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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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97話 だって、私は

「まずは、そうだなぁ。やっぱり柚葉と神楽の関係からだよね」

「お姉ちゃんが神楽の人だってことは知ってる」

「あれ、そうなの? ビックサプライズだったのに」

 嬉しそうな表情が一気にしゅんとする。

 表情が良く変わる、そう茜は感じた。

 彼女の想像する神楽家の人間はどれも戦う事ばかり考えていて、こうも表情が豊かだとは思ってもいなかったのだ。

「じゃあ、柚葉が早死にするってのも知ってるのか」

「なにそれ」

 当然のように呟く彗だったが、茜の反応にその口角が上がる。

 足がかりをつかんだ彼女は両手を合わせると、わざとらしく言う。

「あれ、これは知らなかったんだ」

「どういうことなのか説明して!」

「詳しいことは彗も教えてもらえなかったんだけどね、それが柚葉の役割なんだって」

「そんなのどうでもいい!」

 立ち上がる勢いだけでつるの拘束を引きちぎった茜は、隣に座る彗を地面に押し倒し首を腕で抑える。

 だが、その腕は小刻みに震えていた。

「怖いの?」

「認めない。お姉ちゃんは絶対に死なせない」

「茜ちゃんの努力じゃどうにもできないこともあるんだよ」

「絶対に助ける方法を見つける」

 ある種自身への宣言のように思える言葉を残し茜は立ち去ろうとする。

 引き留めることも無く、ただ彗は地面に横になったままゆっくりと離れようとする足音を聞いていた。

 暫くそうしていた彗だったが反動をつけて起き上がると、服に着いた砂を叩いて落としながらわざと茜の耳に入るような声を出して言う。

「柚葉の身体はね、生まれつき問題があってギフトを使うことに向いていないんだよ」

「…………え?」

 突然聞かされた真実に、茜の身体は歩みを止める。

 ただ呆然と立ち尽くす彼女に、彗は一歩一歩ゆっくりと近づいていく。

「この前の学園祭の試合、実は彗も見てたんだよ。すごかったよね、あんなに限界ギリギリまで戦って。倒れるまでギフトを使ってさぞ体に負荷がかかっただろうね」

「……ぇて」

「もし今後繰り返しギフトを使ったら、きっと死んじゃうかもね」

「やめっててば!!」

 茜は怒りに任せて切りかかる。

 ただ、今回は彗の方が一枚上手だった。

 茜が動き始めた時には既にその場に彗の姿はなく、代わりに背後からものすごいプレッシャーを感じる。

 とっさに行動を受け身に切り替えるも、そこまでが彼女の作戦の内だった。

「足元がら空き」

 彗は足をかけると、茜の頭を掴み地面に押さえつける。

 それでもなお茜の気持ちは止まらず、つるにより押さえつけられた腕を持ち上げようとしていた。

「そんなに怒らないでよ。彗は悪くないでしょ?」

 なだめているのか煽っているのかわからない態度をとる彗に、茜の怒りはどんどんと募っていく。

 どうにかして逃げようともがく彼女だったが、ほんの一瞬薄っすらと聞こえる金属音に体が震える。

「あれ、茜ちゃんも気づいた?」

「……やだ」

「柚葉がこの場所に気づいちゃったね。このまま喧嘩してていいのかな」

 それに気づいてから、茜はさっきまでとはまるで別人のようにおとなしくなってしまう。

 彗はその変化を密かに、心の底から楽しんでいた。

 乱れて顔にかかった髪を整えると、優しい声色で諭すように話しかける。

「もし茜ちゃんが彗と戦ってたら、きっと本気で彗を殺しにかかるだろうね。それもあの模擬戦なんかとは比べ物にならないくらいの本気で」

 戦いながら衰弱していく姉の姿を想像してしまった茜は、パニックを起こし過呼吸になる。

 その手に握られた短剣の淡い紫色の刀身も、彼女の気持ちを映すようにどんどん濁っていく。

 彗は茜の耳元に口を寄せると、不安を煽るように囁く。

「どうする? お姉ちゃんが死んじゃうね」

「いやだ…………お姉ちゃん……」

 苦しそうにする茜の目からは大粒の涙がこぼれる。

 あぁ、凄くかわいい。

 見下ろすようにする彗は、目下の表情をとても愛おしんでいた。

 彗はそれを指で拭うと、彼女の頭を優しくなでる。

 理想を言えばもう少しこうしていたかったが、より彼女の欲を満たすにはここで立ち止まられるわけにはいかなかった。

「大人しく柚葉を神楽に返して。平和に、穏便に解決しよう」


 返す。

 そう、返すんだ。

 お姉ちゃんと神楽家の間に何があったのかはわからないけど、そんなの今は関係ない。

 お姉ちゃんは元々居た場所に戻るだけ。

 私も元通りの生活に戻るだけ。

 全てが、元通りに…………。

「……嫌だ」

 こんな簡単にあきらめたくない。

 お姉ちゃんも簡単にあきらめたりなんかしなかった。

 だって、私の大好きなお姉ちゃんは大切なもののために命をかけられる凄い人なんだから。

 力の差は歴然。

 それでも、私も大事な人を守るために命の一つや二つ。

 だって、私は戸田柚葉の妹なんだから。

「お姉ちゃんが来るまでにあなたを倒す。そしたら問題ないでしょ」

「あははっ、やっぱり茜ちゃんとは気が合うよ」

 拘束を突破した茜は紫色に眩く輝く短剣を握りなおすと、声高々に宣言する。

 一方の少女も、妄言に等しい啖呵を切る彼女を見て心の底から歓喜する。

 そして、全ては少女のシナリオ通りに進んでいく。


 時を同じくして、紫陽学園の校門付近でにらみ合う二つの影があった。

「そこをどけ、神楽」

「あのねぇ、一応前に自己紹介してるんだから」

 柚葉の元へ行こうとした悠だったが、神楽綾人に行く手を拒まれる。

「この際苗字以外はどうでも良い」

「まぁ、それもそっか」

「もう一回だけ言う。そこをどけ、神楽」

「嫌だね。あんたに行かれると彗が自分の感情を優先して仕事にならないんだよ」

「それがゆずの所にいる奴の名前か」

 感情的で切羽詰まった様子な悠に対して、綾人の態度はどこか気楽な感じだった。

「少し話をしよう、不知火悠。俺はあんたに興味があるんだよ」

「僕は全く興味がないけど」

「そっか。そりゃ残念だ」

 綾人が指を鳴らすと、彼の周囲には無数の剣が生まれる。

 ここが紫陽学園の敷地内である以上強硬手段に出れば優位だと思っていた悠は、その楽観的すぎる希望を打ち砕かれる。

「あんたの不思議なギフトに興味があったんだけどな。やっぱり戦って地道に情報を集めるしかないか」

「あんたもそれかよ」

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