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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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103話 赤い表紙の本

 人のいない廊下を進んんだ先。

 突き当りに行くと、人ひとりの身長を優に超える高さの大扉の前につく。

 それを開き、しばらくぶりに禁書庫へと入る。

「随分と騒がしくしているね」

「会長が神楽家にさらわれたそうです」

「うん、知ってるよ」

 見上げるほど高いところまで本の積まれた円形図書館。

 その中央にある大机には、相変わらず本に囲われる双葉さんがいた。

「それで、そんな大変な時にエレナちゃんは何の用事でここへ? まぁ、とりあえずお茶でも入れようか」

 本によって建てられた壁を崩し、彼女は部屋の隅にある小さな扉をくぐり茶葉の入ったポットを持ってくる。

 カップに注がれると、紅茶の甘い香りが鼻を抜ける。

「私が最初にここに来た時に見た赤い表紙の本って、まだ持っていますか?」

「もちろん持ってるよ」

 彼女は机の引き出しを開けると、一冊の古びた表紙の本を机の上に置く。

 世界の樹でエレナちゃんに見せてもらったものよりも劣化が進み、鮮やかだった表紙の赤色はところどころ変色が進んでいた。

 受取ろうと手を伸ばすと、私の手を避けるように双葉さんはそれを引っ込める。

「でも、これって一体何なのかね。中身は白紙だし、古い物のはずなのにそれにしては劣化が少なかったり」

「私も知らないですけど、何か大事なことでも書いているんじゃないですか?」

「いいや、エレナちゃんはこれが何か知っている。だから取りに来たんだよね」

 彼女の眼は細くなり、全てを見透かしているのではと思ってしまう。

 でも双葉さんの前で、エレナちゃんの事は話すことは出来ないし……。

「……何が言いたいんですか?」

 彼女につられてか、自然と私の返答にも力がこもる。

「あー、勘違いしてほしくないんだけど、私はただ知りたいだけね。なぜ今になってエレナちゃんがこれを取りに来たのか。そもそもこれは一体何なのかをね」

「……大切な人に頼まれたんです。その本の中に書いてあることをある人に伝えてほしいって」

 この答えで満足してくれればいいんだけど、そううまくいく気がしない。

 そして、こういう嫌な予感に限りよく当たるものだ。

「大切な人ね。例えば……そう。本物のエレナ・ヴァレンタインとか?」

「どうして双葉さんが……」

「なんとなく想像はつくよ。そもそもこの本の裏表紙にうっすらとだけど、『エレナ』って名前書いてあったし」

 実際に裏表紙を開いてみると、隅の方にうっすらと名前が書かれていた。

 とは言え、もともと私が作られた存在であることは知らないはずだ。

 一体どうして……。

「双葉さんは、いつ、どうやって私が人間じゃないって?」

「私がこの街のことで知らないことはないからね、って言いたかったんだけど、実は悠の行動が少し気になってね」

「悠さんですか?」

「そう。ちょうど白陽の文化祭のあたりからちょくちょく調べものに来ててね。まぁ、本の内容とタイミングを考えれば、自然とね」

「そんなことが……」

 そもそも調べものをしているという話も聞いたことがなかった。

 多分クローンかなにか、少なくとも私のことに関わるなにかを調べていたのだろう。

「で、話を戻すけど、これ白紙だよ? 前にも確認したと思うけど」

「そうですけど、なんか今なら読めるような気がするんです」

「それは興味を惹かれるね」

 にやりと笑うと、彼女は本の上に乗っけていた手をどけるとこちらへと差し出す。

 それを受け取り、表紙へ手をかける。

 こうして触ってみると、見た目の劣化度合に合わずさらさらとしている。

「行きますよ……」

 そうつぶやくと、机の上に身を乗り出し本を覗き込むようにする彼女はこくりと頷く。

 彼女の許可も得て、一息つくとゆっくりと本の表紙を開き、ページをめくってく。

「……やっぱり白紙ですね」

「まぁ、なんとなく想像はしてたけど……」

 やはりと言うべきか、いくらページをめくっても書き込みらしきものは一つも見つからなかった。

 エレナちゃんが嘘を言うとは思えないし、この本にまだ何かあるのか……。

 そして、これを持った時から、ただならぬ存在をこの本から感じる。

 その正体が何か関係あるのかもしれない。

「とりあえず、それは持って行っていいよ。ここにあっても重しにすらならないしね。それに、エレナちゃんが持ってた方がいい気がするし」

 とりあえず目標は達成したが、この本の謎を解き明かすまではエレナちゃんとの約束は果たせないだろう。

「そういえば、神楽家に乗り込むんだって?」

 椅子へと戻り読みかけだった本を開いた彼女は、思い出したように尋ねる。

「はい。茜ちゃんは今度こそって大張り切りですよ」

「あの家は一筋縄では行かないから、よく用心するんだよ。いつ、どこで見てるかわからないから」

「そこまでなんですか?」

「真の意味であの家のすべてを全て把握している人は、片手でも十二分なほどしかいないだろうから」

 そう言って、彼女は指を一本一本折っていく。

「双葉さんはその一人なんですか?」

「多分、私は違うかな。情報は生き物だから常に変化をしている。だけど、ここにあって、私が知っているのはすべて過去の記録だからね。みんなよりは知ってることもあるだろうけど、これをあの家の全部と呼ぶにはちょっと少なすぎるかな」

 この街のすべてがここにあるという話を聞いたことがあるが、逆に言えばこの街の外のことはここには保管されていないということなのだろうか。

「まぁ根底にあるのが家の問題である以上みんながどこまで出来るのかはわからないけど、柚葉の力になってあげて。これはみんなにしか出来ないことだから」

「はい」

「それと悠に言っておいて。今後私とここの情報を使う時は、相応の対価を要求するって。じゃないと絶対に手を貸さないからって」

「……一応伝えておきます」

 悠さん、何したんですか……。

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