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第81話 シャオナの抱えている問題をエミーリア様に話す

 セルバートさんが持ってきてくれたお茶を飲みながら、俺はしばし沈黙する。


 ……しかし話せばこの件にエミーリア様とハシュバントさんを巻き込んで危険な目に遭わせてしまうかもしれない。だがそれはルナリオ様も同様だ。


「あの……マオルドさん? どうかなさいましたか?」

「あ、いえその……申し訳ございません。ルナリオ様を危険に巻き込んでしまう可能性があることを先に謝らせてください」

「危険なことですか……」


 暗い面持ちでエミーリア様はそう言葉を吐いた。


「その危険な問題を話していただけますか?」

「ですが、話せばエミーリア様とハシュバントさんもこの件に巻き込んで危険な目に遭わせてしまうかもしれません」

「わたくしは、あなたの父であるヘイカー様に恩義のある身です。あの方の子のためならば危険な目に遭っても構いません」


 堂々と、はっきりした言葉でエミーリア様は言う。


「俺もエミーリア様と同じ思いっすよ。俺で力になれるならなんでも頼ってくださいっす」


 と、ハシュバントさんは俺の肩を叩きつつそう言ってくれた。


「けど、恩があるのは父にではないですか。それを息子の俺が返してもらうなんて……」

「ヘイカー様にとってマオルドさんは大切な存在です。恩ある人の大切な存在を助けることも、恩返しになるでしょう」

「そ、そうでしょうか? あ、いえ、ありがとうございます」


 やっぱりちょっと納得できないが、シャオナを助けるためだしここは甘えさせてもらうことにした。


「ですが……ルナリオは違います」

「えっ?」

「冷たいことを言うようですが、危険を犯してまであの子がマオルドさんたちを救う理由はありません」

「そ、それは……そうです。もちろん」


 本当にそうだ。肯定以外に返す言葉は無い。


「以前にどこかであの子にお会いしましたか?」

「あ、はい。先日……」


 俺は昨日にルナリオ様と出会い、なにがあったかをエミーリア様に話す。


「……そうですか」


 話を聞いたエミーリア様はお茶を一口飲み、それから一息つく。


「あの子はあのような性格です。きっとどんな危険な頼みごとをされても嫌とは言わず、むしろ喜んで承諾をするでしょう」

「……」

「だから怖いのです。いつかあの子が大変な危険に巻き込まれて命を落とすのではないかと」


 もっともな懸念だ。

 あの人は強い。だから気軽に頼ろうとしてしまった。それが誤りであったことを、エミーリア様の言葉を聞いて自覚した。


「……申し訳ありません。俺たちはルナリオ様に甘えようとしていたのかもしれません。エミーリア様のお気持ちも考えず、軽率でした」

「いえ、あの子は強さを持っていて頼りがいのある子ですから、助力を求めようとするお気持ちは理解できます。きっと困難な問題を抱えていらっしゃるのでしょう」

「は、はい」


 俺はシャオナのほうへ視線を向ける。


「すかー……」

「って、寝てんのっ!?」


 あろうことかシャオナはエミーリア様の前だというのに、身体を反らせ寝息を立てて眠っていた。


「ちょ、ちょっとシャオナっ! なにこんなとこで寝てんのっ! 失礼でしょっ!」

「すかー」

「緊張感の無い女じゃ」

「いや、そうだけど君が言えることじゃないからねっ」


 偉い人の前で太々しいのは同じである。


「シャオナっ!」

「……んあ? ご飯ですかぁ?」

「違うよっ。こんなところで寝ちゃダメっ」

「んんー……あい」


 伸びをしたシャオナが身体を前へ起こす。


「すいません……。お話聞いてたら眠くなっちゃいまして……」

「しょうがないなぁ。君のことで来てるんだからしっかりしてね」

「あい」


 返事はするものの、やっぱり眠たそうなシャオナであった。


「あの、そちらの方は……?」

「あ、と……彼女はシャオナと言って、仮面をつけているのには事情がありまして……その、と、ともかく見ていただけますか?」


 俺は眠そうなシャオナの鉄仮面を掴んでゆっくりと……


「あっ」


 外す。

 小さく声を上げたのはエミーリア様だった。


「イルーラ姫……ではありませんね」

「わかりますか?」

「ええ。彼女の胸はその……そんなに大きくありませんから」


 ほんのり頬を染めつつ、エミーリア様は答える。


「しかしよく顔は似ている、というより同じですね。これはどういうことでしょう?」

「はい。実はこのシャオナは命を狙われていまして……」


 シャオナの抱えている厄介な事情。

 命を狙われているらしいイルーラ姫の身代わりにされたことを俺は話す。


「……なるほど。イルーラ姫には困ったものですね」


 呆れるようにエミーリア様は言葉を零す。


「はい。それで同じ王族のルナリオ様にイルーラ姫様を説得していただいて、シャオナを解放してもらおうと考えたのです」

「ふむ。確かにルナリオが説得すれば、強情な性格のイルーラ姫も受け入れるかもしれませんね。彼女はルナリオに心を寄せていましたから」

「そ、そうなんですか」


 まあ不思議はない。いとこでも女性ならルナリオ様に惚れるのは当然だ。男としても人間としても良い人だし、彼をなんとも思わないナナちゃんやシャオナが変わっているのだと思う。


「イルーラ姫の説得ならルナリオに任せるのが適任でしょう。しかしその、イルーラ姫の命を狙っている者のことが気掛かりですね。それが誰かはわかっておりますか?」

「あ、はい。えっと、狙っているのは傭兵らしいんですけど、依頼主はわかりません」

「……傭兵ですか」


 そう呟いてエミーリア様は俯く。


「その依頼主に心当たりはあります」

「えっ? 本当ですか? それって……」

「確かではありません。ともかくまずはイルーラ姫を説得して、シャオナさんを身代わりから解放してもらいましょう」

「そ、そうですね」


 依頼主に心当たりというのも気になるが、まずはシャオナの件を解決するのが重要だ。と言うか、シャオナがイルーラ姫の身代わりから解放されれば、あとは無関係だし、知らなければならないというわけでもない。


「しかし妙ですね」


 と、エミーリア様は首を傾げる。


「妙、と言うと?」

「はい。イルーラ姫は……なんというか、身内の恥を晒すようであまり言葉にすべきではないのですが、その、彼女は好戦的なのです」

「好戦的……ですか」


 お姫様なのに? と考えるのは固定観念というやつだろうか。

 まあシャオナを自分の身代わりにしたくらいだし、エミーリア様のような淑やかでやさしい人でないだろうことはわかる。


「はい。戦うことが好きで、命を狙われているならば返り討ちにしようと考えるはず。それが身代わりを立てて隠れるようなまねをしたことを妙に思うのです」

「そう、ですね。シャオナはイルーラ姫様からなにか理由みたいの聞いてない?」


 隣でうつらうつらしてるシャオナに聞いてみる。


「えっとぉ……うーん。特に……。無理やりイルーラ姫様の鎧を着せられて王都へ行けって村を追い出されただけですしぃ……」

「そっか。ナナちゃんはどう思う?」

「どうもなにもない。会ったことも無い人間の心中などわかるはずもなかろう」

「まあそうだよね」


 さすがのナナちゃんでも、わかるはずはないか。


「しかしもしかすれば」

「えっ?」

「……いや、なんでもない」

「そう」


 なんだか少し暗い声だったけど、どうしたんだろう?


「あ、えっとその……それでイルーラ姫様の説得にルナリオ様の同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「そうですね。説得に適任なのがあの子ならばしかたないでしょう。それにこれは王族の問題でもありますし、できれば内々に事を治めたいですし……」


 そう言葉を漏らすエミーリア様の表情はとても憂鬱そうだった。


「あ、ありがとうございますっ。それで早速ですが、ルナリオ様は今どちらに?」

「あの子は今、公務に出掛けていまして、早ければお昼ごろには帰って来るでしょう。傭兵の真似事などをやっていなければですが」

「そ、そうですね」


 エミーリア様の雰囲気から察するに、ルナリオ様が傭兵をやっていることはあまり快く思っていないようである。いや、危険だし親なら当然だろう。


「あの子が帰るまでに時間がありますし、昔話をお聞かせしましょうか」

「昔話? あっ、はいっ。ぜひお願いしますっ」


 それを聞きに来たというのもある。


 親父と母さんがデーモンアイを追ってそのあとにどうなったのか? それを聞くのがすごく楽しみだ。隣で寝息を立てているシャオナはもう放っておこう。


「ではセルバート、あのときのことを皆様に話してくださいますか?」

「はい奥様」


 エミーリア様の言葉を聞き、セルバートさんがそれを笑顔で承諾をする。


「えっ? セルバートさんが、ですか?」


 あの場にいたエミーリア様から話を聞けるものだと思っていたが。


「はい。今は我が家の執事をしているセルバートですが、20年前はジャスティスの副団長をしていたのです。ふふっ、そうは見えないでしょうけど」


 クスリと微笑むエミーリア様から視線をセルバートさんへ移す。


 セルバートさんは上品な老紳士という風貌で、傭兵なんて荒っぽいことをやっていたようにはとても見えない。まあそれはエミーリア様もだが。


「あのときのことはよく覚えています。奥様……カナリア様が盗賊に連れ去られ、私たちジャスティスの傭兵たちはそれを追いました。しかし我らよりも一足先に追った者がおりまして、それがヘイカー様だったのです……」


 淡々と、セルバートさんの口から過去が語られ始めた。

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