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拝啓、あの世の私へ  作者: りんごあめ
第六章 家族編
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96話 神楽の人

 最初に異変に気付いたのは茜だった。

 飛び起きると、窓へと駆け寄り外の様子を確認する。

「何、この音」

 柚葉がその行動を不審に思ったのと同じくして、二人のいる校舎を大きな振動が襲う。

 地震でも起きたのかと思い慌てて外の様子を確認する柚葉の視線の先、街には少なくとも十を超える煙が立ち上っていた。

「何が起きてるの……」

 柚葉は直ぐにただ事ではないと判断する。

 少なくとも、柚葉がこの街に来た時からこのようなことが起きたことは無かったはずだ。

「茜、悠が来ると思うから、校内の確認をするよう言っておいてちょうだい」

「お姉ちゃんは」

「私は街の様子を見てくる。何が起こったのかも気になるし」

「……気を付けて」

 茜も何が起こっているのかわからない以上本心では止めたかったが、誰よりも大切な姉が大切だと思う者の為に自分の感情を抑え込む。

 そして、柚葉の予想通りすぐに悠が駆け込んでくる。

「ゆずっ、大変なことに……って、あれ。茜ちゃんだけ? ゆずは?」

「街の様子見てくるって」

「嘘でしょ。まずいことになった」

 本来であれば彼女がそう行動することは当然とも言えようが、悠はそれがもっとも最悪の結果とでも言うように頭を抱える。

「何が起きてるの?」

「神楽家が本格的に動き出した。おひなの話ならゆずの回収をするためって」

「お姉ちゃんっ!」

 神楽の名前を聞いて、茜は血相を変えて姉の後を追う。

 しかし、直ぐ後に追いかけているならまだしも、しばらく時間が空いたためそう簡単に追い付けはしなかった。

 校舎から見た土煙の位置の記憶を頼りに、彼女が見て回りそうな場所を集中的に見て探す。

「こんばんは。いや、まだこんにちはかな」

「誰!」

 振り返ると、一人の少女がじっとこちらを見ていた。

 見た目からして自分よりいくつか年下だろう。

 それでも、言葉に表せないような不気味さを感じる。

「彗は彗だよ。安心して、彗はあなたを襲ったりしないよ」

「……信じられない」

「意外と彗の評価って低いのかな。さっきもそうだったし。あなたが茜ちゃんでしょ?」

「なんで、名前」

 こちらの警戒にも気づいているだろうに、彼女は一歩ずつこちらへと寄ってくる。

 それはまるで、戦っても勝てるという自信の表れのようにも感じた。

 距離を詰める彗の歩調に合わせて、茜も一歩一歩後ろへと下がる。

「だって、あなたが柚葉の義理の妹なんでしょ? 彗はあなたとお話がしたいの」

「神楽の人と話すことは何もない」

「あれ彗、神楽って名乗ったっけ」

「雰囲気でわかる。お姉ちゃんと同じ感じ」

「それは素直に喜んで良いのかなぁ。そう敵意をむき出しにしないで。彗とお話しよ」

 そう言って一気に距離を詰めた彗は茜の手を取り握る。

「触らないでっ!」

 咄嗟にその手を引いた茜は、条件反射的に彗の横腹を蹴り飛ばす。

 力の加減の無いその一撃に加え体格差の事もあり、彗の身体は簡単に吹き飛ばされる。

 ビルのコンクリート壁に衝突した彗は、地面に落ちる。

 一方、茜は全速力でその場からの逃亡を図っていた。

 常人であれば一撃を食らった段階で命に関わる大けがをしていたもおかしくないほどの威力を持っていたが、それにしてはあまりにも感触が無さ過ぎたし相手が神楽ならなおのこと常識では測れないだろう。

 今はまず彼女から距離を取るのが大事だと判断したのだ。


「イテテ。流石にこれは予想外だったなぁ」

 地面に倒れていた彗だったが、数秒ほどすると立ち上がり伸びをする。

「あれ、もういないや。ただお話したいだけだったのに……」

 少し寂しそうにした彼女だったが、一息つくと作戦の第一段階が問題なく完了したことに安堵する。

 というのも、今回の作戦の中でここが最も不確実な部分だったからだ。

 その後は軽いストレッチをしながら時間をつぶし、数分が経った頃に街の外の方をじっと眺め始める。

「よし。そろそろ移動が止まったし、もう一回お話しに行こっと。今度は逃げられないといいなぁ」

 軽い口調でつぶやいた彼女の姿は、次の瞬間、地面の中に吸い込まれていった。


「ここまでくれば大丈夫だよね」

 茜は全速力で走り、数分後には街外れまで来ていた。

 中心部と比べると見晴らしも良く、追いかけてきていないことも確認できる。

「ちょっと、疲れた……」

 久々の全力疾走に、茜は肩で息をする。

 ある程度の安全は確保できたが、向こうの狙いが姉である以上安心はできない。

 何か自分にもできることがあるはずで、その時の為に体力は残しておいた方がいいだろう。

 必死に息を整える彼女の隣に、一人の少女が座る。

「ほんとに足早いんだね」

「なんでっ!」

 この場についてからも警戒を緩めていない茜だったが、突然現れる少女には全く気づけなかった。

 距離を取ろうとするが、地面から生えるつるに捕まりその場に引き戻される。

「ね~え、なんで逃げるの? 彗とお話したくないの?」

「言ったでしょ。神楽の人と話すことは無いって」

 首をつるに絡み取られても、茜が強気な態度を変えることは無かった。

「そっか。じゃあ彗が勝手に話したいこと話すね。それだったらいいでしょ?」

「……好きにして」

 こうなった以上素直に言うことを聞かない限り解放はされないだろうと判断した茜は、おとなしく話を聞くことにする。

「まずは、そうだなぁ。やっぱり柚葉と神楽の関係からだよね」

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