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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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98話 すごいすごい

 地面から無数のつるが生えて向かってくる。

 一本一本は細く簡単に断ち切れるが、数が多くて簡単に距離を詰めさせてもらえない。

「どうしたの? 早くしないと柚葉が来ちゃうよ」

 そう、急かすように言う一方で地面から生えるつるの量は増えていく。

 この状況を楽しんでるの?

 そうなると、正攻法じゃ相手にしてもらえない。

 なにか方法を考えないと。

「時間がないのに……」

 茜は頭の中でいくつもの作戦を立てては破棄していった。

 一秒、二秒……少なくない時間を使えば使っただけそれらは最適化されていく。

 考えて、考えて、考え抜いて。

 そして、彼女は考えることをやめた。

 真っ直ぐ一直線に、狙い以外は思考の外に放る。

「どーしちゃったの?」

 切り傷を増やしつつも勢いを増して飛び込んでくる彼女に、彗はその意図を理解しあぐねる。

 今まで地道につるの数を減らして道を作ろうとしていたのとは正反対の行動だからだ。

「うーん、自暴自棄……とは違うよね」

 意図はわからずとも相手に戦闘を続ける意思があることはわかった彗は、散らばらせていたつるを集めた。

 束なって一つになったつるは、茜の行く先を遮るようにつるは形を変える。

 その先がまるで花が開くように広がると、茜を中へと招く。

 周りをつるによって囲われた彼女だったが、その程度で止まるはずが無かった。

「……切って」

 そう小さく呟いた主の要望に応えるように、彼女に握られた短剣の輝きは増していく。

 その光は自在に形を変える刃となり、彼女を閉じ込める檻を切り刻む。

 散らばる破片とともに向かってくる茜を見て、彗の気持ちは高ぶっていく。

「すごいすごい」

 パチパチと両手を叩いてはしゃぐ彼女は、茜の成長を喜んでいるように見える。

 それ以上の対策をされる前に、茜は目的との距離を詰める。

 強い衝撃を一度だけ受けると彗は体勢を崩すが、それ以上の追い打ちはなかった。

 その代わりに、彗の肩には輝く刃が深く突き刺さっていた。

「あ~ぁ、武器手放しちゃったねぇ」

 彼女はそれを抜くと、傷跡はすぐに消えてなくなる。

 余裕な表情で振り返った彼女が見たのは、両手に輝く短剣を持った茜の姿だった。

「……なんで?」

 彼女が知る限り、この状況下で武器の複製は起こりうるはずがなかった。

 ギフトは自己強化系で、そんな特性の武器は持っていないことは事前に調べてあった。

 なぜ、それを考えた一瞬のスキを茜は見逃さなかった。

 反対を向いた茜は、その懐に飛び込むと彗を押し倒し首元に刃を当てる。

「私の勝ち……だよね」

 現実を受け入れられないのか、ポカンとした表情のまま固まってしまった彗の首を赤い血が垂れる。

 両者はしばらくそのままでいたが、少し経つと彗の体に入っていた力が抜け彼女の頭が地面につく音が立つ。

 それを合図と受け取ったのか、茜は地面に突き刺さった短剣を抜くとさやにしまう。

 起き上がろうとした茜は、激し頭痛に襲われていることに気付く。

「お姉ちゃん……」

 何とか立ち上がれた彼女だったが、しばらく歩くとすぐに足から力が抜けてしまう。

 よれてバランスを崩す彼女を、一人の人影が抱きとめる。

「無事でよかった」

「もう、全部終わったよ……。つか…………れた」

 心配そうな柚葉をよそに、茜は姉が無事でいたことの喜びを彼女の腕の温もりに包まれながら感じる。

 満身創痍の茜を抱きしめながら、柚葉は周りを見回す。

 地面には大きなへこみがいくつも出来ていて、何かがあったことだけはすぐにわかった。

 彼女も彼女で大切な妹が無事でいたことに安堵する。

 原因調査に中央への報告、早くも後処理のことを考えていた柚葉の耳にパチパチと手を叩く音が入る。

 死力を尽くした少女の健闘を称え、称賛する拍手する音が。

 数あるへこみの一つ、とくに大きいそこで見知らぬ少女が地面に横になったまま両腕を伸ばして手を叩いているのを見つける。

「いや~、まさか茜ちゃんがここまで出来るなんて思わなかったよ」

 その声を聴いて腕の中の彼女の身がわずかに震えたのを感じ、少女が今回の原因であることを察した。

 少女は起き上がると、血の付いた顔のまま笑顔で挨拶をする。

「彗は彗だよ。一応初めまして、ってことでいいんだよね? 柚葉お姉ちゃん?」

「神楽……」

 他では感じることのない異質な雰囲気ですぐにわかったが、彼女の知る神楽家でも感じたことのない不気味すぎる雰囲気は彼女の警戒を一気に高める。

「あなたが茜を……」

「誤解だよ。彗はただ茜ちゃんとお話したかっただけだったんだけど、どうしてもって言うから」

「信じられるわけないでしょ」

 柚葉は彗に逃げられないように彼女の四肢を鎖で押さえる。

「どうしてこんなことするの」

「柚葉に話があるからだよ」

 柚葉の前まで連れてこられた彗は、血で汚れた手を彼女に差し出す。

「神楽に帰ろう、柚葉。今の神楽には柚葉が必要なんだって」

「ふざけてるの」

「ううん。真面目な話だよ」

 真剣な表情を崩さない彗に、柚葉の怒りは溜まっていく。

 自然と拘束する鎖にも力が入り、その下の肌にあざのようなものが付く。

「お姉ちゃん、もう帰ろう」

 その一方で、柚葉の腕の中にいる茜も必死で説得をしていた。

 このままでは衝突してしまう気がしたからだ。

 だが、柚葉は優しく彼女のことをなでるだけで一歩も引こうとはしなかった。

「ごめん、茜。これは私の問題だから……」

「そうだよ、全部そう。柚葉のせいでこうなった。茜ちゃんは家族との幸せを壊され、たくさんの人が柚葉に巻き込まれた。あぁかわいそう」

「随分と口が達者なのね」

「そう? でも嘘は言ってないよ。みんな不幸になった。かわいそうな若菜(わかな)も、ね」

 若菜、その名前が出たとたん柚葉の態度は激変する。

 鎖は彗の首にも伸び、骨ごと握りつぶしてしまうのではというほど強く引き締める。

「……お姉ちゃん?」

 不安そうに見上げる茜の心配にも気づかず、柚葉は彗のことを睨みつけていた。

「気安くがその名前を口にするな」

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