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鱚四品(続き)

「その前に、ジョッキが開いたみたいだね…」

 お客様の前にお酒が無いというのはどうも落ち着かない。


「そうですね、グレンフィディックを…」

「ん~ 今12年と18年と25年があるけど…」

「じゃぁ、12年お願いします」

「ストレートで?」

「はい」

「承知しました」


 グレンフィディックは、甘い香りと味わいがあるので、食後酒としてはなかなか良いチョイスだと思う。鈴木さんもそうだけど、洋ちゃんもどうやらシングルモルトがお好きなようだ。

 実は俺も「酒」というとスコッチが一番好きだ。俺の場合は、シングルモルトにこだわらずブレンデッドも好みだ。

 日本酒は和食のコースの時か、鮨を食べる時は飲むんだけど、普段自分の家ではあまり飲む機会がない。だからまぁ、お店をバーにしたんだけれど、実はこのお店にも数種類だけど日本酒は置いてあるんだ。俺の料理は和食が多いのでそれに合う酒となると、やっぱり日本酒も置いておかないわけにはいかないからね。



 空いた器を下げながら、グレンフィディックをサーブすると…

 洋ちゃんが口を開いた。


「マスター! さっきの話の続きをお願いします」


 流石に忘れてないな。というか俺の方から話を振ったんだっけ…


「ん~1993年… だったかな、日本の調査捕鯨船が南氷洋に向かってインドネシアの海峡を通る時に、鯨を見つけたらしいんだよ」


 俺は年代とかを思い出しながら話を始めた…


「で、確認するために超音波を発射したという事なんだけど、普通… 鯨やイルカも音波を出しているので、予想外の音波が自分に当たった場合、それが何なのか確かめるために音源の方に向かって来るんだそうだ。それで危険がありそうだったら、反転して逃げるという習性があるみたいなんだ」


「へぇ、そうなんですか…」


「私もそんな習性は知らなかったんだけど… そういうものらしい。 ところが、その鯨は普通の鯨と違って、海中深く潜ったんだそうだ。普通の鯨と動きが違う… それで、こりゃ何か変だ。こいつは何だってことになって、捕鯨船の中では大騒ぎになったらしい」


 チェイサー兼食後の水を出しながら、俺は話を続けた。


「まず、赤道直下に鯨がいるのか? まるっきりいないとは言えないけどなんか変だ! もしかしたら鯨ではなくて、潜水艦じゃないかって事になって、インドネシアに問い合わせたら、現在はその海域で作戦行動をとってないから、オーストラリアか中国の物だろうから、座標を送ってくれないかって事になったらしい」


「結構、大事になったんですね」


「多分この後、インドネシア政府は、オーストラリアに抗議したんだろうな…」

 この部分は、俺の推測だけどね。


「他の国では、軍隊でしか使わないような高性能の探知機や、超音波発信機を捕鯨船に積んでるので、オーストラリアとしては危機感を持ったらしいんだ。

 オーストラリアは、長年太平洋の権益を欲しいと考えているんだけど、オーストラリアにとってインドネシアは太平洋に出るのに邪魔な位置にあるんだな。だからオーストラリアは潜水艦なんかを使用して行動していたんだが、日本の捕鯨船団がインドネシア領を通る事で、オーストラリアの潜水艦の行動がばれてしまうという事なんだ。

 知っての通り、潜水艦は隠密行動が基本だから、それを簡単に見つけてしまう日本の捕鯨船は、彼らにとってとんでもなくヤバイものだという話だ」


 空になったチェイサーのグラスに水を注いで、更に続けた。


「この話も、証拠がないっていうか、本当か嘘か分からない話だから都市伝説の域を出ていないんだけど、納得できるっていうか、ありそうな話ではあるよね。

 考えてみると、なぜ南氷洋の調査捕鯨だけが禁止になったか、なぜ牛や豚は良くて鯨はダメなのか、オーストラリアではカンガルーも食べるし、増え過ぎたコアラも安楽死させているっていう話だから、動物愛護ってのは理由にならないね」


「面白い話ですね。 確かにそんな話が本当だとすると、オーストラリアはインドネシア領を通過する日本の捕鯨船は邪魔でしかないでしょうね。どんな手を使ってでも、止めさせたいのはわかります」


「つまり、結局マスターも都市伝説好きって事ですか?」


「だからまぁ、どこまでを都市伝説っていうのかわからないけど、全ての都市伝説を完全否定するんではなくて、自分の興味を引いた話については、ちょっと調べてみようという感じかな。 今はネットがあるから、いろいろ調べられるでしょ」


「本当の話もあれば、ガセネタもありますよね」


「その通りだね。だから何かを調べる時は少なくとも3カ所以上のページを見る事にしている。その上でもし反対説もありそうだったら、そちらも読んでみて、結局自分で正しいか、正しくないかを判断する… というか、結論を導き出す… というような事をするしかないね」


「なんか、昨日… マスターは都市伝説を目の敵にしてるんじゃないかと思って、ちょっと気になったものですから」

「だから、昨日も行ったけど、ファンタジーとして考えるのなら何でも良いんだよ。 ヒストリーチャンネルなんて、ここんとこずっと『古代の宇宙人』っていう番組をやってるし。あれだけの科学番組局で、あれだけの根拠の怪しい番組を続けているんだから好きな人はいるんだろうね。それはそれで楽しんだらいいんだ。

 だけど、たまに彼らは『考古学者たちは、この事実を隠してる』なんて、証拠にも根拠にもなってない空想というか妄想物話でアカデミーの方に喧嘩売ってくる事があるから、面倒くさくて思わず否定的になってしまうのさ」



「大陸移動説なんて、発表された時はファンタジー扱いだっただろうね。今ではプレートテクトニクス理論は常識になっているけどな。

 まぁ、全ての物事は、自分がどの立ち位置で、どっちの方向を見るかで見え方が変わってくるからね」


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