表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/52

焼鳥(続き)味噌タンメン麺抜き

「だって、渡辺さんをここに連れてきたのは僕ですよ。 ここで渡辺さんの問題が解決されたんだから、一番の功労者は僕じゃないですかぁ」

 俺は、淳ちゃんと目が合った。


「あのね、洋ちゃん。こういう話は噂になるから一切喋らないようにしてと言ったわよね」

「勿論しゃべってないですよ」

「先日一番の功労者は涼子さんでしょ。その涼子さんが金銭的な御礼やそのほか物質的な御礼などは一切必要なく、通常通りの生活を送って戴くことが、何よりの御礼だと言っているのよ。なんであんたが、お礼の話をするのよ。お仕置きするよ!」

「冗談ですよ。冗談… もう、怖いなぁ」


 淳ちゃんは、プイと横を向いて怒っているようだった…


「さて、洋ちゃん何にする?」 

 まぁ、洋ちゃんも調子に乗り過ぎだけれどそろそろ、助け船をださなきゃな…


「そうですね、お酒はスキャパをロックで。最近ちょっと太り気味なので、ヘルシーな野菜料理なんてあります?」

「ヘルシー野菜料理と言えば、サラダとか野菜炒めとか?」

「あ~いや、その辺りはよく食べるので、もっと珍しいもので…」

「最近よく賄いで食べてるんだけど、味噌タンメンの麺抜きなんてのはどう?」

「あ、面白いですね。それでお願いします」

「まぁ、野菜の味噌スープなんだけどね。 スキャパと味噌タンメン麺抜き承知いたしました」


 うちの店では、最後の〆にラーメンを召し上がる方もいるので用意しているんだけど、麺は流石に業務用の生麺を使っている。和食用の一番出汁、二番出汁は毎日とるけど、ラーメンの麺やスープまではなかなか手が回らないので、うち特性の鶏ガラスープをベースにニンニク・葱油を加えて、最後に業務用ラーメンスープタレで味を調えている。一応他の店の味とは被らないようにしてるんだ。


 ある時、賄いで味噌タンメンを作ろうとしていて、野菜の方ばっかり気を取られて、麺を茹でるのを忘れちまったことがあって麺抜きにした事があったんだ。その時は野菜以外にも豚バラも入れてボリューミーだったんだけど、これはこれで旨くてさ。

 今回の洋ちゃんバージョンは、豚肉は抜きで野菜だけだ。 色も大事なので、もやしの白たっぷりベースに、緑のピーマンをちょっと、明るい色も入れたいので、人参でアクセントをつけてみた。それから甘味の玉葱も外せないよな。


 実を言うとタンメンの麺抜きというのは、ちょっとだけ難しいところもあるんだ。ラーメンのスープっていうのは麺を食べさせるものなので、かなり味付けが濃い。味噌汁より遥かに濃いのだけれど、麺を食べる場合そんなに気にならない。だがラーメンスープで野菜を食べさせるとなると、普通のラーメンの濃さではちと濃すぎる気がするんだよね。だから若干薄めにするんだけど、薄すぎると期待したものとまた違ったものになっちゃうんから塩梅が大事だね。


「味噌タンメン麺抜き、お待ち」


「ありがとうございます。いただきます。 う〜んヘルシーっぽいですね」

「ごゆっくり」


 俺は密かに涼子さんと淳ちゃんとひっそり話して、渡辺さんには、ダークオレンジのコースターを出すことにした。赤の一歩手前的な意味だ。


「次は何にいたしましょう」

 渡辺さんのグラスが空いたので、声をかけた。

「そうですね、もう一杯ジントニックをお願いします」

「承知いたしました」

 俺は、グラスとコースターを下げ、ダークオレンジのコースターと、ジントニックをサーブした。


「そういえば、マスターは考古学がお好きという話ですが、専門はどちらですか?」

「古代マヤ文明ですね」


「水晶ドクロですよね?」

 洋ちゃんが、すかさず聞いてきた。


「あれは、偽物だよ。回転ドリルの跡が見つかっている。おそらくドイツで作られたものだよ」

「ええ? だって、HPヒューレットパッカードが検査したら、工具の跡が無かったって聞きましたよ」

「それは、1970年代後半の話、2008年にスミソニアン博物館が調査した時に、近代的なダイヤモンドで覆われた高速回転式の道具の使用跡が見つかってるんだ」


「ええ? じゃ、王様がロケットに乗っている絵は?」

「パカル王の石棺の事だね。 あれは縦に見るんだ。支配者の記章に座っている図だよ」

「ええ? ロケットじゃないの?」

「じゃない!」


「そういえば、2012年12月に人類滅亡しなかったですね」

 洋ちゃん、これでもかとマヤに関わる都市伝説をぶっ込んでくる。


「マヤ文明では、最初から人類滅亡なんて説は無かったんだよ。都市伝説好きな人たちが自説というか自分の本を売りたかったので、大々的に宣伝したんだろうな。ノストラダムスで懲りない連中だ」


「え? あれだけ、マヤの暦によると人類滅亡だと騒がれたのに、滅亡説は無かったんですか…」

 渡辺さんも喰いついてきた…


「何処から説明した物か… マヤには、完全な文字体系があって、碑文などの解読が進んでいて当時の考え方なんかが大分わかるようになってきたんですが…」

「ジャングルにあって、突然滅亡したんですよね」

 洋ちゃんが、更に口を挟んで来た…


「よくそう言われているんだけど、今では滅亡説はほとんど考えられていないんだ。学会で『滅亡(collapse)』という単語を使うと、徹底的に注意してくる先生がいらっしゃるので、学会で滅亡という単語を使う時はかなり慎重になるんだ」

「へぇ、そうなんですか」

 洋ちゃんは勿論、渡辺さんも驚いたようだった。


「インカ帝国とかアステカ帝国とか聞いた事あると思うけど、マヤ帝国って聞いた事ないよね? マヤは都市国家の集合体で、統一国家ではなかったんだ。都市が一人の王に統治された王朝で、いつでも複数の王朝が乱立していたんだ。 都市同士は、同盟を結んだり、従属関係にあったり、敵対関係にあったりした… 日本で言えば戦国時代みたいな感じかな。 ある君主が城を作り城下町を作って領土を統治する。君主同士同盟を結んだり、従属関係にあったり、敵対関係にあった…」


 俺は一息次いで続けた。


「ある大きな都市国家(=王朝)が突然(と言っても数十年かけてだけど)衰退することはあったんだけど、実はマヤ人は『移動』する民族だった事が分かっている。ある都市国家が衰退すると、違う都市国家が繁栄したりした事が分かってきているんだ。だからマヤ文明全体で滅亡する事は無かったというのが定説になりつつあるんだ」


「そうなんですか」

「それで、2012年の話なんだけど、マヤ人にとって時間は循環するという考え方だったんだよ。例えば今の暦では 年月日という単位で循環しているよね。30日という日が終わったら、新しい月が始まって、また30日過ぎたら新しい月が始まって、12の月が過ぎると新しい年が始まる。ま、月によって30日だったり、31日だったりするけど、言いたいことは分かるよね?」

「はい、大丈夫です」

 洋ちゃんが答えた。


「マヤ歴も同じように、バクトゥン、カトゥン、トゥン、ウイナル、キンという単位で暦が循環していくんだ。向こうは20進法を使っていたので、1ウイナルは、20キン。 今の暦で言うと1カ月は20日で、トゥンは18ウィナルと5日というように循環していくんだ。この暦を長期歴って呼ぶんだけど…」

「20進法ですか…ちょっと複雑ですね」

 渡辺さんが呟いた。


「それでなぜ、滅亡説が出て来たかと言うと、この長期歴が丁度1週回るのが2012年の12月何日かだったんだ。今の西暦で言えは、9999年12月31日みたいなものかな。その日で世界が終わると思うかい?」


「普通は思わないです、10000年1月1日は来ると思いますよ」


「そういう事なんだ。 因みにバクトゥンより上の単位が幾つか見つかっている事を考えても、2012年12月では終るとは考えていなかったのは間違いない。グァテマラだかホンジュラスだかの現地のマヤ人達も滅亡なんて考えていなくて、盛大なお祭りをしたそうだ。デビット・スチュワート博士が、2012年には何も起こらないというマヤの暦を丁寧に説明した『THE ORDER OF DAYS』という本が出版されたんだけど、私の知る限り和訳もされてない」


「マヤ人て現在でもいるんですか?」

「勿論いるさ… 普通に生活しているよ」

 

 洋ちゃんは本当に驚いたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ