第86話 シャオナもお風呂
ナナちゃんのときと同じで湯気に隠れて姿は薄っすらとしか見えない。
しかし周囲をキョロキョロと眺め回している様子はわかり、やがて足は木の器のほうへ向かう。
「きゃっ!?」
「あ、転んだ」
なんとなくそういうことになるんじゃないかと予想していた。
うつ伏せに転んだシャオナはヨロリと立ち上がり、目前にある木の器を掴む。
「なんじゃあの女。来てしまったのか」
「あれ? そういえばシャオナは脱衣場でなにしてたの?」
今さらだが、なんでナナちゃんだけ先に出てきたんだろう?
「ちょっと待っていろと言ってナナだけ出てきたのじゃ。あのアホな女のことじゃ。きっとにーにとナナが出てくるまであそこで待ち続けていると思ったんじゃが……」
なかなかひどいことをする子である。
身体を湯で清めたシャオナの足が湯だまりへと入る。
俺はとりあえずさっきと同じく目を瞑った。
「む、にーに以外にナナの美しい裸を見られるのは嫌じゃな」
と、ナナちゃんは俺から離れ、今度は背後から両手足でがっしり抱きついてきた。
「おわぁ……」
今度は背中に柔らかい感触が……。
目を閉じているからか、その小さな柔らかみを余計に鋭く感じてしまう。
「マオルドさーん。どこですかー?」
向こうも湯気で視界が悪いのだろう。寂しそうな声で俺を探していた。
「ここだよー」
「あ、はーい」
呼ばれたので返事をしてしまったが、これでは裸のシャオナがこちらへ来てしまう。
ナナちゃんのときはなんとか耐えたけど、魅惑的な裸体であろうシャオナが目の前に来たらたぶん、いや絶対に下半身が大変なことになってしまうのは明確だ。
「こ、ここは離れたほうが……おふぉっ!?」
下半身の大切な突起がなにかに挟まれて刺激を受ける。
「うん? なんじゃこれ? 足の裏でなんか硬いものを挟んだのじゃ」
「くああ……ナ、ナナちゃんちょっと……それ、挟むのダメぇ……」
「なんでじゃ?」
探るように両足の裏に擦られて、言葉にできないくらい大変なことになっていく。
「マオルドさんこっちですかー?」
シャオナの声はもう間近だ。
離れる前にナナちゃんをなんとかしなければならないが、言葉で言ってやめるような子でもない。
「ま、待ってシャオナっ! 俺は目を瞑ってるけど、君が側に来たら俺の裸が見えちゃうからっ!」
「大丈夫ですっ! がんばりますっ!」
「なにをっ?」
止めるのも聞かず気配がますます近付いて来る。
今の状態はかなりまずい
これを女の子……いや、誰に見られても恥ずかしい。
「のうのうにーに。この硬いのなんなんじゃ」
「ナ、ナナちゃん、お願いだから足を離してぇ……」
「なんでじゃ?」
いかん。これ以上は本当に大変なことになりかねない。
少し危険だが、立ち上がって逃げよう。
意を決して俺は立ち上がる。と、
――ぽよん
なにか柔らかいものが頭部に触れ、起立を阻まれた。
あれ? なんだろう? 頭になんかふわふわしたものが当たって立てない。
それでもがんばって立とうとすると、その柔らかいものは2つに分かれて包むように頭部を埋もれさせる。
なんか気持ち良いな。本当になんだろう? これ?
両手でそれを掴むと……
「あ、あうぅ……」
「えっ?」
悶えるようなシャオナの声が頭上より聞こえた。
「マオルドさんって……思ってたより大胆なんですね……」
「大胆? えっ? って……も、もしかしてこれって……」
掴んでいるものの大きさ。両手の指を抵抗なく沈み込ませるこの極上のふんわり加減。いつまでも触れていたいと思わせるこの幸せな感触はまさか……。
「ご、ごめんっ!」
「あ、待ってくださいっ」
引こうとした頭を掴まれ、柔らかみの谷へ埋め戻される。
「私のこと好きになってくれるなら……ずっとこうしていてあげてもいいですよ」
甘い声でシャオナは囁く。
「私だけをずっと好きでいてくれるなら……。愛し続けてくれるなら……」
「シャオナ……」
こんな状態でそんなことを言われたら……。
「俺は……いたたたたっ!!!」
不意に両の乳首へ激痛が走った。
「まただらしない顔をしおって。おしおきじゃ」
と、背中にしがみついて俺の乳首を摘まんで捻りながらナナちゃんは言う。
「いたたたっ! ナ、ナナちゃんから俺の顔は見えないでしょっ」
「見えなくてもナナにはわかるのじゃ」
実際、だらしない顔はしてそうであるが。
「シャオナ、にーにを離すのじゃ。でなければ今度はお前の乳首を捻って千切り取ってやるぞ」
「むー」
頭が解放された俺はふらりと退く。
同時に乳首を摘まむ指も離してもらえた。
俺はそのまま湯の中に座る。
目を閉じているので見えないが、シャオナは前に座ったようで湯が揺れるのを肌で感じた。
「ナナちゃんばっかりずるいです。そんな風に背中からぎゅっと抱きついちゃって」
「にーにはナナのだからいーんじゃ」
ぎゅーぎゅーとがっしりナナちゃんは抱きついてくる。
俺は至福の柔らかみに頭を包まれていた余韻でいまだに朦朧としていた。
「じゃー私は抱きつけない代わりにマオルドさんの裸をがっつり見学しますからー。おお、マオルドさんって、男らしい身体をしてるんですねー。腕太いですし、腹筋も割れてて……」
「んんっ」
俺の腹をなにか細いものがツーっと這う。
たぶんシャオナが腹を指でなぞったのだと思う。
「ま、まあ、普段は野良仕事とかしてるからね」
「こんなに立派な胸毛も生えてて……なんていうか、男性のこういう男らしい部分を目にすると、私の中の女がすごく刺激されちゃいますっ」
「おおぅ……」
胸毛の奥を指で撫でられ、身が悶える。
裸のシャオナにこんなことをされたら興奮せざる負えない。しかし我慢しなければ身体が恥ずかしいことになってしまう。
「こらっ! にーにに触ってはいかんっ!」
背中からナナちゃんが叫ぶ。
「へへーん。そこからじゃ手は届きませんよー」
「むーっ!」
ナナちゃんは俺の脇下から手を伸ばしているようで、そこが少しムズムズした。
「にーにっ! もっと前へ行くのじゃっ!」
「行ったらシャオナのその……あれをつねる気なんでしょ? ダメだよそんなことしちゃ」
「この女は一度、痛い目を見せてやらねばわからんのじゃーっ」
などと喚くナナちゃんの声を耳にしていたら少し気が紛れて落ち着いてくる。とはいえ、裸の美女が目前にいるという状況にはやはりドキドキが止まらなかった。
「そ、そういえばシャオナ」
「なんですかー?」
湯の下で俺の手を弄びながらシャオナが返事をする。
「あの……わき腹の怪我はもういいの?」
「怪我ですか? あ、はい。もう治ったみたいです」
「えっ? もう?」
傷は深くなかったが、怪我を負ってからそんなに経っていない。
まだ傷は残っているだろうし、痛むと思うのだが。
「はい。ここですよ」
「あっと……」
腕を引かれ、指先がなにかに触れる。
柔らかく滑らかな感触は、シャオナのわき腹だと思った。
「あ、えっと……こ、ここなの?」
「はい。すっかり治ってるでしょう?」
目を閉じているので見ることはできないが、確かに指で触れてみた限りでは傷跡らしい感覚は無い。あるのは滑らかな肌の感触だけだ。
「私って傷の治りが普通の人より早いんですよねー。理由はよくわからないんですけど」
「そうなんだ。俺も傷の治りが早いって言われるけど、シャオナほどじゃないなぁ」
俺も傷の治りが他より早いらしい。シャオナと同じく理由はわからないけど。
「じゃあ一緒ですねっ」
「そうだね」
なんだか嬉しそうなシャオナの声に俺は同意する。
それからしばらく3人で湯を楽しみ……。
「そろそろ出ようか。なんか喉も渇いてきたし」
「そうですね」
「あ、シャオナは先に出て着替えてて。俺はあとで行くから」
「えー一緒でもいいですよー。もう裸の付き合いをした仲なんですし」
「い、いやでも……いたたたたっ!」
乳首を捻られる激痛に俺は悲鳴を上げる。
「いいから早く先に行くのじゃ」
やっていることは乱暴だが、声は冷静にナナちゃんは言う。
「ぶーわかりましたぁ」
立ち上がったらしいシャオナがじゃばじゃばと湯を鳴らして離れていく音が聞こえる。
そのうち脱衣場の扉が開閉する音を耳にし、彼女が湯殿から去ったことがわかった。
「じゃあしばらくしたらナナちゃんが先に行ってね。俺はそのあとで行くから」
ようやく俺の背から離れたナナちゃんは、湯の中を移動して恐らく俺の前へ来た。
「いや、にーにに少し話がある。ついて来るのじゃ」
「えっ? っと……」
小さな手が俺の手を掴んで引いて行く。
そのまま湯だまりから上がった俺は、
「そこへ横になるのじゃ」
石畳の床へ横になるよう言われる。
「どうして?」
「いいから」
言われるがまま、俺はそこへ仰向けに倒れる。
「目は閉じておるな?」
「う、うん」
なにかされるのかな?
なにも見えない中、俺はナナちゃんの行動を待っていた。
「ナ、ナナちゃ……んくっ」
なにか柔らかくて温かいものが口に押しつけられる。
なんだかはわからないが、覚えのあるような気もするものだ。
「これから大事な話をするから目を閉じたままよく聞くんじゃぞ」
「んんぅ?」
顔の上からナナちゃんの声が聞こえる。
隣に座って俺の顔を覗き込んで話しかけているのだろうか? そんな距離だ。
「んーんんぅ?」
それよりまず、この口に押し付けられてる柔らかいものはなに?
と聞きたいが、口が開けず声が出せないので言葉にならない。けど、なんかふわふわ温かくて気持ちいいな。本当になんだろう? これ? ナナちゃんの腕? 脚? 身体のどこかだと思うけど、確信が持てる箇所は想像できなかった。
「ん……まずひとつじゃが……の、にーに」
なにか言いづらそうな様子でナナちゃんは話を始める。
「シャオナはの、ん……たぶん魔人じゃ」
「んんっ?」
その言葉に驚いた俺の声は、柔らかいなにかに阻まれて口から漏れることはなかった。
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