在に対してどれだけ時間と労力をかけていたのかよくわかる。

 計画と感情、そのどちらを優先するかは考えるまでも無かったが、その作戦にここに居るフェニックスの存在が必要不可欠な以上、この願いを退けることは作戦の失敗に直結する。

「……はぁ、わかったよ。けど、期待はしない方がいいよ」

 矛盾に挟まれ、頭の中でどちらの選択を取るべきか、あるいは何か別の手段はないか考えていた桜だったが、最後は根負けといった様子でその願いを聞き入れる。

「本当なんだね」

「この期に及んで嘘はつかないよ。いや、元々嘘なんてついてないけどさ」

 確認する悠に、桜は心底興味ないという態度で返す。

 実際、彼女が今気にしているのは作戦におけるフェニックスの存在だけで、彼やその妹の事はその入れ物程度の認識なのも事実だが……。

 約束通り彼の妹のいる空間へと続くポータルを開くと、無言でその中を指さす。


「どうしたの、あんたは来ないの」

「良いんですか?」

 一行がその中へと入ろうとしている時、離れた場所でそのやり取りを見ているだけだったエレナに、桜は声をかけた。

 まさか自分も共に行くとは思っていなかった彼女は聞き返すが、桜はため息交じりに、全てを説明するのを実に面倒くさそうに答える。

「別に、今更あんただけ仲間外れにしようとか考えて無いし。そもそも人形のあんたにも関係ある話だから」

 そう言って手招く桜に、悠はその言葉遣いが気になったようで……。

「その人形って呼び方どうにかならないの?」

「どうにか、ね。事実を言って何が悪いの? 私にとってエレナって名前が指すのはたった一人だけで、そこの人形じゃない」

 彼の怒りに対し、桜は自分は何も悪くないといった態度で返す。

「いい加減にしないか」

「……行くよ」

 フェニックスの注意に流石にこれ以上はダメだと判断したのか、こらえた桜はポータルの中へと逃げるように入っていく。

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