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鯛尽くし

 早めにお見えになったお客様が帰られて、ひと段落していると… ドアチャイムが鳴った。


「こんばんはマスター」

「こんばんは」


「おや、お二人揃ってお見えになるのは久し振りですね」

 

 涼子さんに続いて、聖ちゃんが入って来た。


「偶然そこであったの…」


「いらっしゃい」

 俺はおしぼりをお出しして… 様子を伺った。


「今日のお勧めは… 魚…ね」

 涼子さんが、黒板を見ながら呟く。


「良い鯛があったので… 鯛尽くしなんてできますよ」


「どんな感じ?」


「まずお造り、唐揚… 鯛シャブ、〆に鯛飯か鯛茶漬け… なんて感じで…」


「良いわね。丁度お腹減ってたし」


「じゃぁ、私も」

 聖ちゃんがすかさず乗って来た。


「飲み物は、いかがいたしましょう?」


「泡で何か…」


「ノン・ヴィンテージのカヴァなんてどう? 鯛だったら、白かな」


「それで」


「じゃ、私も」

 聖ちゃんも当然というように乗っかってきた。


「御二人だったら、ボトルにしましょうか?」


「私は構わないわよ」

「私も」


「カヴァと鯛尽くしコース… 承知いたしました」


 俺は、ワインクーラーを用意して、開栓しグラスに1杯ずつ注いで、バックヤードへ向かった。


 もちろん、二人の前に淳ちゃんが現れていたのは説明のまでもないかな。



 まず、バックヤードではクーラーに皮付きで保存しておいた柵を取り出し、湯霜を作る。更に昆布締めにしてた柵を引いて更に並べ、まずは一品目のお造りを用意した。


 カウンターでは、気の合う女性三人、話が盛り上がっているようだ。

 次の料理を作るのは、様子を見ながら少し待とう。



 すると、聖ちゃんが淳ちゃんの顔を見ながら話をしだした。


「淳じゃんて、怖い話… というか、幽霊の話好きよね?」


「うん。大好き。何かあるの?」


「こないだ、怖い話じゃないんだけど、幽霊… なのかな? 不思議な話を聞いたんだ…」


「どんな? どんな?」


「怖くないけど良い?」


「勿論よ」


「私の後輩の… ここでは、『A君』としておくね。…が昔体験した話らしいの。

 A君と、その弟… ここでは、『新ちゃん』にしておくね… がすごく仲が良くて、小さいころから一緒に遊んでたらしいの。

 だけど、新ちゃんは、喘息だったかな… 小さいころから持病があって、良く咳き込んでたみたいなのね。

 それで、A君は近所の子供と遊ぶ時も、新ちゃんを連れて行ったんだけど、いつも様子を見ていて、喘息の発作が出ないか気にしていたらしいの」


「弟思いだったのね…」


「そう、それで二人の兄弟の御両親は共働きで、御婆ちゃんに面倒を見てもらってたみたいなの。外で遊んで帰ってくると、御両親ではなくて御婆ちゃんがいつも夕飯

を作って待っていてくれたみたい。 だから二人とも当然御婆ちゃんの事が大好きで、時には肩なんかもんであげたりしてみたいなのね」


「御婆ちゃん。私にも優しくしてくれたなぁ…」

 涼子さんも、独り言のように呟いた。


「そんな時、寄る年波のせいなのか、その御婆ちゃんが体調を崩して入院しちゃったそうなの。

 Aさん兄弟は、毎日のように病院に通って、面会時間ギリギリまで御婆ちゃんと話をしていたそうなのね。

 だけど、だんだんと悪くなる一方だったみたい」


「…」

 淳ちゃんも涼子さんも、黙って話の続きを待った。


「御婆ちゃんが入院してからは、御母さんもできるだけ早く帰れる日を作るようにしていたそうなんだけど、どうしても遅い日は二人でコンビニ弁当で夕食を済ませる日があったみたいで、その日も、二人でコンビニ弁当を食べ終わって、テレビを見ていたら、何となく二人ともうたた寝しちゃったみたいなの。

 すると、Aさんの前に御婆ちゃんがふっと現れたらしいの」


『あれ? 御婆ちゃん病院じゃなかったの?』


 というAさんの夢の中とも何とも言えない雰囲気で、目の前の御婆ちゃんに声をかけたらしいのね。


 そうしたら、お婆ちゃんはにっこり笑って、新ちゃんを指さして


『持っていくよ』


 と言ったそうなの。


 それで、Aさんは、訳が分からなくて、もしかして御婆ちゃん死んじゃうんじゃないかと思って… それで一人で死ぬのは怖くなって、新ちゃんを連れていくと言う意味で言ったのかと思っらしくなってそうしたら、急に怖くなって…


『やめて、やめて、御婆ちゃん。新ちゃんを連れて行かないで』


 て、泣きじゃくったみたいなの」



「ちょっと怖いね」

 聖ちゃんが思わず声をだした。


「で、 気が付くと、いつの間にか御婆ちゃんはいなくなっていて、


『ああ、夢だったんだ』

 と思ったそうなんだけど、次の日、御婆ちゃんは亡くなっていたみたい」


「…」



「Aさんは、新ちゃんは大丈夫かと頭の中でよぎって、弟のところに行ったんだけど…

 そうしたら新ちゃんは、いつも以上にすやすや眠っていたみたいなんですね。

 どっと安堵の気持ちがでてで、思わず弟の隣でへこんじゃって、涙が出てきて、泣いている自分に気が付いたそうなんです」


「よかったぁ」



「それから、新ちゃんの喘息はすっかり良くなったみたいなのね。


 そういえば、御婆ちゃん。新ちゃんを指さして『持っていく』と言ったけど、『連れていく』とは一言も言わなかった…


 御婆ちゃんが持って行ったのは、新ちゃんの喘息(病気)だったんだなと思ったそう…」


「…」


「なんかほっこりした話よね」

 淳ちゃんが口を開いた。


「全ての幽霊が怖いというわけじゃないのね」

 聖ちゃんが加えて言った。

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