チーズケーキとチャイ
その日は開店前に涼子さんがやってきた。
「いらっしゃい」
「マスター、チャイ頂戴」
「あいよ。 あ、それとチーズケーキ焼いたんだけど食べる?」
「ラッキー、戴くわ」
涼子さんには、開店1時間前の他のお客さんがいない時間にこの店を利用できる特権をあげている。
例の割引券を使ってくれないので、のんびりした空間と時間が欲しいと言ってたのを思い出して、提案したんだ。
こんな時は、淳ちゃんも遠慮して出てこない。
「はいよ。チャイとスフレチーズケーキお待ち」
「ありがとう」
チャイは、先日インド食材店で補充したばかりだ。とは言え基本的に茶葉は普通の紅茶葉とはそんなに変わらないので、アッサムとか、ダージリンとかグリーン・ティーなんてのもある。ただ、インド食材店で買うと、茶葉は円形状になってるのが面白い。
チャイの器なんだけど、インドのチャイグラスは、ちょっと素っ気ないデザインなので、うちではもう少し見栄えのするトルコチャイグラスというのを使っている。カウンターで飲むときはこちらの方が似合うかなと思ってさ。
俺個人で飲むときは、砂糖の替わりにラカントを使う事もある。カロリーを控えめにしたいからね。
とは言えあんまり一人でチャイを入れることはないけどな。
チーズケーキは俺が食べたくてよく焼くんだ。小さい型を使うから、せいぜい2、3人前ってところかな。
基本は、卵とクリームチーズしか使わないんだけど、今回はサワークリームも入れてみた。グルテンフリーだぜ。
砂糖の替わりに、やっぱりラカントを使っている。
勿論ケーキはサービスだ。
彼女は本を読みだした。こんな時は、何も話しかけない方がい良い。彼女は優雅に時間を楽しんでいるんだ。
BGMは邪魔にならないように、聞こえるか聞こえない程度に、今日はケニードリュー・トリオにしよう。
俺は、この時間はいつもグラスを磨いている。
さて、ぼちぼち開店時間だな。
開店時間になったからと言って、特別な事があるわけではない。1階の看板の電気を入れ、ドアの外側のプレートをClosedからOpenにするだけだ。
丁度涼子さんもチャイを飲み終わったようなので、チャイグラスを下げる。
しばらくして、ドアチャイムが鳴った。今日の口開けは、聖ちゃんだ。
「こんばんは」
「聖ちゃん、いらっしゃい」
「あ、涼子さんこんばんは」
「こんばんは、聖ちゃん」
涼子さんの優雅な時間も今日はおしまい…かな。
こうなってくると、淳ちゃんも奥から現れた
「こんばんは」
聖ちゃんは、一人の時は淳ちゃんと話ができないけど、涼子さんが一緒の時は普通に会話ができるようだ。
よく聞く話によると、霊感の強い人といると、そんなに霊感が無い人も引っ張られるというか霊が視えるようになるそうだ。
こうなると、女性三人なんとやら…
ガールストークが始まる。 まぁ、他のお客さんがいないから良いか…
涼子さんには、ジン・フィズ、聖ちゃんはジン・トニックだ。 しばらくチャームを出すのをやめておこう。
俺は、ちょっと不思議なものを見た気がした…
一番奥の席に怪しげな長い髪の女らしい影が座っていた。
それに気づいたのは俺だけじゃなかった。
姦し三人組… 失礼、女子会三人組も気づいたようだった。
「う~ん、聖ちゃん連れてきちゃったかな?」
涼子さんが口を開いた。
「え?」