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第83話 2人の若者たち

 放たれた矢が集団に向かって進む。

 やや手前を走る少女の馬を追い越し、矢は先頭の盗賊らへ――。


「あっ!」


 盗賊のひとりが馬上から落ちる。


「あ、当たったのかっ!?」


 まさか。

 しかし落馬した盗賊の側を駆け抜けたとき、セルバートは見た。その盗賊の背に深々と矢が刺さっているのを……。


「まずは1人」


 なんて奴だ。

 これほどの技をやってのけたというのに、喜ぶわけでもなく冷静な面持ちで2本目の矢を弓につがえている。そして射られた矢がまたも盗賊の背を射貫いて落馬させた。


「2人」

「す、すごい。このまま全員を仕留められるんじゃないか?」

「いや、それは無理だ」


 3本目の矢を弓につがえつつヘイカーは言う。


「連中も馬鹿じゃない。ただ狙い撃たれていたりはしないさ」

「えっ?」


 放たれた矢が3人目を馬から落とす。


「む……3人で限界か」

「どういうことだ? あっ」


 7人となった盗賊らのうち、5人の乗る馬が左右に開いて移動し、ゆっくりと速度を落としていく。


「こっちを攻撃に来るのかっ!」

「ああ。左右に広く開いて移動して来るのはキーラキルを避けるためだろう。近付けば一瞬でやられるからな」


 前を走る少女の馬は、離れた盗賊など意に介さず前の2人を追っている。エミーリア様を解放することが目的だから、他の盗賊がうしろの2人を攻撃しようとどうでもいいということだろう。


 こちらへ近付いて来る盗賊らは全員が見るからに屈強で、乗っている馬のほうが小さく見える。


 迎え撃つため、セルバートは腰の剣を抜く。


「セルバートっ!」

「カナリア様っ!」


 エミーリア様を小脇に抱えて馬を走らせる盗賊までおよそ5馬身ほどと迫った。ここまで来て無様にやられるなどありえない。


「ここは俺が引き受ける。先へ行け、ヘイカー」


 立った状態から馬上に腰を下ろしたヘイカーに言う。


「見てわかる通り連中はかなりの猛者だよ。失礼だけどあなた1人で勝てるとは思えない」

「舐めるな。雑魚でジャスティスの副団長が務まるわけはない」


 とは言うものの、傭兵団ではエミーリア様のサポートや団員への指揮が主で、自らが剣を持って戦うことは少ない。剣技に自信はあるが、戦い慣れているであろうデーモンアイの盗賊らを5人も1人で相手にして、はたして生き残れるであろうかはわからなかった。


「そうか」

「ああ。だからお前は先に……」

「俺が3人をやる。あんたは2人を頼む」

「いや、先に行けと……」


 しかしヘイカーは話を聞かず、腰の剣を抜いて盗賊らへ向かってしまう。


「くっ、しかたない」


 それに付いて行く。と、


「あっ」


 左から襲い来る2人の盗賊を迎え撃とうとしたそのときだった。連中2人の肉体が一瞬で四散し、走る馬から崩れ落ちる。


 なんだ?


 そう思ったのも束の間、盗賊らが乗っていた馬の脇を抜けて少女が乗る馬がこちらへ近付く。


「お、お前がやったのか?」

「くだらない質問だ」


 少女……キーラキルだったか。


 冷たい彼女の視線はセルバートではなく、乗っている馬のほうへ向けられていた。


「その馬を寄こせ。こいつじゃ追いつけない」

「えっ?」


 有無も言わせず、キーラキルはセルバートの首根っこを掴み、なんと片腕の力だけで持ち上げて自分の乗る馬へと乗せる。

 それから一瞬で彼女はセルバートの馬へ乗り換え、あっという間に前方へ向かって駆けた。


「な、なんだ? なんなんだあの少女は……? いやしかし、これでよかったのか」


 あの少女は強い。速い馬を託せば必ずやエミーリア様を救出してくれるはず……。


「セルバート様っ!」

「ガルシェ、ノイリスか」


 後方からようやく仲間の2人が追いつく。


「エミーリア様はっ?」


走る馬の上からガルシェが叫ぶように問う。


「あれだ。しかし我らの馬で追いつくのはもはや難しい。追いつくころには国境を超えてしまうだろう。そうなれば終わりだ」

「で、では……」

「あの少女に託すしかない。いや、もうひとりいたか」


 手綱を引いたセルバートは馬の首を右方向へ向ける。


「付いて来い。あの少年に助太刀する」

「し、しかしエミーリア様はっ?」

「2人の若者に託すっ!」


 こうなってはそれしかない。


 2人の部下を連れてヘイカーのもとへ馬を走らせる。

 ヘイカーはすでに1人の盗賊を倒しており、残りの2人と激しく騎馬戦を繰り広げていた。


「たいした奴だ」


 自分よりも身体の大きな屈強な男ら3人と戦い、すでに1人を倒している。残りの2人とも互角以上の戦いをしていた。


「ヘイカーっ!」

「えっ? セルバートさん?」


 剣を振り上げて戦いのあいだへ割って入る。


「先に行けっ! ここは俺たちが引き受けたっ!」

「で、でも……」

「俺のことなら心配するなっ! 仲間が来たっ!」


 うしろからやって来たガルシェが盗賊へ斬ってかかり、離れた場所からノイリスが矢を放つ。


「だからお前は早く連中を追えっ! カナリア様を頼んだぞっ!」

「わかったっ!」


 盗賊をかわしてヘイカーは先へ進む。


「任せたぞっ!」

「カナリア様を救ってくれっ!」

「ああっ!」


 ガルシェとノイリスの言葉に強い声で答えたヘイカーは、まさに矢のような速さで馬を走らせ、先を行く盗賊らを追って行った。

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