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焼き鮭の話(続き)

「泡の白をお願い…」


 涼子さんは、いつもの席に座りオーダーされた。


「甲州でどうでしょう?」


「お任せします」


 カヴアでも良いんだけど、今日の涼子さんの雰囲気は甲州かな…と思って勧めてみた。いや、別になんとなくなんだけど…サ


「酵母の泡 甲州です」

 涼子さんは頷いて、ちょっと口に含んで確かめるように喉に流した…


「うん。いいわね。 ところで、マスターと洋ちゃんなんか話中みたいだったけど…」


「洋ちゃんが、たまに自炊するというので、マスターが料理上手になれるようにアドバイスしてたんですよぉ」

 俺が答える前に淳ちゃんが会話に参加した。


「そういえば、涼子さんって自炊されます?」

 続けて淳ちゃんが質問する


「するよ。朝ごはんとお弁当は作っていくよ」


「うわぁ、お弁当まで作っていくんですね。凄くないですか?」


「凄くないよ。だって普通の事だから… それに面倒くさいと思ったら作らない日もあるし… 」


 淳ちゃんと涼子さんの会話がなぜか弾んでいる。


 そこで、ドアチャイムが鳴った。


「こんばんは~」


「あ、聖ちゃん。こんばんは~」

 

 俺より先に声をかけたのは淳ちゃんだった。


 こうなると、淳ちゃん絶好調だよね…


「三人そろったんだからなんか怖い話ない?」

 いきなり淳ちゃんが口を開いた。


「ちょっと、待って淳ちゃん。まずは聖ちゃんの御飲み物を聞きましょうね」


「あ、そうだった… てへ」


「涼子さんは何を召し上がっているんですか?」


「甲州の泡だけど」


「じゃ、私もそれでお願いします」

 聖ちゃんが答えた。


 昔は、シャンパンやスパークリングワインをバーでオーダーすると、ボトル売が基本だったそうだ。カップルでやってきて、彼氏さんが彼女に「ミモザ」なんて奢ると、予想以上の金額を請求される事があって、トラブルがあったなんて話を聞いた事がある。バブル崩壊後は、さすがに泡1杯でボトル分は頂けないから、うちでも開店当時から、ショット値段でお出ししている。

 とは言え、涼子さんなら普通に泡1本開けそうだけどね。


 俺は、涼子さんの方に向かって

「そういえば、なにかつまむかい?」


 涼子さんは考えて


「じゃ、イチジクのドライを… 少な目で…」


「イチジクのドライ…少な目、承知いたしました」


「あ、私も」


 聖ちゃんも続く


「承知しました」


 まずは、聖ちゃんに甲州をサーブしてからドライ・イチジクを用意する


 その様子を伺っていた淳ちゃんが待ってましたとばかり


「何か怖いはなしない?」

 と畳みかけるように言った。


そこで洋ちゃんが口を開いた。

「今まで、『幽霊の話』=『怖い話』だと思っていたんだけど、そんな事ないのかもしれないと思い始めたんですよ」


 俺は勿論、涼子さん、聖ちゃん、そして淳ちゃんも興味を持って、洋ちゃんの方をみた。


「なんか、幽霊って、さっきまで生きていた人が、突然亡くなっちゃって、気が付いたら幽霊になってたって話をよく聞きますよね。まぁ具体例を出したら、目の前に淳ちゃんがいるわけじゃないですか。淳ちゃんを怖いと思った事は最初の一度きりなんですよね。『僕が死にたい』なんて言った時に見せてくれた映像はさすがに怖かったけど、淳ちゃんは自身は目の前にいるだけで怖くないし、そのほかの霊もそうなんじゃないかなって…」


「そういえば、淳ちゃんが言う『怖い話』ってどういう感じ?」


「まぁ、私自身幽霊だから、他の幽霊の話を聞きたいのね。さっき、洋ちゃんが言ったように「幽霊」=「怖い」みたいな、私以外の他の幽霊の話を聞きたいかなと思って」


「そういえば、「幽霊」になったからと言って、他の「幽霊」は視えないという話を聞いた事あるんだけど、淳ちゃんは視えるの?」


「視えるよ。だって、私生きていた時から『視える』人だったから…」


以前霊能者から聞いた話なのだけれど、生前『視えない』人は死後幽霊になったからといって他の幽霊を視えるわけではないらしいんだ。視えない人が亡くなったら、他の幽霊は視えない。生きている人は見えるんだけど、その生きている人は自分を視えないから、だれも自分の存在を気付いてくれなくて本当に淋しいんだという事を聞いた事があったんだよね。


そこで、洋ちゃんが口を開いた。


「幽霊=怖いじゃなくて、やっぱり生きてる人が一番怖いんじゃないかなぁ…」


淳ちゃんが間を置かず答えた。


「生霊とばしちゃったりとか?」


「それもあるけど、人怖とか…」


「人怖ね。なんかあるの?」


「まぁ、ストーカーだよね。一番怖いの。何するかわかんないじゃん」

 洋ちゃんが話を続けた。


「良くある都市伝説で聞くのが。地下アイドルグループだったかな、ライブをしてファンとの交流会で、「暇な時見てください」なんて書かれたDVDを渡されて、後でメンバーで一緒に見てみたら、変な男が部屋で女物のパンツ一丁で、グループの曲に合わせて一生懸命オタ芸をしている動画で、メンバーは『何これ変なの草』とか言っていたんだけど、一人だけ真っ青な顔をして震えている娘がいて、なにを怯えているのか他のメンバーが聞いたら、オタ芸をしている動画の部屋が自分の部屋だった。なんてね」


「ない、ない、そんなの都市伝説だよ、ありっこない」


 聖ちゃんが突っ込むと、暫くして、涼子さんが口を開いた。


「まぁ、都市伝説としては、良く聞くけど、気をつけなきゃいけないのは、今のマンションとかの部屋のディンプルの鍵って、メーカー名と番号さえ判れば誰でも作れちゃうんだよね」


「うそ! 知らなかった」

 今度は、淳ちゃんが驚いた。


「う~ん。 でも淳ちゃんの場合、鍵持ってないでしょ!?」


 一斉に淳ちゃんの顔を見る。


「あ、そうでした。持ってませ~ん」


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