マスターのつぶやき
エレベーターもエスカレーターも無いビルの4階のバーの話。
バーと言いつつ酒も洋酒にこだわらず、料理もスナック以外に日本料理も提供している。
そんなどこにでもありそうなバーの話なんだけど、料理以外にもちょっとだけ変わったことがあるんだ…
なんで、俺がこんなエレベーターも無いビルの4階に店を出したかというと、酔っ払いや短気な客が来ないようにだ。わざわざ、階段で4階まで来てくれるお客は、たぶん大丈夫だろう。つまり客を選んでるってわけだ。それに、家賃も安いからね。
ついでに言うと、失礼な客も苦手だな。俺に向かって「バーテン」なんて呼ぼう輩なら、ちょっとぼったくってやろうと思いたくもなるってもんだ。やらないけどな。
バーは紳士・淑女が魂を休める場所。くつろいで会話を楽しむ場所だというのが俺の考え方だ。酒を飲んで酔うのは良いが、無作法な酔っ払いには来て欲しくないってわけさ。
『バーは敷居が高い』
若いお客さんは、そんな事を言われる方もいるが、決してそんな事はない。バーだってサービス業だ。一見さんが常に入れ替わり立ち代わり入りそうな観光地は別として、サービス業はリピーターで持っている場合が多いので、普通はお客さんを大事にする。あの店はぼったくりだと噂がたてば、もう来てくれなくなっちゃうからね。
『バーは高い。そんな気取ったところで飲めるか』
と言われる人もいるかもしれない。確かに酒を飲むだけだったら、自分の好きなボトル1本買って、自分ちで飲めばバーで飲むよりは安上がりだ。だから店をやる方としては、ボトルの本数や、カクテルの腕、内装含め雰囲気などに付加価値を高めなければならない。 俺としては、マスターやお客さん同士の会話が一番の付加価値だと思っている。
例えば、水1杯にしても、水道水をそのまま出しているバーを俺は知らない。高い浄水器を付けてる店もあるし、水を買っている場合もある。そこはマスターの考え方次第だと思うな。
『酒の注文の仕方が分からない?』
そんな時は、正直にマスターに聞けばいいんだ。背伸びをせずに。
「今日、ウィスキーを飲んでみたくて初めてバーに入ったんですけど、お勧めありますか?」
なんて聞き方で十分だ。
「カクテルって飲んだことないんですけど、どんなのありますか?」
だって良い。
店によっては、やれシングルモルトだブレンデッドだ、重いの軽いの、ピートがどうのこうの言い出すマスターもいるかもしれないが、驚いちゃいけない。そんな時はマスターは嬉しくてしょうがないんだよ。日本人は、「教えたがり」が多いからな、おとなしく一通り蘊蓄を聞いてやるのがある意味大人のマナーってもんだ。
あまりにもうっとうしかったら…
「面倒くさいからビール頂戴」
と一言、言ってやればだいたい黙るよ。そしてかなりへこむはずだ。
因みに俺は、やったことないけどな。
客が店を育て、店が客を育てる。そんな場所でありたいのさ。
一番格好の悪いのは、必要以上に格好をつける事とシッタカする事だ。
「この店で一番高い酒をくれ」
っていうのは、どんなに金持ちになっても、バーでは止めといた方がいい。 スナックやクラブやキャバクラなら喜ばれるのかもしれないが、バーではこのセリフそのものが格好悪い!
あと、「コスパが良い店」だとか言うやつ。
コスパって何だよコスパって、意味わかって使っているのか?
もともとコスパってのは、機械を評価する時の指標として使い始めたものなんだよ。この機能を付加するのに何ドルかかっているかと言う事なんだ。日本語では「費用対効果」なんて訳し方したもんだから、勘違いしてるのが多すぎる。 本来ならば「費用対性能」だろ。
もともとサービス業や、料理なんかに使う言葉じゃないんだ!
もし使うとしたら、コスサと言ってもらいたいもんだね。
コスサ! これならまぁ、俺も他の店で高いなぁと思った時に考えるから、これからはサービス業なんかではこう言ってくれ!
うちの店はちょっと変わっていて、「バー」とうたっているが料理も自慢なんだ。刺身は勿論、焼鳥だってできる。スモーキーなアイラ・モルトで、炭火焼の焼鳥なんてどうだい? まぁ、そんな注文は常連客しかしないけどな、一見さんはたいてい食事の後に見える事が多いから。
あと、うちの店は4人以上連れ立って来店するお客様は常連さんでもお断りしている。まぁ、ドアの前で出会ったと言われれば別だが、基本3人までだ。4人以上だとどうしてもうるさくなってしまうからね。
ただし奥に個室があるから、そこを予約していただければ8人位までOKだ。防音がしっかりしているから、宴会もできる。
どうだい? こんなヘンコなマスターがやってる、うちの常連になってみるかい?
それには4階まで階段で上がる覚悟と、それともう一つ他の覚悟がいるかもしれないんだけどな…