表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/101

第70話 開戦

 ――来た。


 剣の柄を握るハシュバントの手に汗が滲む。

 身を隠している茂みの隙間から覗き見えたのは、こちらへ向かって駆けて来るジャスティスの一団。そのうしろからは見慣れた荒々しい集団が追って来る。


 あと少し……もう少し。


 周囲の動きを気にしながら慎重にタイミングを読む。

 ここから飛び出すまでもう寸刻も無い。


 まだか……今か……まだ?


 ジャスティスの一団が目の前を通り過ぎて行く。

 そしていよいよ、デーモンアイの盗賊集団が眼前へと現れた。


 い、今かっ?


 そうハシュバントが思ったとき、真っ先に茂みから飛び出した男がいた。


 ヘイカーだ。

 彼は誰よりも早く飛び出し、盗賊をひとり斬り倒す。


「ぎゃあっ!?」


 その叫びを切っ掛けに味方の全員が茂みや木の陰、木の上から飛び出して盗賊へ襲い掛かる。

 やや遅れてハシュバントも茂みを出た。


 森の中だ。昼間でも周囲は薄暗い。

 しかし元盗賊であるハシュバントはこういう環境での活動に何度か経験があり、視界の悪さに焦るということはなかった。


「ま、待ち伏せかっ!?」


 盗賊の誰かが叫ぶ。

 その盗賊を背後から斬りつけて倒す。


 戦いは一方的だ。

 すぐに戻って来たガーディアンの一団も加わり、盗賊らは傭兵たちによって一網打尽とされた。


「お、終わったか?」


 必死に戦っていて、気付けばもう誰も動いていない。自分が一体、何人の盗賊を殺したのか? 他の傭兵は何人くらい盗賊を殺したのか? そんなことを考えつつ、ハシュバントは周囲を見回していた。


「へへ……なんだ楽勝じゃねぇか」

「少しビビッて損したぜ」


 場の緊張が解けていく。

 勝利の空気を感じ、ハシュバントはホッと一息ついた。


 生きている。それどころか傷も無い。

 ここに無事立っていることがまさに奇跡のように思えた。


「あ……ヘ、ヘイカーっ。ライアスっ」


 友人らの名を呼ぶ。

 自分の戦いに必死で、彼らを気にかける余裕はなかった。しかしあの2人だ。まさかのことになっているはずは無いと思うが……。


「こっちだハッシュ」

「えっ?」


 背後からの声に振り返ると、そこにはライアスが。そしてその隣にはヘイカーがいた。


「あ、ヘイカーっ、ライアスっ」


 無事な2人を前にして安堵する。

 怪我も見当たらず、にこやかな様子でそこに立っていた。


「よかった。怪我とかは無いみたいだな」

「ああ。というか、ずっとお前の側で戦ってたんだ。もしかして気付いてなかったか?」

「えっ? そ、そうなのか?」


 まったくわからなかった。2人が側で戦っていたなんて。


「はは、ハッシュは必死な様子だったからな」


 ヘイカーが笑顔でそう言う。


 もしかしてこの2人が自分を守りながら戦ってくれたのだろうか? いやそうに違いない。そうでなければ自分は少なくとも怪我はしていたと思う。


「まあみんな無事でよかったぜ。ヘイカー、お前、キーラキルの側にいなくてよかったのか?」

「いや、その……気付いたらどっか行っちゃってた」

「お前が女を見失うなんて珍しいな」

「うん……」


 逃げられたな。

 戦いが始まって自分から注意が逸れた隙にヘイカーの側を離れたのだろう。


「ぶ、無事かな? 俺の側を離れて平気だったかな? キキちゃん」

「さあな。俺はどさくさに紛れてあの女がお前を殺すと思ってたぜ。意外に好かれてるのかもな」

「意外ってことないだろ。かなり好かれてるぞ」

「そうかい」


 肩をすくめるライアス。そんな2人のやりとりを見てハシュバントは苦笑した。


「俺、キキちゃん捜してくるよ」

「向こうは捜してほしくないんじゃないか?」

「無事を確認しないと不安でしかたないよっ」


 そう言ってヘイカーが捜しに向かおうとしたとき……。


「なにか……変だ」


 誰かのそんな声が聞こえた。


「うん? あれはジャスティスの傭兵か?」

「そ、そうじゃないかな?」


 ライアスに答えつつ、なんとなくハシュバントは嫌な予感がした。


「俺はデーモンアイの盗賊と何度かやりあったことがあるが、奴らはこんなに弱くはなかった」

「それはこっちの作戦に嵌って、奴らがビビってたからじゃねーの?」


 と、他の傭兵は言うが、


「そうかもしれない。けどなにか納得できない。妙な気がする……」


 勝利の喜びから一転、不穏な空気が広がる。


「ま、まあとにかく先へ進もうぜ。アジトにはまだ連中の残りがいるんだろ? そいつらを倒せば終わりだって」


 そうだ。アジトに残っている奴らがまだいる。なんにせよこれで終わりではない。


「進みましょう、みなさん。いずれにせよ先へ進まなければこの戦いは終わりません」


 先を見つめつつ、カナリアが声を上げた。

 ……そのとき、


「――その必要はありませんねぇ」

「えっ?」


 誰かの声が聞こえた。

 傭兵の誰かではない。森の奥から嘲笑うようにその声は聞こえてきた。


「何者ですか?」


 落ち着いた声音でカナリアが森の奥へ問いかける。その問いかけに応じるように、木の陰から女がひとり姿を見せた。

ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ