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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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99話 またね

「気安くがその名前を口にするな」

「あららぁ、怒っちゃった?」

 鎖に絞められているのにも関わらず、彗は顔色一つ変えずにいた。

「ねぇねぇ、彗にも若菜のこと教えてよ」

 くだらない挑発、わずかな理性でそう言い聞かせても怒りは収まるどころか増していく一方だった。

 手にこもる力は増していき、主の手の動きに合わせるように鎖の締め上げる力も増していく。

 もう満足に呼吸も出来ないであろうに、それでもなお彗は歪んだ笑顔のままでいる。


 確信犯、茜はそう思った。

 短い時間でもわかるほどの狂気と身をもって感じた常識外の強さ。

 若菜という人の名前を出したのも、このタイミングで出すのが最も効果的だと判断したからなのだろう。

 実際、その名前を聞いてから姉の心臓の音は乱れに乱れている。

 今までに怒る姿は何度か見たことがあったが、ここまで怒りに狂う姿は初めてだった。


「ねーぇ、そろそろ……」

 宙づりにされ血を吐いても変わらずにそこに執着する。

 流石に我慢の限界なのか、柚葉が手を閉じると彗の首の骨は静かに砕けた。

 ゆっくりとほどける鎖の音に交じって抜け殻となった体は地面に落ちる音を聞いた茜は、抱かれていて目視は出来なかったがなんとなくの状況を理解する。

「お姉……ちゃん」

 心配、そう言っていいのかはわからなかったが、茜は今はひたすらに姉に触れその存在を確かめたかった。

 全てが終わったはずなのに、まだどこかに行ってしまうような感覚に襲われ、それを裏付けるように柚葉の全身の緊張が抜けていないのを感じる。


 ようやく解放された彗は、薄れる意識でほくそ笑む。

 あと少し、もう少しで花が咲く。

 とっておき、最後の仕上げは盛大に。

 彗が立ち上がると、宙に垂れた頭は次第に元あった位置に戻っていく。

「痛い痛い、でも全部元通り」

 始めはしゃがれた声だったが、首が形を戻すのに合わせて徐々に元に戻っていく。

「化け物が」

「うーん、柚葉には言われたくないなぁ」

 彗が両手を広げると、先に茜に切られた太いつる、それが二十本以上地面から生え柚葉を襲う。

 全方位を囲むように来た攻撃だったが、そのうちの一本が柚葉の張った鎖に触れるとつるの動きは止まる。

「こんなのでどうにかなるなんて本気で思ってるの?」

「まさか。それにしても、やっぱり柚葉は相性が悪いなぁ。だから……」

 ほんの一瞬、意識がそれた間に彼女は茜を柚葉の手元から奪いとる。

「茜っ!」

「もうあんまり時間もないし、ちょっと我慢しててね」

 彗の視界の端では、空へと昇る白い光の柱が映っていた。

 もう暴れまわる気力もないのか、茜は首元にあてられる腕をどかそうとするので精いっぱいだった。

「もうわかってるんでしょ。今の柚葉じゃ彗には勝てない。おとなしく……」

 おとなしくして、そう言い終わる前に彗の頭を何かが貫く。

 穴からは血が噴き出て、地面のみならず抱かれていた茜の顔も赤く染める。

「あぁ…………ぁ」

 言葉にならないうめき声をあげ、柚葉は地面に膝をつく。

 頭を割るのではと思うほどの頭痛に襲われ、血を吐きながら柚葉は片手でうねるそれを操る。

「お姉ちゃん……」

 力の入らなくなった腕をほどいて、茜は膝に手をつきながら歩みを進める。

 支えを失った彗の体は地面に倒れるが、意識が無くなってもなおギフトによる体の再生は行われていた。

 傷の再生が行われるのと同時に、柚葉による彼女の体の破壊は続けられていく。

 腕の傷が再生されれば鎖により捻り潰され、神経を再生すればねじり切られ、乾くことのない血の海が作られ続ける。

 目の前で命の花を枯らしかける柚葉を止めなければいけない、そう思っていた茜だったが、どうすれば姉の暴走を止められるのか皆目見当がついていなかった。

 絞りだした力で彼女を抱きしめてもそれはすでに茜の知る彼女ではなく、再生に反応して破壊をするだけのマシーンと化していた。

 いくら顔を覗き込んでも目の焦点は合っておらず、かすれたうめき声を出すだけで、理性が残っているようには見えない。

「お姉ちゃん……私は無事だから、もうやめて」

 茜の両頬を涙が濡らし、垂れたそれは柚葉の顔に垂れる。

「ぁ、あか……ね」

「そうだよ。もう、帰ろう」

 理性を取り戻したからか、彗の体を貫く鎖の動きは止まった。

 柚葉の瞳に僅かに生気が灯ると、二人はお互いに体重を預けあう。


「はい、ごちそうさま」

 彗が一つ手を叩くと、柚葉の意識は途絶え倒れる。

「お姉ちゃん!」

 慌ててゆする茜だったが、彼女の視界も逆さになる。

「またね、茜ちゃん。今回は残念な終わり方だったから、次会うのを楽しみにしてるよ」

 そう言って彼女の頭をなでると、彗は柚葉とともに姿を消す。

 あまりにも一瞬のことだったが、それ以上に目の前で姉を連れていかれたという結果が彼女の心に深く刺さる。

「あああああぁぁぁぁぁ!!」

 あたり一帯に絶叫を響かせ、強い憎悪とともに少女の意識はなくなる。

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