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ローストビーフに…

 丁度、食事を終えられた… お客様が数人お帰りになって、一段落したところにドアチャイムが鳴った。


 「いらっしゃい、鈴木さん、今日はちょっといつもより遅いですかね?」


 「まぁ、いろいろあって…な。 とりあえず、ギネスを頂こう」


 「ハーフにします? それとも…」


 「パイントで…」


 「ギネス 承知しました」


 俺は、ギネスをサーブして…


 「何か召し上がります? それともおつまみで…」


 鈴木さんが、いつもお見えになるのは、もう少し早い時間で、夕食を召し上がることが多い。今日はちょっと遅い時間なのでどうされるかと思って聞いてみた。



 「マスター… この店では『化学調味料』を使っているかね?」


 おっと、いきなりの質問だ。


 「そうですねぇ… 」


 基本… うちの店では出汁からとるので、化学調味料は原則として使わない… 唯一の例外は…


「ラーメンのタレだけは、一部市販のものを使っていますので…多分入っていると思いますね。それ以外は全部自分で出汁を採っていますので入ってないです。 あ、でも普段メニューに載っていない料理を急に注文された場合の市販の調味料にはいってますね。ケチャップやマヨ、ソースなんかです」


 何か、鈴木さんは考えたような表情をして…


「良かった、ここでは化学調味料はラーメン… 調味料… 以外では使っていないんですね…」


「今のところうちの料理では、ラーメンと市販の調味料だけですね。…化学調味料お嫌いなんですか?」


「嫌いも何も、体に悪いでしょう?」


 でたなぁ、化学調味料イコール体に悪い信仰…


「う~ん、微妙ですねぇ、化学調味料が体に悪いという確固たるもの(エビデンス)はありません」


 俺は続けた…


「化学調味料って言うといかにも『ケミカル』な感じがしますが、実際には昆布由来のものを使っていたりして、所謂化学調味料はFDA(米食品医薬品局)も、体に悪いという確固たる証拠(エビデンス)はないと言っています」


 鈴木さんは納得していないようだった。

「だって『化学』調味でしょ、信じられないなぁ…」


「そうですね。確かに以前は『化学調味料』と称して、一時は石油由来の物から作られていた時期もあったと聞いた事もあるんですが、今では自然由来のもから作られているようですよ。それで今では『旨み調味料』なんて言っています。 その調味料が出たころは、何でも『化学』とつけると『今風』という感じで流行っていたんです」


 鈴木さんは納得できないという表情をさている…


「じゃぁちょっと視点を変えてみましょうか… 体に悪いという事は、まぁ毒って事ですよね?」

 俺は、ちょっと振ってみた…


「そうなるかな」


「では、毒の正体… というか毒って何だと思いますか?」


「毒は、毒だろう? 体に悪いもの… それ以外に何だというのかな」


「そうですね。体に悪い物質というか… 体に悪影響を与える物… その毒の正体は、実は『量』なんです」


「どういう事かね?」


 案の定鈴木さんは、『意味が分からん』という表情をしたので、俺は続けた…


「私たち人間が、口にするもの全てに『致死量』があるという事はご存知でしょうか?」


「ん? 食べ物全てという意味かね?」


「ええ。全てです」


「例えば水にもあるんです。とりすぎると死ぬんです」


「ああ、溺れるという事かね?」


「そうではありません。ちょっとうろ覚えになるんですが、一気に水を飲むと、体中に水分が回って、血液中の電解質イオンだったかが、本来の伝達機能が役に立たなくなるって事らしいんです。自律神経に影響を与えるんだったか… つまり、薬物的な『毒』として働くんです」


「…」


「勿論、人間の体には水分が必要で、水分がなくなると死にます! でも、必要以上にいっきに採りすぎても毒になって死ぬんです。必要であるはずの水が『毒』として働くんです。つまり毒とは『量』なんです」


「…」


 俺は更に続けた。


「例えば『塩』 今でこそ採りすぎは体に悪いと言われて、悪者扱いされていますが塩分は美味しいですよね。『塩梅(あんばい)』なんて言葉があるように、全く塩分が無い料理は美味しくない…そこそこの塩分が『美味しい』と感じますよね」


「そうだな」


「塩も体にとって必要なものです。なければやっぱり病気になる… これは私の推測なのですが、人が進化の過程で猿に近い種だった頃やホモサピエンスが誕生した頃って、『塩』は採りにくいものだったはずです。海の近くや『岩塩』が採れるところでしか『塩』は無かったはずです。そんな時『体に必要な塩』を見つけたらすぐにでも接種するように体が求めた結果、『塩』が美味しいと感じるようになったのではないでしょうか。当時はなかなか手に入るものではなかった、美味しいものだからすぐ食べろ… みたいな感じで体が出来上がって来たんだと思いますね。今でこそ流通が良くなって『塩』はどこでも手に入るようになりました。 体の方… というか進化する速度よりも『塩』を採る技術と流通の速度が速くなって、もう『塩は美味しい』と思わなくてもよくなったんだれどまだ体が覚えているんじゃないですかね」


「なるほど…」

 鈴木さんは考えるような表情をされている。


 で、更に俺は続けた…

「例えば、コンビニのオニギリの材料の表示を見ると、なにやら私たちの知らないようなケミカルそうな名前が羅列されてますよね? でも『作る側』からしたら、そんな物質を一つでも入れない方がコスト的に有利でしょう? でも入れている… そこで消費者から『発癌性物質が入って入れる』なんてクレームがきたら一発でリコールになっちゃうじゃないですか。それでも入れている… 入れている方が、作る側として利益の方が大きいからですよね。 例えば最近流行りの『お母さんのおにぎり』みたいな、カウンターでその場でお握りを握ってくれる店があるじゃないですか、そういうお店では、そんなケミカルなものは入っていません。その場でお客さんが食べてくれるからです。ところがコンビニのお握りはお客さんが持って帰る、いつのタイミングで食べるかわからない、賞味期限過ぎで食べるかもしれない。そうしたらやっぱり防腐剤とか必要ですよね。作る側っていうか提供する側としては」


「…」


「実は、日本の『添加物』に対する基準ってかなり厳しいらしいんです。農水省だったかが出している『毎日摂取しても問題ない』という基準の十分の1以下の更に十分の1位だって聞いたことがあります。だって、自分所のおにぎりの他に、違うところのおにぎりを食べる事があるでしょう? だからメーカーは添加物に関しては、かなり気を使っているらしいんですよね… ですから間違いなく、コンビニのおにぎりに入っている物質は問題ないはずなんです。 それはそれだけの量が安全だという事なんです」


「…」


「昔、『お焦げを食べたら癌になる』なんて話があったじゃないですか… 私の知り合いの看護師さんもそんなの信じてたんですけど、私が調べたら『ラットの実験』であって、人間の体重にしたら『ドラム缶2巻分を連続して食べたら』という事だったみたいですよ。 誰がお焦げをドラム缶2巻分食べますか? ですから、お焦げについてはあんまり気にしなくて良いんじゃないですか」


 俺は、更にまくしたてた…


「ちょっと話は違っちゃうんですが、一昔、栄養士さんだったかが『一日30品目の食材を採れ』なんて言ってた人いましたよね。マスゴミでも一時取り上げられました…」


すると鈴木さんは乗ってきた


「そういえば、あったかな」


「私はその瞬間に『絶対無理』だと思ったんですよ、自炊を始めた20代中位の時だったかなぁ… そんなん絶対無理だ! できるわけがない…  その栄養士さんに対して『じゃぁ1ヶ月分の食事のレシピを考えてみろよ』それで、食品ロスしないで独身男性が自炊できるメニューを作ってみろよ…  できるわけないだろう? それで… もしできたとしたら『糖尿病になるだろ?』と思ったんです。 で、いつの間にか、一日30品目の話は、言われなくなりましたでしょ?」


「それで?」


「『健康を考える』研究者はそれで良いと思うんですけど、研究者(そいつら)は現実離れしてる事に気付いていない… 理想ばかり追っかけていて、現実にできない事を口にしている無責任者だと思いました。そして… それをそのまま放送するメディアがいかにいい加減かと思いましたねぇ。 だって20代の若造が一瞬で『無理』『おかしい』と分かることをメディアは堂々と言い続けるんだから、メディアというものも信用してはいけないんだと思ったんです。 …ですから、最近は私はメディアを『マスゴミ』と言っています。 っていうか日本人自身も、『自分の頭で考える』という事をしなくなりましたよね。これはマスゴミに流されたというか、洗脳されたというか、自分自身を失った日本人の責任です」


俺は続けた


「というわけで、まぁ化学調味料というか旨み調味料なんてのはそんなに気にしなくて良いんじゃないですかね」


すると鈴木さんは


「私自身、自分の頭で考えなくなったと言いたいのかね?」


「そうではありません。マスゴミが何も考えずに報道しているという事を言いたいのです」


「どうちがうのかね」


「マスゴミは無責任だと言いたいのです。何の根拠もなく、『化学調味料は体に悪い』と言い続ければ、誰だって体に悪いと思いますよ、普通」


「…」


「私の場合は、『食』を提供する側ですので責任があります。所謂体に悪いと言われるものをお出しできません。ですから『体に悪い』という表現に対して敏感ですから責任を追及するんです。その結果、マスゴミが『体に悪い』と言っているものでも『無害』なものであることもあるという事です」


『それはマスターがそう思っているだけではないのかね?」


「はい。もしかしたらそういう事もあるかもしれません。ですが… ですから私の店では… 私の信念を持って『食』を提供しているのです」


 気が付けば、鈴木さんギネスを飲み干していた…

 ちょっと熱く語りすぎたかな…


「次、いかがいたしましょう」


「スキャパをロックのダブルで… あとちょっとお腹にたまるおつまみをお願いできるかな…」


「そうですね、すぐできるものでしたらローストビーフなど如何でしょう」


「良いねそうしよう」


「スキャパのロックダブルとローストビーフ… 承知いたしました」



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