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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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106話 私が守りたいのは……

 それは突然の出来事だった。

 空間が大きくゆがみ、部屋がまばゆい光に包まれる。

 光が晴れた時、彗と茜の間には困り顔のステラが立っていた。

「丁寧な対応をと、そう言ったはずですよ」

「まだ何もしてないでしょ」

「もし私が現れるのが一秒でも遅れれば、どうしていましたか?」

「……わかったよ。この話は後でにする」

 流石の彗もステラの圧には負けるのか、うなりながら渋々受け入れる。

「お待たせして申し訳ありません。連邦生徒会会長、ステラ・ヴァレンタインと申します。どうぞお見知りおきを」

 振り返り茜達の方を向くと、ステラは名乗り丁寧に礼をする。

「なんであなたがここに……」

「先ほど、彼女にも同じことを言われました。やはりあなた方は良く似ていらっしゃる」

「それってゆずのこと?」

「ええ。彼女は今、自室で休んでいますよ」

「そっか、良かった」

 柚葉の無事を確認出来てまずは一息、そんな様子の悠にステラはつい笑みがこぼれる。

 不思議な巡り合わせですね、彼らは。

 本当によく似ています。

 怒るとこや大切にするもの、辿る運命さえも……。

「とりあえず、皆様を一度本邸の方へお送りします。その後、茜様には話し合いに参加いただきたいのですが、よろしいですね?」

「お姉ちゃんのこと……ですか?」

「ええ。そして、神楽家の今後を決める場でもあります」

「うん。わかった」

 茜はしっかりとした声で返事をする。

 あなたも変わりました。

 一人で立てるようになったんですね。


 ステラを中心に皆が集まり本邸へと向かう準備が出来た時、エレナは一人未だ周りを不安そうに見回していた。

「あの、ステラさん」

「何でしょうか」

「宮矢さんはどこに居るかは……」

「彼女は先に向かわれましたのでご安心を」

「そう……ですか」

 宮矢さんはなんで黙って先に……。

 ううん、そうじゃない。

 今考えないといけないのはもっと根本にある問題……。


 神楽家の本邸。

 その中でも広く開けた部屋に柚葉が一人で座っている。

 部屋を抜ける心地よい風に撫でられながら、彼女は目を閉じ自分の考えに集中していた。

 要件を伝えられることなくこの場に来るよう言われた彼女だったが、呼び出したのがステラである以上何となく話の内容も見えていた。

 頭の中を様々な考えが巡る中、突然その背中に衝撃を感じる。

「お姉ちゃんっ!」

「茜……? どうしてここに来たの」

 背中に飛びつくようにして抱き着いた茜に、柚葉の頭の中は一気に彼女の事で埋め尽くされた。

「ごめん……ごめんなさい…………」

「ううん、私こそ……ちゃんと守ってあげられなかった。ごめん……」

 泣きながら謝罪する茜の涙が肌に触れ、柚葉の目からも自然と涙がこぼれる。

 腕を後ろに回し茜の頭に触れると、抱きしめる腕に込められる力が増した気がした。

 もう離さない、そう言っているような気がして、頭を撫でていた手はいつの間にか抱えるようにしていた。


「ねえ、あれいつまで続けさせるの?」

「しばらくはあのままにしてあげましょう。感動の再会なのですから」

 その様子を離れた位置から彗は口先を尖らせながら眺めていた。

 何が不満なのか、考えるまでもなく明らかだ。

「居心地が悪いのですか?」

「ふんっ、なんで彗がそんなこと考えないといけないの」

「そうでしたか。それは失礼しました」


「それで、話というのは……」

 柚葉は顔についたままの涙を手で拭い、気持ちを切り替える。

 大事な話し合いだということが分かってるからか、自重して柚葉の隣に座った茜はせめてもの気持ちとして彼女の手を握った。

「柚葉様の想像通り、神楽家の次期当主の事です」

「当主って、お姉ちゃんが?」

 冒頭から予想だにしない内容の発言を喰らい驚く茜に、柚葉は無言で頷く。

 情報を咀嚼しきれていない茜をそのままに、ステラは話を続ける。

「まずは先代の遺書を読み上げます。『これが読まれているということは、私はもう死んでいるのだろう。病気か寿命か……いや、きっと誰かの手により殺されたのだろう。もしそうであるなら、それが私の子供たちであることを願う。私の死をもって、あの子たちがより高みへ昇華してほしい。私の死後、この家の一切については次の当主へと任せる』以上です。そして、慣例に従い次代の当主は柚葉様にということで家の中でもまとまっているようです」

 神楽家はすべてが実力で決まるという特殊な環境にある。

 次期当主になりたければ、それだけの力を持つということを示す必要がある。

 そして、最も簡単にそれを証明するのが家で最も強い者、つまり現当主を殺すことだった。

 とは言え、記憶にある限りそんなことをした人がいたという話は聞いたことが無い。

 けれど、今回は意図せずにその要件を満たしてしまったという事になるのだろう。

 詩乃先輩の言った通り、この家に助けられた人は何人もいる。

 最後こそ悲劇だったものの、若菜さんだってこの家に救われた一人だった。

 だからこそこの家の頂点に立つという判断も、壊すという判断も簡単に取りたくないと思ってしまう。

 それに、終末に対抗するという使命を背負うのは、本当に私で良いんだろうか。

 もっと他に適任が……。

「ステラさん……本当に私なんですか?」

「ええ。あなたにはその資格があります」

 ステラは頷きながら静かに答える。

「ですが、先日私はそこに居る彗に負けました」

「それは、あなたがまだ自身の内にある力の一部しか使いこなせていないからです」

「……あなたはそれでいいの?」

 視線を部屋の隅の方に居る彗へと向けると、彼女はいつの間にか持ってきて頬張っていた練り切りを手に持ったまま答える。

 この緊張感の無さは、彼女特有の個性なのかもしれない……。

「彗? うーん、彗が楽しかったら当主とか誰でもいいかなぁ。そもそも彗はこの家にそこまで執着してないし」

 そう言って、再び練り切りを実に美味しそうに食べる。

 その様子を見てると、彼女があの狂気に満ちた笑顔をしていたのが嘘のように感じてしまう。

 ある意味、彼女も神楽に人生を変えられた一人なんだ。


「……お姉ちゃん?」

 心配そうに見上げる茜が握る手に力が込められる。

 どこにも行かないよねと、そう問われているような気がする。

 今思うと、最初のきっかけは茜だったんだ。

 若菜さんという支えを失くした私を、この子が引っ張て一人で立てるようにしてくれた。

 その後も悠が知恵を貸してくれて、詩乃先輩が力を付けてくれた。

 下らない話をする宮矢がいて、真面目なのにたまにふざけるエレナがいて…………。

 懐かしいなぁ。

 まだ数日しか経ってないはずなのに、あの賑やな日々が遥か昔のように感じる。

 あぁ、私が守りたいのは……。


「ステラさん、さっきの話は本当なんですか?」

「ええ。もし信じられないと言われるなら……」

「いえ、信じます。少なくとも、あなたがこんな嘘を言うとは思えません」

 私はみんなを、この日常を守りたいから。

「私が神楽家の跡を継ぎます」

「そうですか」

 宣誓ともとれる彼女の発言と覚悟のこもった瞳に、ステラは一言だけ、静かに答える。

 長かったです、ええ本当に。

 これでやっとスタートラインに立てるのですか。

 あなたの願いは絶対に叶えて見せます。

 お母様。

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