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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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102話 計画

「さてと……それじゃあ情報の確認も終わったし話を元に戻そうと思うんだけど、茜ちゃんが回復した今、戦力差の問題はこれ以上議論しても終わりがないから……」

「そうすると、どこに会長がいるのかが問題ですね」

 話を聞く限りその神楽彗という子の強さが規格外なのは間違いないだろうが、今回の目的が会長の奪還なら一時的に行動を封じさえすればどうにかなるのだろうか。

 とはいえ主戦力である悠さんと茜ちゃんがそこに拘束される以上、残りの部分を私と宮矢さんで対応するということだろうが、それはいくら何でも力不足な気がする。

 どう転んでも、苦しい戦いになるのは間違いないだろう。

「エレナちゃんのギフトで探すのは?」

「出来なくはないですけど、時間がかかりますし……。せめて範囲をある程度絞ってからじゃないと……」

 さっきから色々と試して分かったのが、過去に行く前よりもギフトが体に馴染んでいるような気がする。

 より思い通りに、自在に扱えるようになったように感じた。

 あの時エレナちゃんからもらったもう半分についてはまだその存在を感じられないが、ああいう風に言った以上、何か見えないところで影響があるのかもしれない。

「範囲か……茜ちゃんは神楽家のことについてゆずから何か聞いてないの?」

 茜ちゃんはしばらく考えると、無言で首を振る。

「お姉ちゃんは神楽家のことについてあまり話してくれなくて。家の場所は何も……」

 期待に応えられない事を申し訳なく思っているのか、茜ちゃんの声量は終わりに行けば行くほど小さくなっていった。

 ただ、会長の性格を考えれば茜ちゃんにそこに関わってほしくないという願いでの判断なのかもしれない。

「そっか。やっぱり何事も専門家に聞くのが一番なのかな」

 悠はポケットからスマホを取り出すと、ある人へとメッセージを送る。

 短い一文だけだったが、向こうはそれに慣れているのかすぐに返事が返ってきた。


「それで、神楽家の場所を教えてほしいと?」

「そう。前に神楽家の様子を注視しているって言ってたでしょ?」

 悠は保健室での話を抜けると、空き教室へと彼女を呼んだ。

 過去に何度もこういったことがあったからか、顔色一つ変えずに待っていた彼女だったが、神楽の名前が出るとわずかに表情が雲る。

「細かいところまでよく覚えていますわね。確かに我が家は神楽家の管理下にある建物の場所を複数把握していますが、それとこれとは話が別ですわ」

 いつものように協力的な答えがもらえると思っていた悠は、その答えに戸惑う。

「……今回は何が望みなの」

「対価の問題ではありませんわ。神楽家の情報を扱うとなると我が家としても慎重にならざるを得ません。少なくともこの場で私が判断できることではありませんわ。それに、不知火様は神楽家に乗り込んで勝ち目があると思っているのですか?」

「それは……」

「私も戸田様のことは残念だと思いますが、これはいずれ彼女が向き合うべき問題でもありました。今回皆様が助けに入ったところで、問題の先送りにしかならないとは思いませんか?」

「でも……今のゆずはにはまだ……」

「神楽家という組織にとって彼女は重要な立場にいるようですから、今すぐその身に危険が降りかかることも無いでしょう」

 悠が答えに詰まり、部屋に静寂が訪れる。

 そんな時、西城の携帯が鳴る。

 その話の内容に彼女は驚愕するが、即座に自身の感情より家の判断に従う判断を下す。

「はい、かしこまりました。そのように対応いたします」

 電話を切った彼女は、部屋を出ることもなく考えを巡らせる悠へ声をかける。

「不知火様、事情が変わりましたわ」

「家の許可が下りたの?」

 うつむいていた彼は顔を上げると、なんとも言えない表情をした彼女を目があう。

「そのように考えていただいて構いません。戸田様の場所の特定は私たちの方で行いますので、皆様は武力衝突が起こった際の対処のご準備を」

 それだけ言い切ると、彼女は逃げるようにその場を立ち去る。

「戦力って言っても、どうするかなぁ」

 ただ単に頭数を増やしたところで作戦に有利に働くとは考えづらい。

 下手に人数だけを増やすぐらいなら、少人数で一点突破した方がいくらかましだろう。

「少数精鋭……って言っても都合よくいないよなぁ……」

 頭を悩ませる彼にも考えがないわけではなかった。

 フェニックスの力を使えば作戦の成功率は跳ね上がるだろう。

 この期に及んで隠し続ける理由こそないが、同時にむやみやたらに使うような力でもないのも確かだ。

 『切り札は隠しているからこそ切り札になる』。

 昔詩乃に言われた言葉が頭の中に巡る。

 言い回しこそ別なものの、柚葉の話で神楽家もこの考え方をしていることが分かった以上、あの時見た神楽彗の力は本気ではなかった可能性が大いにある。

 相手の本気が未知数な以上、こちらの手札を不必要に露出するのは避けたい。

「傷の回復に自己蘇生か……」

「先に言っておくが、我とは無関係だぞ」

「まだ何も言ってないけど」

 突然脳内に響く声に、彼の気はいくらか軽くなる。

「でも、似てるよね」

「戦いづらいか」

「どうだろ……全く同じじゃないなら自分の情報は参考にならないかなぁ」

 ギフトの結果だけ見れば似たように見える現象も、実はその本質が全くの別物であるということはよくあることだ。

 エレナの時に頭を悩ませた話題だが同じ空間把握という結果でも、超音波の反射で空間を把握するタイプ、透視能力の応用によるタイプ、そして実際に彼女のケースだったテータとして集めた物を頭で処理するタイプ。

 根底にある力がわからない以上、それに特化した対策も立てられない。

 そして、ギフトの内容以上に問題なのは、彼女が死を恐れているようには見えなかったという点。

 自分が傷つくことを恐れずに突っ込んでくるのは、戦闘力がない相手ですら対処に困るのだ。

 そこに並外れた戦闘力が合わされば、鬼に金棒だろう。

「使ってきたのがつるなら、燃やせるのかなぁ……」

「神楽の名を持つからには、そのように単純な対策では無力化は不可能であろうな」

「前から気になってたけど、なんでそこまで神楽家に詳しいの?」

「そうか、まだ話していなかったか。我が眠りにつく前、その設立に立ち会ったのだ。それ以降の事は何も知らぬが、神楽の名込められた意味と役割を考えれば……いや、この話は我の口からすべきではないな」

 話を中断すると、そのままフェニックスの存在が薄まっていくのを感じる。

 続きを聞こうにも、こちらの呼びかけには全く答える気配がない。

「はいはい、これ以上聞くなって事ね」


 部屋を出て、一人静かな廊下を歩いているとどうしても考えてしまう。

 あそこまで釘を刺されていた神楽家の情報について、なぜこうも簡単に渡す許可が出たのか、と。

 西城家の頭であるおばあ様が比較的保守的な考えをしているのを良く知っているからこそ、このスピードで方針を変える判断をしたことに疑問が残る。

 それだけの対価を誰かが支払ったか、あるいは……。

「お母様、一体何をお考えなのですか」

 虚空に彼女の呟きは溶けていき、その脳裏には電話を切る際に聞いた彼女の声が離れない。

「これは裏切りではない。すべてはあの方の為に」

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