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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第七章 奪還作戦編
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101話 帰還、再び

 柚葉の意識が戻った時、彼女の目に入ったのは懐かしい天井だった。

「ここは……」

 古い記憶に色濃く、悪い印象とともに残っている部屋。

 捨てた時と全く変わらないその部屋に、柚葉は帰ってきたのだと改めて思う。

 彼女は起き上がろうとするが、意思に反して体は全く動こうとしない。

「あんなに無茶したんだから、しばらくは起き上がるのも難しいよ」

 横になる柚葉から死角となる場所にいた彗は、読んでいた本を元あった山の中へと戻し柚葉の視界に入るように場所を変える。

 彼女を見た柚葉は、気絶する前の事をはっきりと思い出す。

「茜はっ!」

 大声を出した彼女だったが、続きの言葉は激しい頭痛により遮られる。

 身体が動かない事も含め、これらの原因など考えるまでも無かった。

「自分の体の状態くらい自分でわかるでしょ」

 ギフトの過剰使用による副作用。

 学園祭の時を含め二度目だったが、あの時よりもその反動は大きい。

 ただ、そんなことで今の柚葉を止めることは出来なかった。

 悲鳴を上げる体を無理やり動かし、激しい痛みに耐えながらも柚葉は起き上がろうとしている。

「はぁ。まだ諦めてないの?」

「私を……元居た場所に、帰しなさい」

「それは彗が決められることじゃないから」

 努力もむなしく、おでこを軽く押された彼女は簡単に布団に倒される。

「失礼します。お客様がお見えです」

 そんな時、部屋のふすまが開き侍女が姿を現す。

 いいタイミングで来てくれた、そう思った彗は静かにうなずく。

 彗の許可を得た彼女は振り返ると、客人を部屋の中へと招く。

「こんにちは。お体の調子はいかがですか? 神楽柚葉様」

 誰が来るのか予想のつかない柚葉だったが、その人がこの場所へ来ることは何度考えても候補にすら上がらなかっただろう。

 白のワンピースを着た白髪の少女に、柚葉は思わず見入ってしまう。

 全てを見透かすような白い瞳と目が合う。

 こうして面と向かって会うのは初めてだったが、間違えるはずがない。

「どうして……あなたが」


「それと、その……話さなきゃいけないことがあって」

「なんですか?」

「みんなエレナのことを忘れてるっぽい」

「それは……」

「何が原因かもわからないし、私だけ覚えている理由もわからないけど……」

 戻ってきたはずなのに、何となく自分だけが浮いているような不信感の正体はきっとコレなのかもしれない。

 タイミング的に過去に戻ったことが原因の可能性が高いと思うが、それを裏付ける証拠は何もない。

 現状思いつく中で最も可能性があるのは世界の樹に関係した現象だが、そうなるとどう対策すればいいのか全く想像がつかない。

 とりあえず、直接会えば何かが変わるだろう、そう期待しておくのが良いのかも……。

「わかりました。でも、きっと、直接会えば何か変わるかもしれません」

「だといいけど……」

 宮矢さんに連れられ保健室の前まで来ると、中からは言い合いの声が聞こえる。

 それは聞き馴染みのある声、悠さんと茜ちゃんの声だった。

「放して! 行かないと!」

「そんな状態で行ってもゆずに心配かけるだけだって」

「それでも、お姉ちゃんのところに行かないといけないの!」

 宮矢さんは前触れなく扉を開ける。

「すいません。遅れました」

「よかった。これで全員そろった」

 部屋へと入る彼女を見るなり、悠はさっそく本題を切り出そうとする。

 当たり前だが、彼の目にエレナは映っていなかった。

「やっぱり、本当に……」

「違いますよ」

 それを察したのか、宮矢は振り返ると呆然とするエレナの手を取り部屋へと引き入れる。

「エレナも、ね?」

 まるで知らない人を見るかのような二人の視線だったが、実際二人の記憶の中に私の事はないのか……。

 今回は宮矢さんが覚えていたからよかったものの、誰も自分の事を覚えていないというのは少し怖い。

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

 何を言えば良いのか何も考えていなかったが、宮矢さんに手を引かれ二人の前に立つと自然と頭を下げていた。

 それを見た二人は、突如頭の中に知らない記憶が流れ込んでくるのを感じる。

「え、れな……ちゃん」

 感じたことのない不快感に、悠の顔はゆがむ。


 だが、次の瞬間には何事も無かったように平然と座っていた。

「さぁ、エレナちゃんも無事に帰ってきたことだし、ゆずの奪還作戦を考えよ」

 二人が彼女のことを思い出すのと同時に、ほんの一瞬だったが、空間に大きな変化が起こったのをエレナは感じ取った。

 話をする悠に見向きもせず、エレナは虚空を見つめぼそぼそと何かを呟く。

「まず、今回の作戦にあたって最も深刻なのが戦力差。茜ちゃんは怪我で戦力として数えられないから、正面から行くのは得策とは思えない」

「私は……」

 その独り言はだんだんと大きくなり、支離滅裂な言葉の羅列が彼らの耳に入る。


 最初に感じたのは、全身が焼けるような感覚。

 次に感じたのは、頭が割れるのではないかというほどの頭痛。

 今すぐにでも意識がなくなってしまうような苦痛だったが、そんなものに構っていられないと目の前で行われていることを見て思う。

 地面に横たわり、目の前では顔の見えない少女が良く知った人を抱き上げていた。

 知らない景色なのに、実際にその場にいたのではないかというほどリアルに感じる。

 名前を呼ばないと、彼女を引き留めないと。

 そう本能的に感じ私は声を上げた。

 『お姉ちゃん!』と。


「エレナ?」

 フラフラと、虚ろな目の彼女が歩き出すのを見て、それを止めようと宮矢は慌ててその肩を掴む。

 彼女の歩みは止まり、顔が振り返るとぼんやりと虚空を見つめる目と目があった。

 今まで見たことのない彼女の変化に、宮矢は腰を抜かしてしまう。

 ゆっくりと、肩を掴む手に込められる力は抜けて行く。

 止めるものの無くなったエレナは再び歩き出す。

 茜の前へと彼女が来た時、以外にも茜は彼女のことを恐れている様子はなかった。

 それどころか、彼女が来るのを待ち望んでいるようにさえ見える。

 ベッドに横になる茜は、腕を振るわせながらそれを上げ、彼女に手を差し出す。

「接続、開始」

 その手を取りエレナが一言呟くと、二人の脳内に機械音声のようなものが流れる。

 世界樹末端への接続申請を確認。

 接続が承認されました。


 二人の体は淡い光に包まれ、神秘的な光景を作り出す。

「復元……完了」

 エレナが再び呟き、電池が切れたようにベッドに倒れるのと同時に二人を包む光も霧散する。

「エレナっ!」

 駆け寄った宮矢が彼女を抱きかかえると、呼吸は浅く額には汗が馴染んでいた。

 そして、それ以上に奇妙なのは大けがをしていたはずの茜が平然と起き上がったことだった。

「なんで……怪我が治ってる」

 当の本人もそのことに驚いているのか、手を開いたり閉じたりしたり腕を伸ばしたりしている。

「今のって……」

 その様子を少し離れた場所で見ていた悠は、夢でも見ているのではという感覚になった。

 宮矢に目配せするが、彼女は無言で首を振る。

「治癒……でもエレナちゃんのギフトは……」

 元々謎の多い彼女ではあったが、ここまで特異な存在だとは彼には想像も出来なかった。

 各々がそれぞれの考えを巡らせるなか、宮矢に抱えられたエレナはその瞼をゆっくりと開ける。

「宮矢さん……?」

「エレナっ!」

 宮矢は涙ぐみながら彼女を抱きしめるが、彼女はこの状況をあまり理解していない様子だった。

「私は……帰って来たんですか?」

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