105話 客人
「ここが神楽家……」
西城さんを先頭に森をしばらく進むと、立派な門を構えた屋敷にたどり着く。
事前に打ち合わせた通り塀の中の様子をギフトで見ようとすると、ある違和感を感じた。
「なんで……」
「どうかしたの?」
何が原因なのか考えていると、不思議そうな顔をする悠さんが顔をの覗き込む。
「中の様子がはっきり見えないんです。霧がかかったみたいになっていて、人が居ることはわかるんですけどそれ以上はどうにも……」
「いや、人数と大まかな配置さえわかれば後はどうにかなるからそのまま続けて」
試しに見る場所を神楽家の外へと移すと靄が晴れるから、原因は家の方にあるのだろう。
妨害の方法がわからないと対策のしようが無いし、今ある情報だけではその特定も不可能に近い。
悠さんの言う通り、今欲しい最低限の情報は手に入るからこのままでも問題は無いのかもしれない。
「……はい」
だというのに、なんだろうこの感じは。
これで終わりじゃない、そんな嫌な予感がする。
中の様子や構造を大体把握しきった頃、そのタイミングを見計らったように、一人が門の方へと近づいてきた。
「一人近づいてきます」
私の声に、みんなの視線は一気に門へと向く。
誰が出てくるのか各々が警戒していると、ゆっくりと門は開き、年を取った女性の声が聞こえる。
「どうぞこちらへ」
姿の見えない相手にかけられた声にみんなは目を合わせる。
ついて行っていいのか考えていると、ある人影が私たちの間を抜けて行った。
「おひな……?」
「行きましょう」
なぜ彼女がそのような行動をしたのか理解出来ない悠の呟きに、陽菜は静かに答える。
警戒をしながらもその後に続くと、女性は家の中へと歩き出す。
屋敷の中はよく言われる武家屋敷のような造りだったが、古さを全く感じないほど綺麗な状態だった。
そして最も予想外だったのは、外から見た以上に広く、人の気配がまるで感じられない事だ。
どこかちぐはぐで、自分の感覚すらも信用できないと感じる。
「失礼いたします。お客様がお見えです」
扉の前で立ち止まった女性は扉を僅かに開けると、隙間から中へと声をかける。
返事は返ってこないが、その代わりに扉が完全に開く。
中に入るよう促され部屋へと入ると、そこは剣道場のような場所だった。
丁寧に手入れのされているだろうその部屋を見回していると、部屋の中央、床の上に一人の少女が横になっているのを見つける。
「神楽彗……」
彼女が誰なのかを認識した茜は、名前を呟くと同時に一気に警戒心を高める。
「しばらくぶりだね、茜ちゃん。それに赤髪のお兄さんに、ヴァレンタインの人形さんと狐のお面の人。そして最大の功労者、お友達の西城陽菜」
起き上がった彗は、嬉しさを隠しきれないという様子でいた。
人数確認はどんどんと早口になっていき、嬉しいという気持ちは段々と興奮へと変わっていく。
「どういうことなの」
彗の言い方が気になった悠は、すました顔で隣に立っている陽菜に視線を向ける。
それでも自分は何も悪いことはしていないと考えているからか、彼女は声を荒げることなく静かに応えた。
「我が家は情報屋です。対等だと判断する対価が支払われれば情報を渡す。そこに例外はありませんわ。例えその内容があなた方のであったとしても」
「違う、おひなはそんなことは……」
「これが私の、我が家のルールです。あなた方とは少し……距離が近づきすぎてしまいました」
そう言う彼女の声は震えていて、表情もどこか感情を押しつぶしているように悠の目に映る。
長いこと付き合いのある彼には、どうしても彼女がこんなことをする人のようには思えなかった。
「まー、とりあえずその人を怒らないで上げて。みんなは彗のお願いを聞いてくれただけだから」
彗は手を叩きながら話の間に入ると、その視線を茜へと向ける。
「茜ちゃんは言わないでもわかるでしょ?」
彗の細めた目に彼女の背筋は凍る。
それは獲物を前にした猛獣のようで、彼女の最も嫌な記憶を思い出させた。
「あの時の続き……でしょ」
「そう。あんな結果じゃ茜ちゃんもイヤでしょ? もっと沢山、ちゃんと正々堂々と殺しあわないと」
狂気、そう形容するのが最も近いであろう彗の様子に、茜は押しつぶされそうになる。
違う、今大事なのは……。
「なら、先にお姉ちゃんに会わせて」
「それは彗が決められることじゃないからなぁ。彗のお願いを聞いてくれたら、彗も一緒にお願いしてあげてもいいよ?」
煽るような言い方の彗の言い方に、茜よりも先に悠が反応する。
「そんなこと出来るわけないでしょ」
彗を睨む彼の手には炎を纏い、すぐにでも攻撃に転じられる用意が出来ていた。
だが、茜は激昂する彼を止める。
「わかった。でも、みんなは先に行かせて」
「そんなこと言って、また前みたいに」
「大丈夫。もう前とは違う」
この家を外から見ていた時から続くこの嫌な感じは一体……。
ギフトで中が見えないのと何か関係があるんだろうか。
その違和感を裏付けるように、この家に入ってからこの感覚はどんどん強くなっていっている。
「違う。この感じ、どこかで……」
過去に、どこかで感じたこの感覚。
いつなのか思い出さないと……。
「宮矢さん、この感覚……って、宮矢さん?」
何かのきっかけにならないか、そう思って周りを見回すと宮矢さんの姿は見えなかった。
「なんで……」
「んー、まぁ茜ちゃんがお願いを聞いてくれるならいいかな」
ニヤリと笑いながら、考えるまでもなく元々決まっていたであろう答えを口にする。
「はぁ。あの時もそうでしたが、なぜあなたは言われたことを守れないのでしょうか」
「ステラさん……」




