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焼きおにぎり

ドアチャイムが鳴った。

「こんばんは、マスター」

「洋ちゃん、こんばんは」

「こちら、渡辺さん。 前の店で知り合ったんです」


 洋ちゃんの後ろに洋ちゃんと同年代風の青年がいる。


「よろしいですかな?」


 年代には不似合いな初老な男性の声が聞こえた。


 俺と涼子さんは同時に声を出した。

「ダメです。お引き取りください」


 驚いたのは、洋ちゃんで‥

「何、言ってるんですか、さぁどうぞ!」

「うむ」

 そう言って、渡辺さんを招き入れてしまった。


 涼子さんは俺の顔をみて「やれやれ」という表情を浮かべた。


 洋ちゃんはいつもの席。渡辺さんは一番手前の鈴木さんのお気に入りの席に座った。


「マスターさっきの何だったんですか? いきなりお引き取りくださいなんて?」

「後で説明するよ。それより何をお出ししましょうか?」

 もしかしたら、俺の顔はちょっと引きつっていたかもしれない…


「前の店で焼き鳥一杯食べて来ちゃったんだけど、もうちょっとお腹に溜まるものがなんか無いですか?

「〆だね。麺類とか焼きおにぎり、お茶漬け‥」

「焼きおにぎりお願いします。 あと飲み物はちょっと薄めのグレンモーレンジの水割りを…」

「承知しました」

「渡辺さんはどうされます?」

「私も焼きおにぎりで、飲み物はお茶かなんかあります?」

「烏龍茶とジャスミン茶それと‥」

「ジャスミン茶お願いします」


 ジャスミン茶の次は緑茶と言おうとしたんだけど、緑茶でお代は頂けないからね。うちも商売だから‥ 渡辺さんもバーという店を理解していただけているらしい。有難いね。


 グレンモーレンジとジャスミン茶をサーブしてバックヤードに入った。 

 カウンターの奥の方では、聖ちゃんと涼子さんと淳ちゃんが話をしている。三人とも洋ちゃん達の方は向かない…



 ほんのちょっとだけ塩を振ったご飯を丁寧に三角に手の中で結ぶ。そうおにぎりと言いつつお結びだ。それを表面にだけ醤油と絶妙な割合で味醂を混ぜたタレを塗って、片方にはゴマをパラっと振って、炭火で炙って少しだけ焦げ目がついたら出来上がりなんだけど、味醂を混ぜると焦げ目が違うんだ。お皿の上に二つの焼きおにぎりと香の物を添えて、茶碗と出汁を添えてお出しする。ゴマを振った方はそのまま、もう一つはそのまま食べても茶漬けにしても良いようにするんだ。


「焼きおにぎり、お待ち」


 俺は、涼子さんの方に近づこうとすると‥

 洋ちゃんが話しかけた。

「マスター! 渡辺さんとは、前の店で都市伝説とかの話で盛り上がっちゃって、ここのマスターが詳しいからって連れて来ちゃいました」

 ほほを赤らめた、ちょいと良い感じに酔っている洋ちゃんが語りだした。


「ちょっと待ってよ。私は都市伝説なんて詳しくないよ‥」

 何か洋ちゃん勘違いしてないか?


「心霊の話とかは?」

「いや、だから詳しいわけでは無いって‥」


 すると、渡辺さんが口を開いた。

「実は、困っている事がありまして‥ 私の家は代々香道の家元をやっているのですが、私は家元を継ぐものででなく、次男なんですけど子供の頃から香道は嗜んでいるんです」


「ほう、香道家の方に御会いしたのは初めてです」

 とにかく俺は返事をするしかなかった…


「ところがここのところ全く匂いを感じなくなってしまって、あちこちの病院に行ったのですが、分からなくて、もしかしたら霊障の類じゃ無いかと思いまして、悩んでいるところ、洋ちゃんに会って、こちらを紹介してくれたんです」


『おいおい待ってくれよ、いきなりそんな相談されても困るよ…。 洋ちゃんの紹介の仕方もなぁ… あとで、洋ちゃんにはきつく叱っておかなきゃな…』


 とりあえず、渡辺さんの手前波風立てないような言い方をしてみた…

「紹介ったって、うちは霊能者がいるわけじゃ無いから困るよ、洋ちゃん」


 そうはいえ、渡辺さんの左肩上に和服を着た紳士の顔が見えているんだが、どう切り出したものか‥


「渡辺さん‥ でしたっけ、初めまして木村と申します」

 涼子さんが、声をかけた。

「初めまして渡辺です」

 カウンターの奥の方からいきなり声を掛けられたので、渡辺さんはちょっと驚いたようだった。


「匂いを感じなくなった頃に左肩に異変を感じませんでしたか?」


「そうなんです。丁度その頃左肩に違和感を感じまして、耳鼻咽喉科と整形と両方行ったんですけど、どこも悪くないと言われまして‥ 何かあるんですか?」

「信じるかどうかわかりませんが、左肩上に貴方の祖先と思われる方がいらっしゃいます。江戸末期というか明治が始まる頃の方ですかね」

 思わず涼子さんが声をかけてしまった‥


『いやいやぁ涼子さん、いきなり核心を突きますか…』


「わかるんですか?」

 渡辺さんは、言葉を返した。



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