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鶏の胸肉の温玉のせ

 先日姪の結婚式があって、久々のフレンチだったんだけど、面白い料理が出てきたのでちょっと再現してみようと思ったんだ。

 先ず烏賊ソーメンを皿に載せ、その上に温泉卵を載せる、その脇にホワイトアスパラを敷いて、全て見えないようにパルメザンチーズを削って載せているんだ。

 美味しいんだけど… ちょっとうちでは出せないなぁ、つまみにするにはシルバー(カトラリー)で食べるのは面倒だし、食事にするには物足りない。コース料理の前菜にするんだったら良いけど、うちの店では一皿でお客さんを唸らせないと…


 そんな事を考えながら賄いを作っていたら… 涼子さんのティータイムになってしまったようだ。


 開店一時間前になって、涼子さんが現れた…


「マスター、チャイ頂戴…」


「アッサムで良いかな?」

「ええ」


 アッサムの茶葉でチャイを作り、涼子さんにお出しして、バックヤードに戻って新しいメニューを考えていた。


「烏賊ソーメンを牛のステーキにしてみるかな… う~ん、それなら素直にステーキで良いかなぁ…」

 新しいメニューを作る時は、正に「産みの苦しみ」だぜ。 まぁ、それが楽しくもあるんだけど…


「鶏の胸肉にしてみたらどうかな?」


 そんな事を試行錯誤していると、カウンターから声がかかった… 涼子さんからだ


「チャイ… お代わりかい?」


「そうじゃないの、ビールをお願い。 それとちょっと小腹に溜まるものお願いできないかな?」


 今日は、どうやらいつものまったり時間(タイム)を早めに切り上げたらしい。


「今、料理の試作品を作っていたんだけど食べてもらえるかな?」

 俺は先ほど考えていた、鶏むね肉をバターで焼いて、トマトにほんのちょっと味噌を加えたジュレをひいた上に温玉を載せ、ホワイトアスパラを添えてとチーズを思い切り削って振ってみた…。


 涼子さんはナイフとフォークを上手に使い… 試食に協力してくれた。


「あ、美味しい… なかなか良いんじゃない。 若い女性に人気が出そう」


 涼子さんはいつも俺の料理を否定しない… 


「涼子さんも、十分若いけどね…」

 うっかり、『俺からしたら』と必要ない修飾詞を着けそうになった。


「ありがとうマスター」

 そんな会話をしていたら、奥から淳ちゃんが現れた…


 ガールストークに花が咲いている間に、俺はもう一度バックヤードに戻って、更に新しいメニューを考えていたんだけど…


 そこにに、洋ちゃんが、良い調子で入って来た…


「おばんで~す」


 おいおい、時間はまだ早いだろう? なんでこんなに良い調子なんだぁ?

 どうやら、今日は午後から「花見」だったらしい… そんな季節か…


「いらっしゃい。洋ちゃん。 今日は一人かい?」

「あとから、会社の若手が何人か来るかも… 」


「だいぶ良い調子みたいだけど…」


「ボウモア頂戴。ハーフロックで…」


「マスター! 南米で発見された白いミイラの事知ってる?」


 おやおや、洋ちゃんの今回のテーマは最近発見されたという南米で発見されたというミイラの事らしい。ここ数年、日本でも地上波で放送されていたからなぁ… 


「マリアと呼ばれるあれかい?」

 俺は答えた…


「そうそれです。流石に知ってましたねぇ!」

 なんか、洋ちゃん今日はいつもより絡んでくる感じだ…


 まぁ、俺の専門は中米の考古学なんだけど、ファンダジーも大好きだから都市伝説はいつもチェックしている。たしか、俺の知っている範囲では数年前に発見されたという事になっているんだけど…


「あれって、三本指なんですよ。知ってます? マスター! あれはどう思います?」


「どう思うって聞かれても… 私も初めて知った時は、興味をもって調べたんだけど、発見の時の論文が出てこないんだ… いつも言っているように私は先ず学術的に調べるから、学会に論文が出ているかどうかを探すんだけど、あれに関しては見つけられなかった」


「つまり、偽物だと?」


「偽物かどうかは分からないけど、どういうものかがわからないんだ」


「だって、DNA検査したら、人間と違っていたって言うじゃありませんか、だからあれは宇宙人なんですよ。考古学者は、隠してるんです」


「おやおや、マスターの一番嫌いな言葉を言っちゃったね」

 涼子さんは、淳ちゃんと冷めた感じで傍観しているようだった。


「考古学者としては、発見当時の状況を正確に報告する事がとても大事なんだ。発見された(ブツ)よりもその状況を学会に報告する事が発見という事なんだ。 で、考古学者は隠す事は無いんだ。だって考えてごらんよ、人類と全く違う遺伝子を持った生物というか、(ブツ)を発見したと報告して、そういうものが認識されたら、歴史に名前を残すことになるわけだからね」



「じゃぁ、マスターはあれをどういうものだと思うんですか?」


「ぶっちゃけ、わからない。実物を見たわけじゃないから… でもいろいろ推測はできるよ。 洋ちゃんは日本に人魚のミイラがあるのは知っているかい?」


「ええ、知ってます。でもあれって偽物でしょ? 江戸時代辺りに作られたものだって聞いた事あります」


「そうだね。 ミイラがあるから本物だって事はちょっと短絡的な考え方だよね」


「じゃぁあの白いミイラもマスターは偽物だって言うんですか?」


「まぁ、何度も言うように、実物を見てないし、発見された当時の状況も分からないから何とも言えないけど、やっぱり偽物なんじゃないかなぁ」


「じゃぁ何のために作られたって言うんですか?」


 とてもいい質問だ。人間が何かを作るためには目的が必要だと思う。ただ、唯一の例外があると思う。それは俺にも理解できない存在を信じているという人がいる事だ。

 そしてその人々はどんな未開な場所にも存在する…


「私としては、二つ考えられる。 その一つは多分、TVの所謂『ヤラセ』だろう」


「ええ、このコンプライアンスが騒がれる時代にそれはないんじゃないですか?」


「日本のTV局じゃなくて現地のTV局とか週刊誌みたいなもののヤラセ…バラエティーとかドッキリとかの番組を作ってそれを紹介した新聞か何かを見て、これは面白そうだと本気にしちゃった外国のメディアが取材に来たけど、手ぶらで返せないから、そのまま話を通しちゃったとか…」


「それって、ちょっと乱暴じゃないですか?」


「もう一つとしては、神様へ捧げる為じゃなかな… 洋ちゃんは『饅頭』って知ってるだろ?」

 洋ちゃんは「え? 何?」という顔をしてから答えた。


「勿論知ってますよ。 温泉とかのお土産でしょう?」


「そう、それなんだけど、なぜ『頭』という漢字が使われているか…って事さ。 元々あれは人身御供だったのを人間の替わりに豚の肉を詰めて神様に捧げたんだよ。… 勿論諸説あるけどね」


 どこかの川だったかな、荒れ狂う場所に人身御供を捧げるのが風習だったらしくて、それを不憫に思った偉い御坊さんだったか、諸葛亮孔明だったかがやめさせる為に流したって言う話がある。 勿論諸説あるけど…




「じゃぁ白いミイラは人間の替わりに神様に捧げるために作った偽物だって言うんですか?」


「私の仮説だけどね。辻褄が合うだろう?」


「だって、三本指ですよ? なんで三本なんですかねぇ」


 今日の洋ちゃんはいつもより絡んでくる。


「その三本の指を実物で見たかい? 私は見ていないんだ… だから最初から三本だったのか、二本を折っちゃったから三本なのか分からないし…」


「だって指が長いんですよ… 関節と関節の間とか… 人間の長さじゃなくて長いんです」


「その骨は、人間のDNAとは違うんだろう? どうにでもなるんかないかなぁ。私がTVで見た限りでは人間のDNAと60%以上も違うっていうし、ネットで調べた限りでは30%以上も違うっていうんだ… ちょっと数字で開きすぎないかい? つまりどちらも一次資料を調べていないんだよね。 これはアカデミックに考えたら論文にさえなりえないよ。つまり… 都市伝説の類になっちゃうね」


 洋ちゃんは、黙ってしまった…


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