鱈の西京焼き
ちょっと今日はラフな状態で上げてしまったので、後で修正するかと思います。
一通りの仕込み終わって、店を開けるとドアチャイムが鳴った。
おや、洋ちゃんだ。なんか最近早めの出勤だね…
「いらっしゃい洋ちゃん… 最近早いんじゃない?」
「おばんです。マスター 御客さんの処に納品に行った帰りなんです」
あれ? 洋ちゃんって営業だっけ? まぁそんな事はどうでも良いか…
「この時間だったら、ギネスかい?」
「はい。パイントお願いします。 今日の御勧めは何ですか?」
「う~ん、本当は今日は鶏なんだけど… そういえばこないだ来た時も鶏だったよね? なんか食べたいものある?」
「魚なんかないですか?」
「魚かぁ… 賄い様に付け込んだ銀鱈の西京焼きがあるけどどう?」
「いいですね。お願いします」
「銀鱈の西京焼きとギネスのパイント… 承知しました」
ぶっちゃけ賄いをお客さんにお出しするってのは「どうよ…」と思うけど、自分が食べたくて仕込んだので、献立のメニューに合わないってだけなんだよね。とは言えしっかりした仕込みだから、プロとしてきっちり、お金を頂戴するというのは恥ずかしい事ではないと思っている。(たまに、実を言うと、まだまだ試行錯誤の料理をお出しして、アイデアを戴きたいという事もある。流石にこの場合は御代は戴けないけどね。そんな時は、「アドバーザリー代」って言うか、サービスする事もあるよ)
まずギネスをお出しして、昨日仕込んだ西京焼きをバックヤードで焼いてみる。炭火のちょっと遠火でよいかな…
どうやら、その間は淳ちゃんがお相手してくれているようだ。
俺のイメージとしては「銀鱈」という食材はそんなに「美味しい感動する」っていうほどではないけれど、西京焼きにすると一瞬「これは!?」っと唸る料理に化けるというイメージなんだ。
和食に限らず料理人の先人たちが、何とか食材を大事にして美味しく食べさせるように努力というか、研鑽を重ねてきて今日の食文化があると思う。それを俺たちの世代で引き継いで、更に次の世代に引き継ぐって言うのは大事だよね。
「銀鱈西京焼き… お待ち」
洋ちゃんのビールはまだグラスに半分ほど残っている。俺はおとなしく奥に引籠ろうとすると洋ちゃんが口を開いてきた…
「マスター 国の借金が1200兆円を超えたって言うんですけどどう思います?」
「おや、洋ちゃん今日はいつもの都市伝説の話じゃなくて、経済の話題ですか? 珍しいですねぇ」
「だって、ニュースでよく聞くじゃないですか、私達の世代の借金を次の世代に引き継ぐな! …とか?」
いつも洋ちゃんが都市伝説系の話を私に振って来るので、いつも私が反対意見を言っているせいか… 今回は話題を変えて来たらしい…
「う~ん、悪いけど洋ちゃん。マスゴミのそんな話を信じているのかい? じゃぁ言っちゃうけど『国の借金なんて無いんだよね』」
「何言ってるんですかマスター よく経済ニュースで言ってるじゃないですか『国の借金が1200超円越えた」って話、知らないんですか?」
「あのさ、経済の話をするのに『国の借金』は無いよな… 国が借金なんてできるわけがない。 まぁ普通に言ったら『政府の負債』じゃないかな」
「どうちがうんですか?」
「だから、『借金』という言葉を使うか『負債』という言葉を使うかによって、印象が大分違う。ちょっと頭の良い人というか経済に強い人なら『負債』という言葉を使うと… じゃぁ『資産』は? と繋がる。
負債と資産は対 に考えるのが常識だからね…」
「…」
洋ちゃんは黙ってしまった。
「洋ちゃんは貸借対照表ってわかるかい?」
「聞いたことはありますけどよくわかりません」
「うん。まぁ会社の決算なんかで使う言葉なんだけど、お金の出入りするのを比較して表にするんだ。細かくは家庭でもいいんだけど、会社… 株式会社なんかは決算で発表されるのが義務付けられている。 もっと大きく言えば『国』でもそうなんだけど、このバランスシートで金の出入りが分かるようになっているんだ…」
「つまり、どういう事ですか?」
「要するに、日本国政府には『負債』もあるけど『資産』もあるという事だ。 まぁ、借金もあるけど預金もあるって言い方すれば良いかな?
人から借りた金もあるけど、人に貸してる金や、財産もあるという事だね。 わかるかい?」
「ええっ? じゃぁなんでマスコミは『借金、借金』って言うんですか?」
「日本には金が無い、カネが無いから消費税を上げなければいけない… って国民に思いこませたい連中がいるっていう事だよ」
「ちょっと待ってくださいよ。じゃぁ日本の資産と負債を比べたらどうなるんですか?」
「良い質問だね。 それは財務省発表の貸借対照表を見れば良いよ。まぁ資産に比べて若干負債の方が多いんだけど先進国ではそんなに極端な数字ではないんだ。
つまり普通の先進国並みって事だね」
「じゃぁ… なんでマスコミは『国の借金がぁ…』って叫ぶんですか?」
「うん。まず、さっきも言ったけど、消費税を上げたい連中がいるって言う事なんだね。誰だと思う?」
「政治家ですか?」
「違う。政治家は消費税を上げると人気が下がってしまうから、本当は自分の代で消費税は上げたくないんだよ」
「だって、阿部首相は2回もあげたじゃないですかj
「阿部首相は、本当は消費税をあげたくなかったんだ。あの人は戦後の首相で唯一『マクロ経済学』を分かっていた人だから本当は消費税なんか上げたくなかったんだ。だからコロナを理由にして消費税を上げる事を一旦やめた事もあったよね?」
「でも、やったでしょ?」
「そう、それは民主党政権時代に、俗にいう消費税増税法案を作ってしまったんだ。まぁ分かりやすく言うと、消費税を上げなけりゃいけないって法律を作っちゃったんだよね。あの… くっそ連中が…
だから、阿部首相は本心としては消費税を上げたくなかったんだけど、法律を曲げてまで主張を貫くというパワーが無かったって後悔してたんだよ」
「じゃぁ、消費税を上げたいって言う人達は誰なんですか?」
「財務省の御役人! しかもちょっと地位のある人だけ」
「ええ? なんでなんですか?」
「消費税を上ると同時に法人税は下がっているのは知っているかい?」
「し、知りませんでした」
「下がっているんだよ。なんでか分かるかい?」
「わ、わかりません」
「自分たちの天下り先の確保だね」
「ええ? どういう事ですか?」
「御役人は天下り先が必要だろう?」
「ちょっと待ってくださいよ、確か天下りは禁止になったんじゃないですか?」
「うん。同系への天下りは禁止になった。 例えば建設省の御役人が、建設業界の会社への天下りは禁止なんだけど、国交省へは良かったんじゃなかったかな?」
「じゃぁ財務省は?」
「う~ん、確かな事は言えないけど、どこでもいけるんじゃない?」
「ちょっと待ってくださいよ、国民が消費税が上がったって、これだけあたふたしてるのに、その原因は財務省の御役人の天下り先の確保だって言うんですか?」
「そうだよ。何か問題?」
「問題ですよ。庶民があたふたしてるってのに…」
「うん。でも洋ちゃんは気が付かなかったって言うか、知らなかったよね? つまり庶民が知らなければ御役人は幾らでも甘い汁を吸えるって事だよ」
「し、しかしいくらなんでも… マスコミはどうして報道しないんですか?」
「まぁ、財務省とズブズブだから… とも言えるし、 財務省がネットで発表している財務諸表を読める人がいないから、御役人の言う事をそのまま鵜呑みにして発表しているっていうのが現状じゃないかなぁ」
ちょっと洋ちゃんは、下を向いて考え込んでしまった。




