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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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107話 最悪の再会①

「エレナちゃん、どう思う?」

「どうって、ステラんさのことですか?」

「それもそうだけど、この家の事とか。ゆずとこの家の未来に関わる話し合いって、何の事だと思う?」

 この部屋で目覚めてから、悠さんはずっとそわそわしていて畳の上を右に行ったり左に行ったりを繰り返していた。

「分からないです。けど……」

 ルナさんがしたという終末への準備。

 過去の世界で会った神楽の名前を持った人と、この場にステラさんが現れたことを合わせて考えれば、神楽家という存在そのものが終末に対抗するためのカードの一枚という可能性が高い。

 かといって、今行われている話し合いが直接このことに関わっているという可能性は低い気がする。

「ステラさんが直接この場に来るということは、それだけ重要視しているという事なんだと思います。きっとこの家だけじゃなくて、もっと多くのものに影響を与える話……」

 例えばこの家の頭が変わるとか、そう言う規模の話し合い……。

「はぁ、大丈夫かなぁ」

「心配ですか?」

「そりゃそうだよ。無事とは言われても、ゆずの事も気になるし、あの彗って子が茜ちゃんにあそこまで執着するのは想像外だったから」

「確かに……。それに関しては、ステラさんがいる限り大丈夫だと思いたいですね」

 神楽彗、あの子の事は話を聞いただけではにわかに信じられなかったが、会って初めてその話が誇張抜きの表現だと感じた。

 とは言え、あの感じであれば問題ないだろう。


「……そう言えば、さっきから何読んでるの?」

「これですか?」

 部屋の隅に座る私の隣に悠さんが座り、読んでいたエレナちゃんんの言っていた赤い表紙の本を覗き込む。

 当たり前だが、あの日双葉さんから譲ってもらって以降何回見ても中身は白紙のままだ。

「何も書いてない……?」

 悠さんは理解できないといった様子で呟く。

 それどころか、その目はどこか慈愛に満ちていく。

「まぁ、色々とありまして」

 ここで全てを説明するには時間が足りないし、そもそもどこから説明すればいいのか難しい。

 悠さんごめんなさい、いつかタイミングを見て説明するので変人認定するのは少し待ってください。


「これは……まさかこのような形で再び目にすることになるとは」

「これが何か知ってるの?」

 なぜ彼女がそんな行動をしているのか理解出来ずにいた悠の脳内に、突然声が響く。

 毎度何の前触れもなく現れるな、と思いつつ尋ねると、フェニックスは過去を思い出しながら答える。

「昔、一度だけ見たことがある。あの時はルナ様が持っていたが、なぜここに……」

「ルナ様って?」

「かつて我が主が世話を見てもらっていた方で、我の……親であり恩師のような方だ」

「その時も白紙だったの?」

「中身を見ていないから明言は出来ないが、恐らくそうだろうな。いやはや、このように手の込んだことをするとはあの方らしい」

 一人で納得するフェニックスだったが、何が何だか分からない悠はポカンとするしかなかった。

「少し変わるぞ」

 そう言って、突然体の主導権を奪われる。


「ほう。これはまた、珍しいな」

 突然、悠さんが私の頭に手を乗っける。

 らしくない行動に驚きその手を振り払おうとしてしまうが、手首を触れた時強烈な吐き気に襲われる。

 コレは悠さんじゃない。

 悠さんの中に何か別の存在がいる。

「……あなたは、誰ですか……?」

 絞り出すようにする声に、"何か"はニヤリと笑う。

「そう警戒するな、人形。お主の求める答えは、我の求めるモノでもある」

 吐き気は強まっていき、先ほどまで感じていた違和感が強くなる。

 酷く酔ったように視界は歪み、思考は朦朧としていく。

 薄れゆく意識の中で、いくつもの景色が頭の中に流れ込んでくる。

 激しく燃える炎に囲まれ地面に倒れる幼い悠さんの姿と、彼に手を伸ばす紫髪の女性。

 過去の世界で森のお姉さんと呼ばれていた女性が、彼女を幼くしたような外見の少女を抱きかかえる姿。

 世界の樹に触れ、体が光に飲み込まれるルナさん。

 成長したエレナちゃんの、オリジナルの私の亡骸の手を握り、無気力にうなだれる桜ちゃん。

 地面に倒れる傷だらけの子供たち。

 血にまみれ、フラフラと体を引きずる幼い姿の会長。

 茶髪の女の子を担いで歩く白髪の女性の後ろ姿。

 電気の消えた部屋で、一人床に座る茜ちゃん。

 ステラさんと楽しそうに会話するオッドアイの少女。

 彼女がさっき見た茶髪の女の子を机の上に横たわらせる様子。

 そして、彼女が良く知った制服を身に着け、良く知ったキツネの仮面をつける姿。

 それだけじゃない。

 世界の樹に記録された全てが、情報として直接頭の中に送り送り込まれる。


「大丈夫?」

 意識がはっきりと戻った時、私は畳の上に横に寝かされていた。

 既に吐き気は落ち着き違和感や不快感は無くなっていたが、その代わりにある種の使命感に支配されていた。

「その、さっきのは……」

「……行かないと」

 先ほどのフェニックスの行動を弁明しようとした悠だったが、その続きをエレナの行動によって中断される。

 フラフラと立ち上がった彼女は、支えようとする悠に目もくれず部屋の外へと出ていく。

「ちょっと、どこに行くの」

 足元もおぼつかず、壁に寄りかかりながらエレナは一心不乱にある人を探していた。

 最初は急に立ち上がっては危ないと制止しようとしていたが、どうやってもそれを止めることは出来ないと察した悠は、せめて彼女が転ばないように肩を貸すようにしてついて行く。


 そうしてどれだけ経ったか。

 歩くスピードがゆっくりだったせいか、進んだ距離に対して時間は体感の数倍は流れていたであろう。

 縁側の曲がり角を曲がると、中庭で池の中を覗き込む"その人"の後ろ姿を見つける。

「宮矢さん……」

 力なく、絞り出したような声だったが、呼びかけにその少女は振り返る。

 無機質な仮面。

 今まで何度も見たそれは、かつてないほど不気味で異様な雰囲気を纏うように悠は感じる。

「その仮面の下にあるのを見ました。どうしてっ」

 悠の支えを振り払い一人で歩き出すエレナに、少女は支えることも無くゆっくりと立ち上がる。

「何言ってるのかわかんないよ。あ、勝手にこっちに来たことは悪いと思ってるけど、そこまで怒らなくても……」

「もう終わりにしましょう。そうエレナちゃんは言うんじゃないですか?」

 エレナという単語に反応したのか、諭すように語り掛けるエレナの言葉に少女は拳を握る。

「なんで、あんたにそんなことがっ……」

 少女はそれを振り上げたが、それがエレナに触れるよりも先に、彼女が少女の仮面を取り上げる。

 その下にあったのは、歯を食いしばり怒りのこもった白と黒のオッドアイだった。

「久しぶりだね、桜ちゃん」

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