第73話 続きを知る2人のジャスティスとは
……と、そこまで話して、ハシュバントさんは水を飲む。
「そ、それでそのあとどうなったんですか?」
俺は続きを催促するが、
「えっ? あ、いや、このあとのことはあんまり詳しく知らないんす」
「えー……」
「すいません。俺とライアスさんは追わなかったんで、あのあとどうなったのかは、団長に聞いた話でしか知らなくて……」
「親父はなんて言ってたんですか?」
「まあ……キーラキルさんやジャスティスの人たちと盗賊を倒してカナリアさんを助けたって、それだけ聞いたっす」
「あ、そう……なんですか」
結果だけ聞くとなんとも味気ない。というか、結果よりも一体どんな戦いが繰り広げられたのかそれが聞きたかったのだが……。
「俺も気になってくわしく聞いたんすけどね、んー……やっぱりその場にいなかった俺じゃうまく話すのは難しいかもしれないっすね」
「そうですか……」
「あ、でも、あのときキーラキルさんとなにかあったんでしょうね。帰って来たとき、お2人の仲が良くなっていたので。もしかしたら結婚をする切っ掛けがあったのかもしれないすね」
「親父と母さんが結婚をした切っ掛け……」」
気になる。しかし母さんはいないし、親父は今まで傭兵時代の話はしてくれたことがない。どうにかして先を知る方法はないものか……。
「他に話をできる人はいませんか? ジャスティスの人とか……」
「あー……ジャスティスはもう解散してまして、当時の団員さんが今どうしてるとかはわからないんですよね」
「あ……そう、ですか」
俺はがっくりと肩を落とす。
「はい。……まあ、ひとり、いや2人だけどうしてるかわかる人はいるんすけど」
「えっ? あ、じゃあその人たちに話を聞いたりってできますか?」
「で、できなくはないすけど……」
「ぜひお願いしたいですっ! その人に会わせていただけませんかっ? ハシュバントさんっ」
「あ、いやその……そんな気軽に会える人じゃないんすよ」
「気軽に会える人じゃない? どちらもですか?」
「ええまあ。2人はともにいることが多いっすからねぇ」
気軽に会えない。ともにいることが多い。それってどういうことだろう?
と、そこで俺はルナリオ様のことを思い出す。
「あ、ハシュバントさん、話は変わるんですけど、ルナリオ様のことはご存じですか?」
「えっ? ルナリオ様ですか? それはもちろん……。でもどうしてすか?」
「実は昼間にちょっとした偶然でお会いしたんですけど、理由があってもう一度お会いできればと思いまして。もしかしてハシュバントさん、ルナリオ様に会う方法ってご存じありませんか?」
ダメもとで聞いてみる。
ハシュバントさんは王都に住んで長い。もしかすれば王族と会う方法を知って……いるわけないだろう。さすがに。本当にダメもとである。
「あーえっと……」
しかしハシュバントさんは否定せず、なぜか難しい顔をしていた。
「……えっ? も、もしかしてハシュバントさん、ルナリオ様に会う方法をご存じなのですか?」
「ま、まあ知らなくも無いんすけど……」
とは言え、そう簡単ではないようである。
「なんとか会わせていただけませんか? 聞いてもらえるかはわかりませんけど、ルナリオ様にお願いしたいことがあるんです」
俺はチラと隣のシャオナに視線をやる。すでに食事は終えて、テーブルに突っ伏して寝ていた。
「……わかりました。では明日にでも」
「あ、ありがとうございますっ!」
「はい。あと、元ジャスティスの人から話を聞くこともたぶんできるっすよ」
「えっ? そうなんですか? それは嬉しいですっ」
気軽に会えない人らと言っていたが、大丈夫なんだろうか? なんだか大変なことを2つも頼んでしまい、申し訳ない気持ちだ。本当にハシュバントさんには世話をかけっぱなしである。
食事を終えた俺はハシュバントさんと2人でシャオナを寝室のベッドへ運ぶ。それから俺はナナちゃんを連れ、自分の寝室へと入ってイスへと座った。
「明日も忙しそうじゃの」
「そうだね」
こちらを見上げるナナちゃんを抱き上げて膝の上へ乗せる。
「でもハシュバントさんってすごいね。王族と会える方法なんて知ってるんだから」
「まあ、さっきの話を聞けばハシュバントおじさんがルナリオと会える理由にも納得がいくのう」
「? どうゆうこと?」
「明日になればわかるじゃろ。それよりもにーに」
一度、膝から降りたナナちゃんは、こちら側を向いて俺に抱きつく形でふたたび膝の上へ座ってきた。
「今日はなんじゃ? シャオナの前でだらけた顔をしおって」
「だ、だらけたって……」
否定はできないが。
「男がああいう顔をするでない。ナナは恥ずかしいのじゃ」
「そう言われてもね……」
なんて言ったらいいかな? 俺も男だからなんて子供に言うのも変か。
「男は女に言い寄られても表情を変えずに凛々しくあるものじゃ」
「まあそうできたら格好良いのかもしれないけど……」
「そうできるようになるのじゃ」
俺から離れたナナちゃんはベッドへと腰掛ける。
「来るのじゃ」
「えっ? うん」
呼ばれて俺はイスから立ち上がり、ナナちゃんの前へ行く。
「しゃがむのじゃ」
「う、うん」
また殴られるのかな?
そんな気がしたが……。
「あっ……」
しかしそうではなく、ナナちゃんは俺の頭をやさしく胸に抱く。
「ナナだけを女と思えばよい。そうすれば他の女を相手にだらけた顔をすることもあるまい」
「い、いやそれは……」
なぜかこうされるとすごく落ち着く。シャオナのように豊満で柔らかなわけでもないのに、ナナちゃんの胸に抱かれるとすごく安心ができた。
「わかっておる」
「えっ?」
「なんのかんのと言っても、ナナはやはり子供じゃ。大人のように頭を使えても、身体はこんなにも未熟で幼い。にーにがナナを女と見れなくてもそれは当然じゃ」
「う、うん……」
実際はまったく見れないというわけでもないのだが……。
「悔しいのう。ナナがあと5年は早く生まれておれば、にーにをナナだけのものにできたというに」
「そういう問題かな?」
「他にどういう問題がある? 5年もすればナナの胸もシャオナほどになるのじゃ」
さすがにそれは無いだろう。5年後でもナナちゃんは13歳だし、あんなに大きくはならない……と思うけど。
「いや、胸はともかく、だってナナちゃんは義理でも妹だし」
「またそれか。にーにはナナが好きではないのかの?」
「好きだけど……」
「ならばなにも問題は無い」
「な、無いかな?」
「無い」
じゃあ無いのかな……。
まあ義理だし、無いと言えば無い。
「しかしにーにをナナだけのものにするには、まだ魅力が足りない。やはり5年は必要じゃな。5年してナナが成長すれば、にーには他の女など眼中から無くなるじゃろう」
「そんな、好きな女性を身体で判断したりしないよ。俺は」
「そうではない。成長をすればにーにはナナをはっきり大人と認識できるようになるじゃろ。そういうことじゃ」
「う、うん。でも成長すればナナちゃんも考え方が変わるんじゃないかな?」
「どういうことじゃ?」
頭を胸から離したナナちゃんが俺の目をじっと見下ろす。
「その……他に気になる男の人ができるとか、さ」
「ルナリオのことかの?」
「えっ? あ、いやその……」
口篭ると、ナナちゃんはふたたび俺の頭を胸に抱いた。
「わかっておる。嫉妬というやつじゃな」
「嫉妬だなんて。俺は……」
「嫉妬じゃ。違いない。ナナにはわかるのじゃ」
「うう……。まあ、うん……。そうかも」
「そうなんじゃ」
否定はできない。確かにそういう感情があったのも事実なので。
「まあ嫉妬もしかたないの。あれは良い男じゃ。髪は女のようで気に食わんが、顔は美形じゃし背も高い。一本芯の通ったまっすぐな性格も好感が持てる。悪いところの無い男じゃ。多くの女があの男を好むのも納得がいくのう」
「やっぱりナナちゃんもルナリオ様が好きなの?」
「嫌いではない。ナナを大人の女として扱ってくれるしの」
「そ、そっか……」
ルナリオ様は貴族で立派な紳士だ。見た目も中身も良いところばかりだし、嫌う理由など無い。戦いも強いしで、俺なんかとはくらべるのも失礼なほど良い男である。
「やっぱり女の子ならルナリオ様を好きになって当然だよね。うん。わかるよ。俺だって女の子ならたぶん惚れていただろうし……」
「なにを言ってるんじゃ? にーには男じゃろ」
「いや例えばの話でね」
「それにナナはあの男を嫌いではないと言ったが、惚れたなどとは言っていないじゃろ」
「まあそうだけど……。なんか仲良さそうだったから」
「試していただけじゃ」
「試した?」
って、どういうことだろう? 全然わからないけど……。
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